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「あー、いー天気だ」
俺は大きく伸びをした。前世で言うなら日本晴れだ。
俺の後ろには、メラルダ将軍がつけてくれた者がいる。
「この天気は、しばらく続きそうですね」
その中の一人、ヴァネット族のストメルが俺の横にやってきた。
「分かるのか?」
「はい。コレが乾いていますので」
そう言って、ストメルは四枚の翅を振るわせた。
ヴァネット族は巨大な蜂にしか見えないが、かなり頭が良く、手足も器用。
攻撃力、防御力ともに低いことから、戦場にでることはない。
ストメルは通常のオーガ族より小さいものの、蜂と思うと巨大過ぎる。
ブーンと重低音がいつでも聞こえるので、どこにいるかすぐに分かって便利だ。
「そろそろ腹が減ったな」
「では休憩にしましょうか」
打てば響くようにストメルが答える。
ストメルは、この旅で俺の副官を努めている。
ようは、空を飛ぶリグと思えばいい。
「あそこに木立がありますが、どうでしょう」
「いいんじゃないかな」
「では向かいましょう」
俺たちはいま、魔王に会うため、街道を緩やかに歩いている。
専用の乗り物もあるが、メラルダ将軍から「身体を使った方がよいぞ」とアドバイスをもらったので、歩きにしたのだ。
もうすぐ昼だが、俺は今日これで三度目のメシである。
「用意しますので、しばらくお待ちください」
「ああ、いつも済まないな」
「いえ、大切な役目ですから、お気遣いなく」
「大切な役目……か」
俺は木によりかかって座りながら、出発する直前のことを思い出していた。
○
「すまん、リグ。俺はこれから魔王トラルザードに会いにいくことになった」
唐突に報告したからだろう。リグは固まった。
「ゴーラン様、なぜ魔王に喧嘩を売りに?」
「ちょっと待て!」
なぜ俺がわざわざ魔王に喧嘩を売りにいかなきゃいけないのだ。
「ゴーラン様が喧嘩を売らないで済むとは、思えないのですけど」
「失礼な」
と思ったが、俺ってそんなに喧嘩を売りまくっていたか。
むしろ、売られた方が多いと思うが。
ちなみに売られた喧嘩は全部買っている。
高値だろうが底値だろうが関係ない。
俺は真面目だから一人一人相手をしてやっているが、それと勘違いしていないだろうか。
まあ、それはいい。
リグに告げたのは、俺の部隊についてだ。
「いま俺たちはメラルダ将軍の独立部隊に所属している。部隊長は引き続きダイルがするから、俺が抜けても問題はない。そこで相談だが、ダイルの補佐にサイファとペイニーをつけようと思うが、どうだ?」
「それがよろしいかと思います。お二人がいれば、そうそう滅多なことはおきないと考えます」
「そのかわり、事務ができる者がいない。おまえがやってくれ」
「畏まりました。ゴーラン様が魔王に喧嘩を売りにいくのですから、留守はキッチリ守らせていただきます」
「いや、売りに行かないから! 会談をするだけだから」
「なるほど、大切なお役目があるのですね。喧嘩よりも大切な……」
「そう……かな?」
主に俺の種族のこととか、昔の話を聞きにいくだけなんだが。
しかし、何だよ、喧嘩より大切なって。
「でしたら心置きなく出立なさってください。こちらのことは気にせず、思う存分叩きのめしてくださいませ」
「いや、戦わないからな!」
分かってて言ってるだろ。
とまあ、リグとそんな話があって、その後サイファとペイニーにも同じ話をした。
「進化して強くなったのは分かるが、なんでいきなり魔王と戦うんだよ。順番があるだろ」
「なんだよ、順番って! というか、戦わないぞ」
リグに続いてサイファも失礼なことを言いやがった。
「ここへ来て確信しました。竜種は戦闘好きです。戦わないで済むはずがありません」
「えっ、マジで?」
ペイニーからも言われてしまった。
竜種は戦闘好き。
それはダイルから聞いたことがあるし、俺もそうなんだと感じたが、魔王もそうなの?
戦闘狂の魔王とか、普通に死ねるんだが。
サイファもペイニーも俺が魔王と戦うと信じて疑わない。
これはもう、絶対に戦わないでおこう。本当に。
「それで、この部隊はダイルが率いているから、これまで通りだ。俺の代わりにサイファとペイニーが入ってくれ。苦手な事務はリグに頼んだ」
「ゴーランの代わりか。キツそうだな」
「大丈夫だ、サイファ。やればできる」
「日に三度、目が合った奴をぶっ飛ばせばいいのか?」
「ちょっと待て!」
俺がいつそんなことをした!? してないだろ。
「初対面の相手には、下から上へ眺めたあと、『余所もんだな?』と因縁をつけるんですよね」
「ちょっと待て!」
ペイニーも無茶苦茶なこと言った。
やったか? 俺は、そんなことをやったのか?
「あとは問答無用で殴りかかるだけか」
「追い打ちは徹底的にですよね」
「お二人とも、ゴーラン様には大切なお役目があります。その意を汲んで、近づく者すべて蹴散らすのです。四の五の言わずに倒してください」
「…………」
リグまで参戦してそんな流れになってしまった。
その後俺は、腹が減って引っ込んだが、奴ら、本気にしていないよな。
もう、確認するのも怖くなったんだが。
○
「ゴーラン様、食事の用意ができました」
「ん? ああ……そうだったな。すまん」
そんなやりとりが思い出されたが、今頃平穏に暮らしているだろうか。
しているよな。
「どうぞ、お食べください」
俺は広げられた料理に手を伸ばし、今日三度目になる食事を開始した。
「――うまい!」
俺の手は休まることがなかった。
俺はいまだに一日六食は食べている。
魔王トラルザードと会うために移動しているが、途中で何度も食事休憩を取らねばならなくなっていた。
ちなみに俺の道連れ、ストメル以外は荷物持ちだ。
大量の食糧を抱えて運んでくれている。
これもメラルダ将軍が付けてくれた。
重い荷物を軽々と運んでくれているが、種族名は知らない。
道中、俺の腹が減って動けなくなると、メラルダの所は満足に食事も与えていないのかと、他の将軍に誹られる可能性があると言っていた。
「今日の予定はどうなっているんだ?」
「今日はこのまま進んで野宿ですね。明日は食糧が足らなくなるので、町に向かいます。町を出てからは二日間野宿して、三日目に町か村で休憩するような感じになります」
「そうか。済まないが道案内を頼むぞ」
「畏まりました。なるべく近くて楽な道を使うようにします」
魔王と会うにはもう少しかかりそうだ。
別に急がないからいいのだけど。




