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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第5章 窮鼠覚醒編
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「トラルザード様からの報告書に、東方のことが書かれていたのじゃ。ちと良くないようだな」


 メラルダ将軍の顔は険しい。

 どういうことだ? まさか、俺の国が危ないとか?


「俺の国は無事ですか?」

 町は、村はどうなったんだ?


「メルヴィス様の国は無事じゃ。今のところはな」

 良かった、無事らしい。

 しかし、なにやら含みのある言い方だ。かえって、不安が増してしまった。


「今のところはって……順を追って話してください。何がどうなったんですか?」


「そうよの。お主には聞く権利があろう。まず、わが国から向かった軍じゃが、ロウスやクルルをはじめとした小魔王国への牽制は成功した。敵はすぐに兵を引いたようじゃ」


 四カ国がそろって俺の国を襲っていたが、その辺はうまく収まったようだ。


 トラルザード国から派遣した軍がいれば、いくら連合を組もうとも、小国の軍隊では対処できないだろう。

 なにしろメラルダ将軍が、『レニノス』を倒すために用意したくらいだ。


「小魔王本人が出てくれば違ったでしょうが、将軍や軍団長レベルでは太刀打ちできないですからね」

 俺は大きく息を吐いた。


「そういうことじゃ。敵としても、アテが外れただろうな。まあ、その辺はとっくに終わった話でどうでもいいのじゃが、問題は小魔王レニノスじゃ」


 レニノスは、俺の国の北にある大国だ。

 三つの小魔王を飲み込んで大きくなり、小魔王ファーラと覇権を争っていた。


「レニノスとファーラが戦って、勝った方が魔王になりそうでしたが、どうなりました?」


「お主の国で、かなり大がかりな軍の編成をしたらしい。それでレニノスの軍と当たったようじゃ。レニノスは中々策士らしく、引きずり出すのにかなり苦労したとある」


「苦労したというからには、引きずり出すのに成功したのですね?」


「日数がかかったが、成功した。詳細は省くが、我の国から派遣した軍でレニノスを取り囲み、激闘の末、撃破しておる」


「おおっ、レニノスを倒したのですか?」

「そのように書いてある」


「大金星じゃないですか」

 正直、そこまで簡単に物事が運ぶとは思わなかった。


 最大の敵の一角であったレニノスが早々に退場したのだ。


「レニノスの軍は散り散りになったようじゃが、追撃はできなかったとある。味方の部隊にも、かなりの被害が出たようじゃ」


 どうやら軍が真正面から激突し、主攻を受け持ったのがファルネーゼ将軍の軍らしい。


 トラルザードからの援軍は、ファルネーゼ将軍たちが敵の大部分を留めている間に敵陣を突破。そのまま後方にいたレニノスに迫ったらしい。


 だがその時点で数を減らしており、さらにレニノス討伐のため、かなり無理をした。

 無事な者は半数というのだから、被害の大きさがよく分かる。


「ということは、残るはファーラだけですね」

「ところがじゃ、ここで問題が持ち上がった」


 メラルダ将軍の顔がさらに険しくなる。

「まさか、ファーラが魔王になったとか?」


 国境を接していないせいか、いまだファーラの怖さが伝わってこない。

 だが数カ国をみるみるうちに占領した手腕を見れば、並の者ではないことは明白だ。


「小魔王ファーラは、斃れた」

「……はい!?」


「小魔王ファーラは、もっと東からやってきた小魔王に破れた。敗死したようじゃ」

「ま、まさか……ファーラが死んだ? 魔王直前の人物ですよ?」


「それが呆気なくこの世を去るのが、魔界の怖いところじゃ。ファーラは、純粋に力で負けて死んだらしい」


「一体どこのだれが?」

「ファーラを倒したのは、魔王トリニドートと領土を接している小魔王キョウカという者らしい」


「……小魔王キョウカ」

 知らない名だ。


「報告によると、小魔王キョウカは最近進化したようじゃ。進化前は紫狐しこ族だったので、双紫炎狐そうしえんこ族になったはずじゃが、詳しくは分からん」


「進化ですか」

「うむ。進化して気が大きくなったのじゃろう。周辺の小魔王国へ次々と喧嘩を売り、すべて勝ってしまった」


 俺も進化したから分かる。

 進化した直後は力が爆発的に上がり、なんでもできそうな錯覚に陥るのだ。


 もちろんそんな万能感は妄想だ。

 たとえば俺がメラルダ将軍に戦いを挑んだら、普通に負ける。


 だがキョウカは勝った。勝ち続けて、魔王に一番近いファーラまでも倒してしまった。

 紫狐族がどう進化したところで、そんなことができるのだろうか。


「そういうわけで、東に新たな魔王が誕生するかもしれん」

「意外なところから出てきましたね」


「うむ。第三勢力が出てくるとはな……これこそが今の魔界なのかもしれん。時代が大きく動くとき、お主のように急に頭角を現す者が出現する」


「俺ですか?」


「うむ。わが国の西方も東方もまことに騒がしい。そして天界からの侵攻も忘れてはならん。西は我がなんとかするから、東はお主が押さえてくれんかのう。……まっ、それを含めて、トラルザード様に会ってくるのじゃ」


「……はぁ」


「素盞鳴尊という訳の分から……珍しい種族に進化したお主じゃ。トラルザード様の知識は豊富ゆえ、なにか有益な情報がきっとあるじゃろ」


 いま「訳の分からない」って言いかけなかったか?


「……分かりました。俺の国のことも気になりますが、いま俺が戻ったところで何もできません。まずは、俺自身のことをしっかりさせてきます」


「うむ。それがよい」




 こうして俺は、なぜか魔王様と会うことになった。


 人生ならぬ鬼生は、本当にままならない。


「もうこれでビックリ、ドッキリは打ち止めだよな」


 オーガ族の村でスローライフを送っていた頃が懐かしい。



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