表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第9章 異界の旅路編
309/359

309

 ヤマトが異界で何をしたのか。

 俺は気付いた。気付いてしまった。


 魔界の住人の改造……意識革命でもいい。

 とにかく、魔界の住人のアイデンティティを崩壊させることを堂々としていたのだ。


 俺の持っていたヤマト像がここで崩れた。


「だいたいおかしいんですよ。常秋の山林には戦える種族があまりに少ない。魔界にいた俺からすれば、ありえないことです。上位種族が少ないのはいいとして、戦闘種族と非戦闘種族の比率がおかしい」


 暴言だという自覚はある。

いつ殺されるのか、ヒヤヒヤものだ。だけど俺は続ける。


「違和感はまだあります。魔界ではレッドキャップ族はいますけど、赤帽子族・・・・はいません。いつ種族名が変わったんでしょうね」


 邪妖精種のレッドキャップ族は、れっきとした戦闘種族だ。

 インプ族のように数が多くて弱いが、非戦闘種族ではない。


 最初、非戦闘種族系に進化して定着したのかと思ったが、そんなわけがない。

 異界で何がおこったのか?


 種族名がかわり、非戦闘種族になった理由。

 俺はジュガと旅をする間、それを考えていた。


 種族間で戦闘を禁止され、それが何世代も繰り返していく。

 いつしか種の闘争本能が薄れ、戦いを求めなくなったのだろうかと考えた。


 種族の名は魂に依存する。

 魂が本来持っていたレッドキャップ族と乖離したことで、別の名前が頭に浮かんだとしても不思議ではない。


 そうして異界では、レッドキャップ族が消え、赤帽子族が生まれた。


 これは進化だろうか? いや違う。

 方向性を定めて、その通りに種族を変えたのならそれは改造だ。


 ヤマトは、戦闘種族を非戦闘種族に改造しようとしている。現在進行形で。


「寿命が短く、世代交代の激しい種族はもう、戦いの記憶が薄れているんじゃないですか?」


 俺の問いかけに、ヤマトは「よく分かったね」と認めた。

 それはもう、あっさりと。拍子抜けするほどだ。


 俺の予想は当たっていたようだ。当たってほしくなかったのだが。


「この『四季の庭』は箱庭なんですね。魔界の住人の戦闘意識を失わさせ、骨抜きにするためにつくられた偽りの世界。まさか魔界に帰らない理由がこんなことだったなんて……」


 ガッカリだよ、もう。


「それは違うかな。違わない部分もあるが、すべてではない」

 ヤマトは否定したが、理由はどうあれ、やっていることに変わりはない。


 ジュガの一族がこんな調子なら、他の種族も似たようなものだろう。

 ボージュンの「上位種族は少ない」という言葉。


 これだって、うがった見方をすれば、叛乱をおこして淘汰されたことも考えられる。

 意図的に減らされたのだ。


 ここで問題になってくるのは、ただひとつ。


 ――なぜ、そんなことをしたのか


 ヤマトが人界にやって来たのは、結界が張られた後だ。

 いつ異界を造ったのかは分からないが、その時にはもう「今の状況」を考えていたのかもしれない。


「目的は……人類との融和?」


 俺が予想できるのは、これしかない。

 果たして、正解か不正解か。


「驚いたね。とても魔界から来た者とは思えない洞察力だ」

 ヤマトが素直に関心している。


 俺がその発想に至ったのは、人間だったときの記憶があるからだろう。

 人間と魔界の住人両方の考えが分かるからこそ、辿り着けた結論。


「では、ここに住んでいる者たちを人界へ出すのですか?」

 ヤマトの行動は、人界との交流以外に思いつかない。


「どうやらいろいろ察しているようだね。ならば、はじめから話そうか」


 そうしてヤマトは、はるか昔のことを語り出した。




 まだヤマトが魔界で小覇王として君臨していた頃。

 ゼウスが張った結界を解除しようと、天界ではヘラがありとあらゆる方法を模索していた。


 だが一向に成果は出ず、ついにヘラは結界を解除するのを諦めた。


「さすがに天界随一の力を誇る者が命をかけただけのことはあった。これを解除するには、ふたつの条件が必要だったんだ」


 ひとつは、結界の内側にいること。

 そしてもうひとつは、ゼウスと同等の力を持つ存在が力を行使すること。


 そのことを知ったヘラは、結界をくぐり抜ける方法を考えた。

 多くの犠牲を伴う方法をもって理論は完成した。


「天界と魔界の住人の犠牲だったのですね……しかも相当数の」

「ヘラが魔界へ大規模侵攻を起こしたのは、いくつもの理由があった結果らしい」


 数多の犠牲によって、一時的に時空の穴を開けることができた。

 ヘラはヤマトを巻き込んで、その時空の穴へ飛び込んだという。


 ヘラの目的はゼウスの復活――蘇生である。

 この時点でヘラは、ヤマトを殺し切れていない。


 聖気の結界を張ったところで、ヤマトとヘラの力量差は互角か、ややヘラが不利だった。


 しかも時間が経てば、魔界に張った聖気結界が崩れる危険がある。

 ヤマトの部下が駆けつけてくる可能性もあった。


 ヘラには時間がない。

 そこでだれにも邪魔されない、人界で決着をつけようとしたらしい。


「予想外だったのは、私がさほど人界で力を落とさなかったことだろうね」


 そのころ人界は、ゼウスの張った結界の影響で、聖気が多量に漂っている状況だった。

 それでもヤマトはヘラと戦い、大陸をひとつ沈没させるほどの激戦を繰り返したのち、勝利を収めた。


「ただし、殺しきれなかった。その頃はまだ天界の住人が多数人界に取り残されていて、邪魔をされたからね」

 ヘラを取り逃がしてしまったという。


 ヘラの行方は知らない。

 その後ヤマトは、人界で天界の住人を刈り続けた。


 天界の住人を殺して世界中を回っているうちに、同じく人界に取り残された魔界の住人を多数見つけることになった。


「私は魔界の住人を保護することに決めた」

 それが異界のはじまりだという。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ