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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第5章 窮鼠覚醒編
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 魔王ジャニウスの軍は、順調に進軍を続けているらしい。

 ここからあと数日の距離に迫っている。


 メラルダ将軍の意向で、途中の妨害は一切していない。

 そんなことする暇があるなら、こっちで陣の構築をしろということらしい。


 遅延作戦を行わなかったものの、ジャニウス軍の進度は遅い。

 撤退時に雪崩れないよう、途中に防壁となる拠点を作りながら進軍しているようだ。


 こういう進軍をしてくる相手は、戦い方も慎重なので、戦でも崩れにくいらしい。


 その間、メラルダ軍は何をしていたかといえば、敵の偵察である。

 斥候が何度も往復して、敵の陣容はすでに分かっている。


 敵の大将は予想した通り、ラハブ族のフォンバル将軍であるという。

 魔王国の将軍である。

 相当な強者であると予想される。


 ラハブ族は「竜食りゅうはみ」と呼ばれるくらい竜の天敵で、四つ足のシーサーペントのような外見をして、巨大で鋭い口と牙が特徴的らしい。


 あまりに大きいので、その姿は遠くからでもよく見えるという。


「あやつは、竜食みという大層な名がついておるが、見かけ倒しよ。この地に派遣されたのがあやつの不幸。化けの皮はすぐに剥がれるじゃろうて」


 メラルダ将軍は、くくくくと悪人のような笑みを浮かべた。


 魔王ジャニウスは、同じ魔王であるギドマンとの戦いに集中するため、竜種の多いトラルザード国とはこれまで事を構えなかった。


 牽制の意味を込めて、国境の町に竜食みと名高いフォンバルを据えていたらしい。

 メラルダに言わせると、「何が竜食みじゃ」ということになるようだが。




 次々とやってくる斥候の報告から、最新の動向が分かった。

 フォンバル軍の目的は将軍メラルダの撃破。


 ゆえに本陣を目指して一直線にやってきている。


「あれは町を襲うことを一切考えていない進軍じゃな。道がなければ作る勢いじゃ」


「それだけ急いでいるってことですよね」


 ここはトラルザード領。日数が経てば、メラルダ軍に援軍が到着するかもしれない。

 そうなれば、数の優位は覆される。フォンバルはそう考えているのだろう。


 フォンバル軍は一万と推定される。

 一方、メラルダ軍はかき集めて六千。


 これは前線から兵が戻せないのと、軍団がひとつ壊滅したからである。


「決戦の地はここじゃな」



 将軍は河川敷を指さした。

 水量が少なく、砂利混じりの川岸が広く展開している。


「敵の方が多いですけど、開けた場所で戦うんですか?」

「直前で軍を分けるじゃろうし、有利な位置取りはできる。ここは陣を背に戦うよりも討って出た方がよい」


 少ない兵をより少なくさせるために、フォンバルは必ず軍を分けてくるだろうと。

 下手をすると、三方向から攻められてしまうため、一方が川であるこの戦場は守るに易いという。


「その逆をついて、こちらは軍を分けないという手は使えませんか?」

「防御主体の戦法を採られて、モタモタしている内に横か後ろから攻撃されるわ」


 そうそうこちらの思い通りの展開にはならないだろうとのこと。

 そもそも軍を分けなければ、戦う兵は一番前にいる者たちだけとなる。


 それでは敵が自由に動いている間に、兵を無駄に遊ばせることになる。

 やはり敵と同じく、軍を分けて相対した方が戦いやすいらしい。


 将棋でも右で決戦している間に左に駒を置いたりするわけだし、脳筋みたいにただ一丸となるだけでは、刻々と変わる状況に対応できないのだろう。



「みな、集まったな」

 メラルダ将軍が壇上に立つ。


 これから戦おうとする者たち全員が、ここに並んでいた。

 その様は、学校の朝礼のようである。

 校長先生役はもちろんメラルダだ。


 俺はダイル部隊長の後ろに並んで、その様子を眺めている。


「もうすぐ、フォンバルの阿呆あほうめがやってくる。ぬしらはどうする?」


「「戦う!」」

「ぶっ潰す!」

「ぬっ殺す」


 物騒な声が、そこかしこから聞こえた。

 これでは、脳筋オーガ族の集団と変わらない。


「ぬしらの気持ちは分かった。ではどうすればいい?」


「もちろん! 我らの力をもって全滅させます!」

 一際でかい声が聞こえた。


「違うぞ、ヴォヴォブ。ぬしの大きな口は、何のためにある?」


 問いかけられて、鰐のような口をした男が答えに窮した。

 ヴォヴォブと言うらしい。なかなか強そうだ。

 メラルダは続ける。


「全滅? 我はぬしらにお上品な戦い方を教えたことはない!」

 将軍の演説は続く。


「敵は我らを舐めておる。そんなやつらをどうする? みんな相手するのか?」

 将軍は一同を見回した。


「我は問う。ヴォヴォブ、ぬしの口は敵を噛み切るためにある。だったら、噛み切ってやるのじゃ!」


「はっ! 力の限り、噛み切ってやりますっ!!」


「他の者もそうじゃ。みなの得意なものを持て。そして敵を……喰・い・ち・ら・か・す・の・じゃ!」

 将軍は一語一語溜めて、そう言い放った。


 手当たり次第に喰えと。振り向くなと。

 将軍はすべての兵に告げた。



 ――汚らしく喰らえと。



 俺はドン引きした。

 これが魔王軍なのかと。


 魔王軍の戦い方なのだと。


 額に縦線が入った俺をよそに、並んだ兵たちは大いに盛り上がっていた。

 それはもう、アイドルコンサート以上の熱狂でもって迎えられ、轟音が遠くに轟くかのごとくであった。


「すげーな」

 俺は後ろのサイファに同意を求めたら、そこには世紀末覇者よろしく、拳を突き上げているサイファがいた。


「感化されすぎだろ、おまえ」

 俺の言葉はむなしくかき消された。


 なにしろ熱狂の坩堝と化した場である。


 俺も周囲を見回し、目立たないよう小さく拳をかかげて「おー」とか言ってみた。




 決戦のときは近い。



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