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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第5章 窮鼠覚醒編
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○???? ゴーラン×2


「それでこれからどうする?」

 俺に方策はない。


「そもそもどうやったらここから出られるんだ?」

 オレの方も分からないようだ。


 現状を確認する。

 ここは白いもやが漂う、どことも知れない空間。


 どうやって入ったかも分からない。

 もちろん抜け出す方法なんて、見当も付かない。


「とにかく移動してみるか」

「そうだな」


 俺たちはあてどもなく歩く。


 歩く。


 そして歩く。



「……なあ、オレ。俺たちかなり歩いたよな。というか、どのくらい時間がたった?」

「さあな。腹も空かないし、疲れない、眠くもならないんじゃ分かるわけがないだろ」


「それでも体感で数日は経っているよな」

 時間の経過はよく分からないが、日付が何度か変わるくらいは移動した気がする。


「そうだな。互いに話すことも無くなったしな」

 この時間を利用して俺たちは情報交換をした。


 だが、そのネタももう尽きてしまった。

 いまは黙々と歩いているだけ。


 そもそも俺とオレの会話はそんなに長く続かない。

 魂は別だというのに、なぜか自分自身と話している気持ちになってくるので、話す必要がなくなってくるのだ。


 こういうのは互いに似てくるのだろうか、不思議だ。


「……ん?」

「ああ、気付いている」


 先の方で、もやがうねっている。

 これまで変化の無かった世界に飽き飽きしていた。

 互いに確認することもせず、そこへ向かった。


「これは……穴?」

「穴だな。しかもなんだ? 穴の底は渦を巻いてやがる」


「なんだと思う?」

「出口……じゃなさそうだな」


 穴の中は、巨大な洗濯機の渦のように見える。

 洗い物の代わりに、白いもやがどんどんと吸い込まれていく。


 オレの方がふと思い出したような顔をした。


「この懐かしい感じ、感覚で分かった。あれ、魔界だ」

「魔界? 魔界って俺たちが住んでいるあの魔界か?」


 魔界は戦いが絶えない世紀末みたいな場所だ。

 洗濯機の中ではない。


「うまく言えないが、ここを通ると魔界なんだよ。オレが分かるだけかもしれん」

「ふむ……オーガ族の魂だと分かることもあるかもしれないな。ということはこの穴が出口なのか?」


「出口というよりも、魔界に行く通り道?」

 オレの方は感覚で生きているので、説明が難しいようだ。


「まあいい。ここに飛び込めば魔界なんだな。渦に飛び込むのはぞっとしないけど」

「たぶんな……でもオレを信じるのか?」


 愚問な。

「オレの言葉だろ。信じるに決まっているさ」

「この渦だぞ。怖くないか?」


「どうだろう。飛び下りるのは怖いが、それはオレを信じていないからじゃない。純粋に高いところから飛び込むのが嫌なだけだ」


 だがこうしていても始まらない。


「よし、オレが先に飛び込む。もし危なそうなら、おまえは飛び込むな。別の方策を探れ。そのときは、身体の方を頼む」


「バカ言え。一緒に飛び込むに決まっているだろ。危なかろうが、危なくなかろうが、俺とオレは一心同体……いや、二心同体じゃないか」


 コイツと一緒なら死ぬのも怖くない。

 それだけの経験をともに積んできた。


「そうか……なら一緒に飛び込もうぜ、ソウルブラザー」

「おう。生きるも死ぬも一緒だぞ、ソウルブラザー」


 俺とオレは肩を組んで、穴に飛び込んだ。




 白いもやが粘着質のトリモチみたいになって、身体に巻き付いてきた。

 足や胴体……そして頭、顔。


 もやに視界が奪われ、俺は遠い昔の夢を見た。




「かっかっかっか……さすがは、あやつの子よの。無鉄砲よのう」


 立っているのは道場主だ。まだ若い。

 痩身の、ともすると不健康そうな顔と身体だが、その実、肉体は極限まで鍛え上げられている。


 道場主は一日中、胴着に袴姿でどこでも歩いていた。

 俺が師範になってからは、着流しでゴロゴロしていたので、これはまだ現役だった頃の服装だ。


 見覚えのある景色が映った。

 祭りの夜店だ。しかも参道から外れた境内のどこからしい。


 足下にはテキ屋……っぽいゴロツキかチンピラかヤクザか分からないが、それっぽいのが倒れている。


 この場面、完全に思い出した。

 テキ屋が子供から小遣いを巻き上げる悪質な連中だと、どっかのガキどもが騒ぎ立てたんだ。


 あの頃は何でもありだった。大人も子供も。

 ガキの戯言と聞き流せばよいものを、テキ屋の連中も図星だったのだろう。


 子供たちを追いかけ回し、次々と鉄拳制裁を喰らわせていた。


 たまたま近くにいた俺も巻き込まれ……る前に反撃したら、あえなく返り討ちに遭った。


「そうそう、それが悔しくて、もう一度挑戦して……」


 あの頃たしか、俺は十歳にもなっていなかったんじゃなかろうか。

 ヤクザまがいの連中に突っかかって、ボロボロにされた。


 連中は気を失った俺に追撃をかけようとして、道場主に見つかった。

 あとは場面の通りだが、気がついた俺はそのとき初めて、道場主を尊敬したんだ。


 それまでは『ぐーたらのだらしないおっさんで、母さんの友人』という認識だった。

 それが『すげー強いおっさん』に格上げされた。


 あの日から俺は真面目に稽古するようになり……。


「本気でやるなら、俺の内弟子になるか? あれの息子なら、ものになるかもしれん」


 よく分からなかったが、俺は二つ返事で了承した。

 内弟子になる条件はたったひとつ。


「お前に教えるのは試合で使えない技だ。だから、人前では使うな。使うときは相手を殺すつもりでな」


 そんな物騒な条件とともに、俺は道場の中だけでは決して教えてくれない多くものを学んだ。


 疑問に思っていた。

 俺が習う「どこで使うんだよ!」と思う技の数々。

 なんて物騒なものを習わせるんだと、心底不思議だった。


「それがここで生きるとは思わなかったな。塞翁が馬ってやつか」


 ありえないほど卓抜した技を持ち、多種多様な秘技を開発した道場主。

 本性はぐーたらで、怠け者だが。


 俺はその指導のおかげで、魔界で生きてこられた。


「とくに剣は、念入りに教わったっけ」


 日本古来の武術からはじまり、どこで振り回すんだと思えるような大剣術。

 はては急所を一撃で突くような小剣術。


 あそこで習った俺の剣は、今もなお、俺の中で息づいている。




「……ん? 知らない天井だ」

 今回は天幕の天井だが、様式美というやつである。


「ゴーラン様、気がつかれたんですね」

 耳元で声がした。


「リグか。おまえ……縮んだな」

 ちっさくなった。リグがちっさくなった。


「お戯れを。ゴーラン様が大きくなられたのです」

「へっ? 俺?」


 上半身を起こしたら、妙に視界が高かった。

 ずっと寝ていたわりに身体が軽い。


 立ち上がってみると、天幕の天井が低い。

 入口も狭くなっている。


「……じゃなくて、本当に俺が大きくなったのか?」

「そうです。急にメキメキと背が伸びて、身体の厚みも増えて、とても驚きました」


 リグと比べるとよく分かる。

 背が、1.5倍くらいに伸びている。


「俺は……俺は、どうなったんだ?」

「おそらくですが、進化したのかと……ただ、私の知らない身体に進化したようでして」


 進化した? 俺が?


 そういえば、上位を倒していくうちに進化するって言っていたな。

 だが、オーガ族の進化先はハイオーガ族だ。


「腹減った」

 そう言った瞬間、腹がすごい音を立てた。


「すぐ用意します」

「頼む。すげー、腹減った。餓死しそうだわ」

「ただちに!」


 リグが天幕から駆けだしていった。

 さすができる副官である。


 そして俺。

「何に進化したんだ?」


 そう思ったとき、不意に頭の中にそれが思い浮かんだ。



 ――素盞鳴尊




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― 新着の感想 ―
[一言] 多分今まだ上位者倒したのって最終的にはオレの方だったよね?多分そこ?
[一言] 魔王・覇王超えて神やんけ…
[一言] なんて?(笑) 難し過ぎて読めないから調べたよ。 カッコイイじゃないの!!
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