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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第4章 嗚呼無情編
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 メラルダ将軍がここに到着して、すでに五日が経っている。


 すぐに軍の再編を行うと思っていたら、それは後回しにするらしい。


 現時点で優先順位の高いものからやっていくらしい。

 まずこの陣を移動させたのだ。


 天界からの襲撃に対して、ここはあまりに無防備なのだ。


 メラルダ将軍は、天界の住人について最大限警戒している。

 短時間であれだけの被害をもたらしたのだから、当たり前かもしれない。


 ハルムは連続して侵攻できないと予想していたが、その言葉を鵜呑みにするつもりはなく、軍を預かる者として、まず安全確保を優先したようだ。

 そういうところは俺も見習いたい。


 ここは開けた高台であるため、軍の奇襲には強いが、天界の住人のいい的になってしまう。

 そういうわけで、森林地帯を抜けた先にある岩場が選ばれた。


 岩場は片側が崖のようにそそり立っていた。

 後ろは袋小路になっている。


 この場合、逃げ場は限定されるものの空が狭い方が迎え撃ちやすい。


 陣の移動は、前線にいる三つの部隊にも連絡済みである。


 ちなみにメラルダ将軍は、副官を連れて前線の視察に行ってしまった。

 しばらくは帰ってこないようだ。




 数日後、念願のリグが訓練を終えて戻ってきた。


「よく戻ってきたな、リグ」


 リグを見たら、かなりやつれている。

 サバイバルが相当キツかったのだろう。


「ゴーラン様、ただいま戻りました。それと、大事なときにおそばにいられず申し訳ありません」

 天界からの侵攻のことを言っているのだと分かった。


 俺はリグの肩を叩く。

「半数は生き残った。次は容赦しない、俺たちの部隊に手を出したんだからな。リグはこれからもよろしく頼むぞ」


「はい。私が戻りましたからには、何なりとお申し付けください」

「分かった。ならば、部隊を休ませろ。そしたら存分に働いてもらう」


「かしこまりました」

 帰還の挨拶だけさせて、俺はリグを下がらせた。

 明日までは休息させる。


 他の種族もおいおい戻ってくるらしい。

 全員が揃ったら、俺たちの部隊も立て直しした方がいいかもしれない。


 天界の住人は、聖気による攻撃で、空から一方的に撃ってくる。

 あれをなんとかするには、こちらが空に上がるか、聖気の攻撃が届かないところへ逃げ込むしかない。その訓練をやっておきたい。


「幸い、地上の被害はそれほどではなかったからな」


 聖気は魔界の住人にとって鬼門だが、建物や地面に与える被害は、魔法と大差ない。

 よって攻撃が行われたあとも、地上にクレーターが出来たわけではない。


 岩場の隅に隠れれば、かなり被害を軽減できると考えている。

「メラルダ将軍はそれを見越して、ここに陣を移したんだろうな」


 将軍もあれだけ多くの兵が死んだわりに、地上への被害が少ないことに気づいたのだろう。


 リグたちが戻ってきてから数日後、ほとんどの種族がサバイバル訓練を終えて帰還してきた。


 一番遅れたのがヴァンパイア族だったが、彼らが「甘ちゃん」だったからというよりも、より過酷なサバイバル訓練だったせいらしい。


「種族の強さによって、到達目標が違うわけか」

 非戦闘種族の場合は単に生き延びるだけで良かったが、ヴァンパイア族はそれに戦闘訓練も加わったらしい。


 戻ってきたとき、彼らの顔から甘さが取れていたので、俺に文句はない。


 そんなこんなで、休息と訓練をしつつメラルダ将軍が戻ってくるのを待った。


 軍団長のダイルは、自ら役職を辞したらしい。

 話をしに行こうと思ったが、どう声をかけてよいか分からなかったので、そのままである。

 岩獅子族のほとんどが死ぬか大怪我を負って、ショックを受けているとか。


 戦闘に特化した種族であったため、より果敢に戦い、散っていったのだという。

 あの場にダイルがいなかったのは、運が悪かったとしか言えない。


「戻ったぞ、ゴーラン」

 メラルダ将軍がやってきた。


「おかえりなさいませ、メラルダ将軍。いつこちらに?」

「ついさっきじゃ。それと、ハルムの報告書。手伝ったそうじゃな。しっかりと読ませてもらったぞ」


 報告書は将軍が目を通してから、魔王トラルザードの元へ送ったという。

 それに手紙を添えて、壊滅した部隊の増援を要請したとか。


 部隊は戦えば減る。それは当たり前のことである。

 兵は戦うたびに補充するわけにはいかない。処理が煩雑になるからである。


 そのため、部隊には余裕をもって兵を置いておくのだが、一度の戦闘であれだけの被害が出ると、そうもいかない。

 ギリギリの人数で再編するよりも、いっそ予備兵を回してもらった方がいいと判断したようだ。


「それよりもじゃ。ゴーラン、お主たちには軍を外れてもらうことになる」

「ん? 俺たちは邪魔ですか?」


「我に余裕がなくなったというのがひとつ。もうひとつは、西が本格的に動きそうじゃ。それゆえ、兵が補充されるより早く、我らが動くことになる」


 現在、他の部隊と連携の取れない俺たちがいると、戦いに支障がでるかもしれないという。


 拠点防衛ならばいいが、臨機応変に軍を動かす場合、俺たちだけが意味を理解できず取り残されたり、軍が侵攻する先に佇んでいたりすると、味方の足を引っ張ることになる。


「分かりました。ではどうしましょう」


「魔王陛下からの伝令がそのうち届くはずじゃ。それと一緒に後方に下がってもらい、後処理は別の者にお願いすることになると思う」


「了解しました。足を引っ張る可能性がありますので、文句はありません」

「すまんのう。陛下ならば他国の情報も寄越してくれる。東の国の情勢も知ることができよう」


「なるほど。そういえば、俺の国がどうなったか気になります」

「まあ問題はないと我は思っておる。問題があれば陛下が手を打たれよう」


 それを聞いて安心した。

 メラルダ将軍が派遣してくれた部隊はかなり強力だと聞いているので、その辺も期待したい。


「そういえば、前線の視察に行かれたそうですが、状況はそんなに悪いんですか?」


「うむ……西の混乱はなぁ。おそらく裏で糸を引いておる者がいる。静かじゃと思ったら、急に慌ただしくなりおった。あれは一気にくる」


 小競り合いではなく、国を落とすための軍事行動が各方面から一斉に起こりそうな気配らしい。

 その場合、戦いの余波がかならずこの国にもくる。


 混沌とした戦いが予想され、最善の結果を出すために将軍も動くらしい。


「そういうわけで、お主とは別行動になると思う。じゃが、ファルネーゼと交わした約束は……ん? なんじゃ?」


 外が騒がしい。

 メラルダ将軍が天幕を出ると……。


「どうしたんじゃ?」

「報告します! 魔王ジャニウスの兵と思われる一団が、こちらに向かって侵攻してきます!」

「なんじゃと!?」


 それは今まで争うことのなかった魔王ジャニウスが、この国に兵を差し向けた瞬間だった。



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