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天界からの襲撃者が去り、メラルダ将軍が竜から人に戻った。
その隙にオレから俺に変わった。
「……ふう」
身体を聖気で纏ったあれは、かなりヤバかった。俺のままだったら、何もできずに支配のオーブを抜かれていたと思う。
こちらの攻撃は届かず、一方的にやられていただろう。
よくオレが手のひらを攻撃したと思う。確証はなかったはずなのに。
オレが勝手に出てきてくれて助かった。
というのも、『オレ』が思い出した内容は、『俺』の記憶として共有されたからだ。
これで詳しい考察ができる。
しかしまさか、天界で魂の結合が行われていたなんて。
ちなみに俺の記憶にはなかった。忘れていたのではなく、はじめて見る光景だった。
「しかしあれ……成功例が他になかったってことだよな」
思い返してみれば、他に魂が混じり合った者に出会ったこともないし、そんな話も聞いたことがない。
魔界だけでなく、人間界でもだ。すべて実験が失敗しているのだ。
オレはものすごい苦痛として記憶している。
それを記憶と認識しているのが幸いだ。体験していたら発狂していただろう。
「……俺の魂が魔石の中からはみ出ていたのかもな」
記憶していない理由を強引に解釈すると、そうなった。
中途半端に魂が結合した状態というのは、俺もうまく想像できない。
ただ、魂が魔石の中に収まりきらなかったんじゃなかろうかと思っている。
それがちょうど俺の魂で、だから実験のことを記憶していない。
魂がはみ出ていたからこそ、取り出したときにヒビが入ったというのはどうだろうか。
実験の後で魔石が脆くなっていた可能性もある。
とにかく、聖気が直接触れて、何か別の現象を起こし、魔石にヒビが入ったのではなかろうか。
ヒビが入ったことで魂が抜け出せたのだろう。
この辺は想像だ。
さすがにオレの方も、その瞬間を理解していないみたいなのだ。
「支配のオーブが抜かれておるわ」
人型に戻ったメラルダが、ウォーメルのそばにかがみ込んでそう言った。
支配のオーブが抜かれてしまえば、魔界の住人は生きていけない。
「ウォーメルの戦いを見ておりませんでしたが、我が戦ったのと同一であるならば、こちらの攻撃が効かなかった可能性があります」
「そのせいで不覚を取ったか」
メラルダが忌々しそうにつぶやく。
オレも攻撃したが、身体を覆っていた聖気が魔素を含んだ攻撃を弾いていた。
逆に、俺たちの身体には敵の手がスルリと入った。
「聖槍で結界を作り、中に聖気を送り込みつつ、自身を聖気で覆うか。随分と大盤振る舞いじゃな」
「それだけの理由があったのでしょうか」
「分からん。そういえば、研究機関エイラの者だったというのは本当か?」
「伝承にある通りの印でしたので、そう判断しました」
「小覇王ヤマトを追い詰めたエイラか。だとしたら、目的は魂の回収? あれほどの部隊がくればこの被害も頷けるか」
俺たちの周囲で生きている者はほとんどいない。
光の矢のようなものが四方八方へ飛んでいったので、他もどうなっているか分からない。結構絶望的な状況かもしれない。
「空から一方的な攻撃だと対処は難しかったであろうな。我の陣の方も聖気の杭があったゆえ、警戒しておったのだが、こちらに出たとはな」
対空からの攻撃に対処できる者は限られている。
俺たちの陣には、それに対抗できる者は少なかったらしい。
おそらくいたとしても、各個撃破されたのではなかろうか。
生きている者の捜索が始まったが、状況は芳しくない。
敵は結界内のほぼすべての場所に聖気の攻撃をたたき込んだらしかった。
メラルダたちは生き残った者にそのときの状況を聞いている。
俺はその間に、さっきのことを考えてみた。
奴らの狙いは俺で合っていると思う。
実験体だった俺の魂を回収するためにやってきたのだろう。
だが今になってなぜ? という疑問が残る。
「俺からオレに変わったからか?」
それだと「なぜこの時期に」というのが分からない。
オレの出現はもっと以前からだ。
俺の中に魂がもうひとつあることを知って、オレが出現してから十年は経っている。
とすると考えられるのは、俺の支配のオーブが成長したことで、オレの存在がバレたとかだ。
「そう考えるのは早計か。他に理由はあるか?」
天界にいた時は、俺ではなくオレの意識がメインだったのではなかろうか。
白衣の男たちが理解していたのも、オレ。
記録されていたのも、オレ。
だから記憶を持っていたのもオレ。
つまり、オレの魂が元で、それに俺の魂をくっつけた……そんな感じか。
だが、魔界で生まれたときは、『俺』が主だった。
理由は分からないが、オレは表に出ていなかった。だから奴らは見つけられなかったのかもしれない。
「だとすると、命拾いしたってことだよな」
生まれたときからオレが主であった場合、遠からず見つかって、支配のオーブごと魂を抜かれていただろう。
「いや待てよ。どうして見つけたんだ?」
ここが重要だ。
聖気の杭の話を思い出す。
あれを魔界に打ち込んで、天界に情報を送っていたと言っていた。
つまり、ああいったものがないと、天界では魔界の情報を得ることができない。
「すると、あの聖気の杭のせいか」
この野営地の近くに打ち込まれた杭で確証を得たのか?
ハルムとメラルダが話していたので、聞いてみた。
「なあ、聖気の杭ってどのくらい持つんだ?」
「あれは半日から一日くらいのはずだ。込める聖気によっては数日持つこともあるようだが」
ハルムの答えに、俺はやはりと頷いた。
この前バルタサールと『オレ』が戦った。
あのとき、近くに聖気の杭が打ち込まれていたのではないか?
ただし、オレが出ていたのは僅かな時間。すぐに俺に戻った。
研究員は困ったのかもしれない。『オレ』を見つけたと思ったら、『俺』に変わったのだ。
魔界の様子は分からないが、混乱したことだろう。
だがすぐに魂の結合のことを思い出し、これまでの調査で引っかからなかった理由を知った。
そのとき、魔界に来る準備が出来ていたならば話が早いだろうが、見つけたのは突然のことだったので、準備が出来ているはずがない。
そして居場所を特定する前に杭は塩の柱に変わってしまった。俺の居場所はロストしたことだろう。
また捜索し直しだ。
そして最近、この周囲に杭を打ち込んで、ようやく『俺』の方を見つけた。
『オレ』ではなく『俺』だが、前回のデータからすると、こっちでも間違いないと判断。
そんな感じではなかろうか。




