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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第5章 窮鼠覚醒編
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「俺が魔王トラルザード様に会ったとして、過去の恨みとかで殺されませんか?」

 メルヴィスが相当酷いことをやっていたようだし。


「それは……ない」


「いま目を反らしましたね! 危険があるんですか?」

「……ないと思うが、これから我が話す事によってはあるような、ないような」


「実家に帰らせていただきます」

 俺は立ち上がった。


「待て、ゴーラン、どこへ行くのじゃ」

「今までの話はなかったことにしてください」


「待て、冗談じゃ。冗談……そんなすぐに殺されるようなことはない。だから、落ちつくのじゃ」


 出て行こうとする俺の腕をメラルダ将軍が掴んだ。

 さすが小魔王だけのことがある。ふりほどけない。


 俺が本気で抗えば可能かもしれないが、そこまでするつもりもない。


「……分かりました。逃げませんからその手を離してください。それと、本当に身の危険を感じたら逃げます。それで何か危ない話でもあるのですか?」


「危なくないぞ……たぶんじゃが。我が主と小魔王メルヴィス様の関係は分かったじゃろう? 我はお主にトラルザード様に会って、小覇王ヤマト様の戦いについて、話を聞いてほしいのじゃ。何しろ、トラルザード様は何度かお主の国に足を運んでおる」


 魔界の動きを見ればよく分かるが、各国の王たちは独立独歩どくりつどっぽでやっていこうとする者は少ない。

 同程度の者と手を組んで、自分より強い者を倒す。


 それくらい普通のことだと考えている。


 ゆえに同盟と破棄は、いまも魔界の至る所で起こっている。

 トラルザードがメルヴィスに会いに行ったというのも、別段不思議ではない。


 逃げ帰って泣くほどの目に遭わされたならば、早晩手を結ぼうと考えるだろう。

 まして領土が接しているお隣さんだ。変にこじれたままではよくない。


「そういえば、なぜ俺の国はあんなにも小さいんでしょう。もとは大魔王だったわけですから、もっと大きくてもいいと思うんですけど」

 領土の大きさでいえば、弱小国だ。


「メルヴィス様は支配に欠片も興味がなかったようじゃぞ。大魔王であった頃も、支配地域はほとんどなかったはずじゃ」


「では支配のオーブによる底上げは……」

「当然、ほとんどなかったであろうな」


 どうやら、メルヴィス自身が素で強いらしい。

 そりゃ、魔王を撃退するわけだと思う。


「自分の国なのに、いろいろ知らないことが多くて驚きですよ」


「まあ、それでもあれほど小さいわけがないと思うが。何かの拍子に手放したのだろう。その辺を知っている者はおらんかもしれん。何しろ、もう時代が変わっておるからの」


「そうですね。まあ、持っていたとしても戦争の種にしかならないので、持っていてもしょうがない気もしますが」


「うむ。それでトラルザード様じゃが、亀竜バーグマン様と不死のメルヴィス様から聞いた両方の話を知っておる」


「なるほど! そういうことですか」

 こんな所に大昔の生き証人から、話を聞いた者がいたなんて。


 たしかに長命種族ならばありえる。盲点だった。


「かといって、我がトラルザード様から聞いた話は、あまり多くない。じゃが、お主の種族名を聞いてつい思い出したものがある」

「俺の種族って……素盞鳴尊ですか?」


 素盞鳴尊は、日本書紀や古事記の神話に出てくるというのは知っている。

 俺自身、そういったものに興味がなかったので、巷に流れる物語以外は、ほとんど知らない。


「小覇王ヤマト様の種族は分かっていないし、知っている者もおらん。種族名を隠したかったのか、長い年月で忘れ去られたのか。……ただ伝えられる外見は、あまり特徴がないということじゃ。たとえば、人界にいるとされる人間のように」


「意外ですね」

 もっと強烈な人なのかと思った。


 ツノが20本くらい生えているとか。

 口が耳まで裂けているとか。


 魔界の住人は、ゲームに出てくるモンスターの外見をしている者が多い。

 それがスタンダードなので、人間に近いと逆に浮いてしまうか?


「トラルザード様は、ヤマト様の種族名を聞いたことがあるそうじゃ。と言っても、伝聞であるゆえ、本当かどうかは分からん。ゆえに話を半分に聞いてほしいのじゃが」

「分かりました。……それで、何という種族なのですか?」


「――日本武尊やまとたけるのみことと言うておった」


 ああ……と俺は思った。


 本人の名前がヤマトで、種族が日本武尊。

 被っているし、できすぎのような気もする。


 だが、その名がメラルダの口から出てきたというのが、妙な信憑性を持たせている。


 魔界の住人は日本書紀や古事記を知らない。

 だからその名がピンポイントで出てくると、無条件で信じてしまいそうになる。


「お主、やっぱりなという顔をしておるぞ。何か心当たりがあるのか?」

「いや……その……似ているなと」


『すさのおのみこと』と『やまとたけるのみこと』。


 字面にすると違うが、発音すればなんとなく共通点がある。

 だからこそ、メラルダも思い出したのだろう。


「お主がトラルザード様に会って、当時の話を聞いて欲しい理由はまだある。天界の住人との戦い。あれはエイラ機関が、小覇王ヤマト様を狙ってやってきたものであるとトラルザード様は語っていた」


「あれは天界が魔界に侵攻してきたから戦ったのではないですか?」


「我も詳しい話は聞いてない。それにエイラ機関の名も、後に正しくないということも分かった。魔界ではすでにその名が浸透していたため、訂正されることもなかったがな」


「ん? どういうことです?」

「戦闘中にその名を聞いたらしい。ゆえに聞き間違えたのじゃろう。それよりかなり後になって、堕天した者が言っておった。かつて天界にあった最大の研究機関の名は、『エンラ』だと」


「エイラではなく、エンラ? かなり似ていますね」


「そうじゃろう。似ているし、すでにない組織の名前じゃから、我らとしてはどうでもいい。じゃが、お主は正しい名前を覚えておいた方がよいと思っての」


「そうですね。覚えておきます……エンラ」


「それと、堕天した者が言うには、エンラ機関のトップはヘラという者らしい。とくにエンラ機関は女体の者が多いので、ヘラは女であると思う。それがヤマト様と相打ちになって、ともにこの世界から外れてしまった」


「いま、時空の狭間にいるんですよね」


「さあて、それを見た者はおらんからな。どこに行ったのやら……ただし、支配の石版にはヤマト様の名前が残っておるゆえ、死んではおらん」


「ヤマト様は、エンラ機関のヘラと戦った……んですか」


「その時の様子もトラルザード様は知っているはずじゃ。会って聞くがよい。また、メルヴィス様についても、トラルザード様は何か知っておるはずじゃ。我には教えてくれんかったが、同国のお主ならもしかしたら話してくれるかもしれん」


「そうでしょうか」


「可能性はある。お主の種族名はヤマト様と関わりがあるかもしれん。とすれば、天界のエイラ機関とも関わりがあるかもしれんし、ヤマト様や天界と関わりがあるならば、同様にメルヴィス様ともある。ゆえにお主はトラルザード様の元へ向かうがよい」


「分かりました。そういうことでしたら会って、聞いてきます」


「うむ、それでよいのじゃ……そうそう、忘れておったが、トラルザード様から報告が届いておった。東方についてじゃ」


「東方と言うと、俺の国がある方ですね」


「そう。ちと大変なことになっておる」

 メラルダは、厳しい顔をした。



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