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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第6章 魔王際会編
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 俺たちが外へ出て行くと、すでにアップを始めている者たちが大勢いた。

 みんな若い。


「ここでやるのか」

 俺たちが案内されたのは、おさの家だった。


 まさか、選抜を長の家の前でやるとか……いや、それもありなのか?


「集まっているのは若い者ばかりですね。長の家の前で戦えることは、彼らの誇りとなるでしょう」

 やはり、そういう意味があるのか。


 軍隊で言えば、将軍の前で訓練の成果を見せるようなものだろうか。


「席を用意しましたので、こちらへ。私が解説しましょう」


 ここへ案内されたときに一度だけ会った、この里の長が誘ってくれている。

 長の名前は、ガーダン。

 俺の名前に少しだけ似ているので、よく覚えている。


「ありがとうございます。若い者の戦いが見られると知って、いてもたってもいられなくなりました」


 俺も若いが、そこはそれだ。


「なに、あやつらはまだまだヒヨッコ。六角棍ろっかくこんを許されていない者たちでありますゆえ、ご期待に添う者がいるかどうか」


「六角棍ですか? それは一体?」


「警備の者たちが手にしているものです。あれを持てるのは、集落で一人前と認められた者だけ。彼らはそれを目指しておるのです」


 ホーンド族の若者たちはみな、身体が傷だらけだ。

 過酷な鍛錬を積んでいるのだろう。


 オーガ族も山に入ったりするが、それは生きるためであり、あまり鍛錬という意味合いはない。


 ただ、外へ出ると強くなって帰ってくることは知られている。


 強くなりたければ沢山食ってよく寝るのが一番だと考えられているので、あまり実践する者はいないのだが。

 まあ、食って寝れば身体ができるので、若いうちならば間違ってはいない。


 俺は六角棍をじっと観察した。

 長さは三メートルあまりで、かなり太い。

 すべて鉄製なので、重さは相当なものだろう。


「戦いのときは、あれを振り回すのですか?」


「そうです。ただ、生半可な力では振り回されて終わります。よって、我が種族は肉体を鍛え、あれを扱える力量になるまで触らせません」


「なるほど。それがこの選抜なのですね」


「はい。歳をとり、あれを扱えなくなれば返却します。怪我をして戦えなくなった者もです。あれは力の象徴。ふさわしくない者は持ってはならぬのです」


 なかなか徹底している。それと厳しいな。

 ただ、そんな話を聞くと、俺も持ってみたくなる。


 オーガ族の場合も金棒をつかうが、各自が用意するから資格云々は関係ない。


 金棒は握りが細くて、先端にいくに従って太くなっているので、振り回すのにもコツがいる。

 そのせいか、オーガ族はみな手首が強い。


 今さらだが、俺のここでの身分は、メラルダ将軍の客将だ。

 俺が軍を率いてこの国に尽力しにきたので、『客将』で間違っていない。

 戦力にならない客将だが。


 そのせいか、ここでも丁寧な扱いを受けている。

 ストメルたちを引き連れて、魔王に会いに行く途中も関係しているだろう。


 ここは少しだけ我が侭を言っていいだろうか。


「ガーダンどの。たとえば俺があの六角棍を使ってみたいと言ったら、どうなります?」


 するとガーダンは、「奇特な方ですな」とひとしきり笑ったあと、「我が集落で、一人前の者と戦い、力を示したら問題ありません」と言った。


 ようは、力を示せということだ。分かりやすくていい。


 俺はストメルの方を向いた。

「問題ありません」

 さすが臨時の副官。よく分かっている。


「ということなのですが、いいでしょうか?」


「ほっほっほ……さすがはわが国が客将として招いたお方ですな」

 そこまで大したものじゃないんだが、勘違いを訂正する前に、ガーダンは配下の者に何かを囁いた。


 その後、あれよあれよという間に場が整えられてしまった。

 すぐに俺と集落の戦士が、デモンストレーションマッチを行うことになった。


 若手の選抜試験はその後だ。

 本選抜の前の前座と思ってもらえればいい。


「何とかなるか」

 俺は気負うことなく前に進み出た。


 相手はやはり筋肉ムキムキの男。

 ホーンド族は、中級種族の中位くらい。今の俺ならば、普通に勝てる。


「準備はよろしいですか?」

 長から声がかかる。


 俺と相手の戦士は無言で頷いた。

 この勝負、互いに武器は使用しない。肉体言語で語りあう感じだ。


 そういうのは嫌いじゃない。

 相手の技量は、拳を合わせれば分かる。

 俺としては願ったり叶ったりだ。


 ただし……。

(集落で一番強いのを選んだんじゃないのか?)


 魔素量が、他と比べて随分と高い。

 秘蔵の戦士と言われても信じてしまいそうだ。


「うぉおおおおお!」

 相手が吠えた。


 これは試合ではないので、審判はいない。

 互いの挨拶も、「はじめ」の合図もない。


 向き合ったときが試合開始だ。

 相手は筋肉をパンプアップさせて、俺に襲いかかってきた。


 筋肉で身体が膨れあがったようにみえる。

 おそらくは特殊技能のひとつだろう。


(久し振りの実戦だ。この身体の慣らし運転に付き合ってもらうぜ)


 まずはカウンターを打って、相手の対応力をみる。


 ――ブウウウウン

 いきなり空振った。


(は、恥ずかしい……)


 久々過ぎて、間合いを見誤ったか?

 これは攻撃を食らうパターンだな。


 空振った直後は隙が大きい。

 俺は身構えた……ら、相手の足が止まっていた。


「……ん?」


「ま……参りました。今の牽制で……その、十分、伝わりました」

「えっ?」


 恥ずかしい大失態を演じたと思ったら、相手が降参した。

 どうしてだ?


 相手の戦士はそのまま退場してしまったので、俺だけが残されてしまった。


「うむ、さすがですな。やはり、オークランでも無理でしたか」

 長のガーダンが納得したように頷いている。


「えっと……これで終わり?」

 納得していないのは、俺の方。この状態……不完全燃焼感が半端ないのだが。


「我が集落では、オークラン以上の戦士はおらんのですよ。戦場に向かった者ならばまだ何人かおるのですが、ここに残っている者でしたら、彼が最強です」


「は、はあ……」

 戦う前に終わってしまった。


「代わりといってはなんですが、六角棍をお渡し致します。みなの前で使ってみせてくれませんか?」


「そうですね。では少しだけ」

 これで六角棍を持つ資格があると認められたわけだ。


 先ほどのオークランが、六角棍を持ってきてくれた。

 渡されたそれは思ったより軽かった。

 いや、俺の筋力が上がっているのだ。


「では簡単な演舞を」


 演舞と言っても分からないだろうが、道場で習った棒術の演舞を披露することにした。

 オーガ族の身体になってからも、剣や棒の演舞は練習してきている。


 あれは効率よく身体や武器を動かすのにちょうどよいのだ。


 六角棍の長さは三メートルある。

 俺の身体が大きくなったことで、さほど長いとも感じない。


 最初はゆっくりと棒術の型をなぞり、それから次第に動きを速くしていく。

 ある程度身体が温まったあとは、連続技や、どこかの雑伎団のように体術を絡めて、かなり派手なものとなった。


 アクション俳優さながらの動きができるのは、俺の身体能力が上がったからである。

 前世だったらとても真似できない動きだ。


 最後は、棒を真上から振り下ろして終わる。


 このとき、地面すれすれに止めるのがコツだが、どうやら俺の身体強化された身体だと、地面に触れなくても、大地にひび割れを起こすことができるらしい。


 俺の演舞が終わっても、だれ一人声を発することなく、ただただ固まっていた。



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