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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第5章 窮鼠覚醒編
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○ワイルドハント ネヒョル


 ネヒョルはいま、トラルザード領とジャニウス領に接した小国にいる。

 小国の名はウルワー。


 小魔王ウルワーが治める、魔界の中でも一、二を争うほど小さい国である。

 面積で言うならば、小魔王メルヴィスの国とさほど変わらない。


 そんな何の変哲も無い国に、なぜネヒョルがいるかというと……。


「ネヒョル様、塩の柱の調査が終わりました」


「そう。どうだった?」

「どういう仕組みか分かりませんが、いまだ聖気せいきが残っています」


「うん、なぜだろうね。放っておくと、いつまでも聖気が残ったままなんだ。それこそ、何百年、何千年経っても」


「そのせいで調査が遅れましたが、ネヒョル様が仰っているような、天界との交信に使われるようなものなどは見つかりませんでした」


「うーん、そっか。じゃあ、やっぱり天界の住人が魔界の中を知る方法はないのかなぁ」


 塩の柱、もしくは魔界の六塩柱ろくえんちゅうと呼ばれるそれは、四千年以上前に天界の住人が拠点とした場所である。


 今からすれば、考えられない規模の聖気が使われ、魔界に六箇所の穴が開けられた。


 そこから侵入してきた天界の住人は、その地に拠点をつくり、魔界内を聖気で満たす結界を作ろうと画策したのである。


 その目論見は、小覇王ヤマトによって阻まれている。

 天界の住人が作った拠点は、塩の柱として今なお残り、そこに聖気を留まらせ続けている。


「聖気が残っているのは、塩の柱そのものが聖気だからだろうね。聖気の物質化だよ、きっと」

「魔界の瘴気の中にあって、霧散しないのでしょうか」


「それ自体が核とか結界なんじゃないの? それにほら、塩の柱に触ると、手がただれるでしょ。みんな嫌がって触らないから、だれも近づかないんだよ」


 ネヒョルの国にも塩の柱はある。

 気になって一度調べたことがあるが、何の成果もなかった。


 塩の柱については、それっきり忘れていたが、先日天界からの侵攻があった。


 あのとき感じた聖気の反応が、かつて自分が調べた塩の柱と酷似していることに気づき、ネヒョルは改めて調査することにしたのである。


 そして部下との会話の通り、レグラスに任せている自分の国にも塩の柱はある。

 だが、そこまで出向くには日数がかかる。


 塩の柱は魔界を取り囲むようにして、ほぼ均等にあるので、一番近いウルワーの国に赴いたのである。


「魔王誕生は後回しになったからね。天界のことを先に調べるのは間違ってないよね」


「はい。ネヒョル様の魔素は現在、身体の修復に充てられています。これはしばらく続くと思われますので、調査研究を優先するのは間違っていないと考えます」


「だけど成果なしと……エルダー種になるのに必要なのが生命石だと分かっていたら、時間のあるときにちゃんと調べておいたんだけどなぁ」


 自国に塩の柱があるのになぜ、他国に潜入してコソコソと調査せねばならないのか。

 ネヒョルは、どうにもやるせない気持ちになってしまった。


「小魔王ユヌスを魔王とする計画について、配下の者が報告に戻ってきました。各国は無事、撤退を完了したそうです。トラルザード軍の追撃はなし。この後、何もなければ沈静化するものと思われます」


「そう。ごくろうさまと労っておいてね。各国を戦わせろと言ったそばから、戦わせるなじゃ、現場は混乱したでしょ」


「若干の動揺はみられたようですが、日頃の訓練の賜物か、すぐにやるべきことを見つけて動いたようです」


 メラルダが不審がっていた西方の動き。

 これは、怪我によって計画が狂ってしまったネヒョルが指示して、軍を引かせたのであった。


 本来、小魔王ユヌスに他の小魔王や将軍たちを殺させて、魔王化を狙っていた。

 ネヒョルも、ユヌスが魔王になったらすぐにでも殺れるよう、準備を整えていたのである。


 だが、ゴーランの持つ深海竜の太刀によって真っ二つにされ、その怪我の修復に少なくない時間を取られることになった。


 いま戦うのは時期が悪いと、ネヒョルは別の作戦を進行させているのである。


「でもそうすると、兵が余っちゃうな。一旦集めるかな」

「ネヒョル様、それについてお話が」


「ん? どうしたの?」

「どうやら魔王ジャニウスが、我が軍団を敵視し始めたようです」


「あれ? トラルザードにけしかけたのがバレちゃった?」

「直接はバレていないようですが、周辺の動きから予想がついたものと思われます」


「そっか-、それはしょうがないよね。……じゃあ、あれだ。ユヌスの国に張り付いていた部隊は、そのまま魔王ギドマンの所へいかせよう」


「ギドマンですか?」


「ジャニウスとギドマンはいまだ戦争中。小競り合いが絶えない関係だし、今度はギドマンに踊ってもらおう。ジャニウス軍は将軍が死んで弱体化したって噂を流せばいいんじゃないかな」


「ですが失敗すると、ギドマンからも敵視されますが」

「この一時期さえ凌げればいいから、やっちゃって」

「畏まりました」


 ネヒョルの支配地域は、魔界の南東にある。

 北西にあるギドマンにいくら敵視されたところで痛くも痒くもない。


 やってきたければ、魔王トラルザード領や、魔王ビバシニ領、魔王リーガード領を通ってこいという気分である。


「それでジャニウスが大人しくなればよし。駄目なら、場所を変えよう。魔王化なんて、どこでもできるんだし」


「そんな都合のよい場所など、ありましたでしょうか」


「あるじゃない。旧魔王バロドトが治めていた地が」


 現在八大魔王となってしまったが、それまで魔界には、魔王国は九つ存在してした。


 ある日天穴てんけつが開き、天界の住人が侵攻してきたのである。

 その戦いで魔王バロドトは死亡し、領地は八つの小魔王国に分かれた。


 その地は、現在もまだ覇権を求めて、多くの小魔王がしのぎを削っている。


「いまの僕の目的は、魔王級の天界の住人を捜すことだけどね」

 領地や領土など、進化してしまえば望むだけ手に入る。


 ゆえにネヒョルは、進化に必要なもの――魔王級の魔石と、同程度の生命石を求めている。


「ネヒョル様、今後はどうされますか?」


「天界の住人の情報がほしいな。唯一の手がかりが、トラルザード領にやってきた連中なんだよね。あれが何を求めて……もしくは、誰を求めてやってきたのか確かめて、それを監視する感じかな」


「なるほど、了解しました。天界の住人と接触して生き延びた者は少ないです。手の者を張り付かせておきます」


「うん、お願い」


 さあ、これから忙しくなるぞとネヒョルが言うと、副官は「まず、傷を治してくださいませ」と取り付く島がなかった。



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