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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第4章 嗚呼無情編
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 俺の所にダイル軍団長の使いが来て、しばらく休みだと言われた。

 オーガ族の訓練はこれで終了らしく、次は部隊に組み込まれて、斥候や警備のやり方を実地で学ぶらしい。


 それは部隊単位で行うので、他の種族の訓練が終わらない限り始められないのだとか。


「戦いの後ですので、療養を兼ねた休息と考えてくださいと言っておりました」


 使者の言葉に俺は考え込んでしまう。

 昨日の集団戦、動いたのは実質半日。


 大した運動量でもなかった。

 疲れただろうから休んでよいと言われても、「疲れたか?」と思う気持ちが先行してしまう。


「分かりましたとお伝えください」

 ただし俺は空気の読める男。余計な口は挟まない。


「すでに軍団長は報告のため、陣を離れております。一両日中には戻るかと思われます。戻られたら伝えておきます」


 どうやらここにはいないらしい。


「そうですか」

 人の上に立つ者は大変だ。あちこちへ出向かねばならない。


「それと、くれぐれも自重してくださいとのことです」

「…………」


 ここで「いつも自重していますが」と答えても意味が無いのだろう。

 俺は曖昧に笑ってやり過ごした。




「……ヒマだ」

 最近、こう呟く回数が増えている気がする。


 休憩を言い渡されて、まだ二日目だ。

 ダイル軍団長は戻ってきていない。


 何か仕事でもと思っても、訓練を終えたばかりの俺たちは、配属が決まっていない。

 ゆえにどこにも居場所がないので、天幕の周辺でダラダラと過ごしているだけだ。


 戦争のときでもあったが、「待ち」は「忍耐」を伴う。そして大切な戦略のひとつだ。

 しびれを切らして攻め入ったりすると、大負けする。


 機が熟すまで待って、しかるべきときに動く。

 それができなければ早死にするだけだ。ゆえに俺は……。


「てめえら、かかってこい!」


 部下たちを揉んで、奴らのガス抜きをしなければならなくなった。


 その日の午後、ふと気がついた。

「リグはどこだ?」

 ここ数日見ていない。


 いつもは夜に俺の天幕に来るのだが、思い返してみても最近見た記憶が無い。

「報告することがないから、来なかったとか?」


 いや、リグはそんな性格ではない。


「ちょっと聞きに行ってくるか」

 ダイル軍団長がいないときは、晶竜族のハルムが俺たちの窓口になってくれている。

 ハルムも律儀な性格のようで、俺が行くとだいたい身体をあけてくれる。




「……というわけで、他の種族を最近見ていないなと」

 思い返してみれば、リグだけでなく、ペイニーたちを含めて、オーガ族以外の種族を見ていなかった。


「いまサバイバル訓練に行っているはずだ」

「サバイバル? 俺たちはやっていない訓練だな」


「オーガ族は日常がサバイバルみたいなものだから、必要ないだろうということになった」

「すごい風評被害だ」


「実際、サバイバルは町暮らしの種族には効果が高いが、普段から半分野生のような暮らしをしている種族には、あまり効果がない訓練だからな」


「そう言われると言い返せませんが」

 オーガ族の場合、俺もどうかと思う生活をしていることが結構ある。


 大体自給自足で事が足りるあたりでおかしいのだが、「なければ作ればいい」とか、「ないなら諦める」という感覚なので、「少しでも快適な環境を!」みたいな欲求を持ち合わせていない。


「ここから歩いて数日の場所で行うので、当分は帰ってこないと思う」

「ずいぶんと遠いですね」


「近場でサバイバルをすると逃げ帰ってくる者が出るのでな」

「あー」


 都会っ子は軟弱というやつか。

 逃げられない環境に身を置いて、否が応でも参加させるわけだ。


「そういうことならば分かりました」

 合格を貰わないかぎり帰れないようなので、ヴァンパイア族あたりだと、かなり厳しいんじゃなかろうか。あいつら、基本的に甘ったれだし。


 逆に逞しくなって戻ってくるのだろうか。そうしたら嬉しい誤算だ。

 俺はハルムの所を辞するため、腰を浮かせた。


「報告します! 聖気せいきの杭が発見されました!」


 急にだれかが飛び込んできた。使者のようだが、聖気の杭ってなんだ?

 ハルムはそれを叱るわけでもなく、「詳しく報告しろ!」とすぐさま言い放った。


「周囲の警戒に出ていました部隊が、ここより西、歩いて一時間ほどの林の中で発見したとのことです。現在、他の杭がないか捜索中であります」


「杭の状態は!」

「いまだ聖気を放っておりまして、触ることができません」


「落ちて間もないな。各部隊に警戒するよう通達。副長は?」

「部隊長を集めて協議にはいるようです」


「それでは遅いかもしれん。ひとり本隊へ使者を出すように……いや、前戦の部隊ふくめてすべてにだ」

「はっ、そのように致します」


 使者は慌てて出て行った。


「……えっと、何です? 聖気の杭?」

「天界から侵攻があるかもしれない」


「えっ!?」

「聖気の杭は、界に穴を開けずに打ち込むことができる。そして聖気を通して、こちらの様子を探ることも」


「そうなんですか?」

「堕天した者の話なので、正しいと思う。それで、杭を打ち込んだ先が海か陸地か、陸地ならば砂地か草地か、それとも町中かを判断する」


「さっき、他の杭を探しているって言っていたのも」


「複数の杭を打ち込んだ方が正確な情報が手に入る。ただし、大量の聖気を使う。聖気は天界の住人にとってもっとも重要なものだ。我々の魔力とも違い、もっと生きる根源と言えるほどの」


 俺たちが魔力の多寡で実力を判断するように、天界の住人はどれだけ体内に聖気を内包しているかで優秀さが決まる。

 ただし、聖気は簡単には増えない。そして聖気が減ると身体が変容してしまう。


 聖気が減ると思考が鈍り、姿形が醜くなる……と天界の住人は考えている。


「我からすると、天界の住人の顔は画一的で表情がなく、お面のようにしか思えないのだがな、奴らはそれがいいらしい」


「所変わればですか」

「ああ。そんなところには、間違っても天界には住みたくないな」


 そんな貴重な聖気を使ってこちらの様子を知るのだから、侵攻の下調べではないかと考えるのが普通らしい。


「そういえばさっき、杭の状態を聞いていましたよね。あれは何だったんですか」


「魔素に触れた聖気は変質し、最終的には塩の柱になる。だが報告にあった杭はいまだ聖気を発しているという話だった。いまだ天界に情報を送り続けていることが分かる」


 もし本気で侵攻してくる気ならば、塩の柱に変わらないうちにやってくるだろうと。

 これがただの調査目的ならば、杭は一本だけで、侵攻はないだろうと。


 だがそう判断して何の準備もしないのは愚策。

 よって他の杭を探しつつ、警戒態勢を取ったようだ。


 天界の侵攻か。ちょっと怖いな。

 俺も武器を装備しに戻った方が良さそうだ。



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