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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第4章 嗚呼無情編
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○訓練場の観客席 軍団長ダイル


 昨日の宣言通り、晶竜しょうりゅう族のハルムが見学しにやってきた。

 観客席には、多くの兵もいる。


 各所に配備されている者を除き、手が空いている兵たちがみなここに集まっている。


「盛況だな」

 ハルムが物見高い兵たちを眺めている。


「噂でしか見たことがないからだろう」

 ダイルの目は、訓練場の中で身体をほぐしている磨羯まかつ族に向けられた。


 本日は集団戦である。

 基礎訓練の中ではもっとも見応えがあろう。


 だがなぜこうも観客が集まっているのか。

 ここにいる兵たちはみな、それを経験し、くぐり抜けているというのに。


 本来ならば、集団戦など暇つぶしの娯楽程度である。

 だが今回、訓練を施す相手が特殊だったりする。


 訓練場に先に到着し、入念な準備をはじめているのは、磨羯族という。


 魔王トラルザードをして「集団戦の勇」とまで言わしめた、いわば伝説の種族である。

 磨羯族を実際に見た者は少ない。そして実際に戦っている姿を見た者はもっと少ない。


「今日使用する大盾と木槍は特注か」

「この日のために作られ、昨晩届きました」


 訓練場の磨羯族たちは、背丈を超えるほど大きな木の盾を持ち、それを振って、感触を確かめている。

 握りが通常より太い木槍を含めて、それらは今回の訓練のためだけに用意されたものだ。

 普段はもっと殺傷力のある鉄製のものを使用している。


「木の弓? ただの木で出来た矢では、オーガ族の肌は通さないだろう」

やじりが付けられないが、だからといって戦い方は変えないらしい」

「なるほど。従来の慣れたやり方の方がいいわけだな」


 磨羯族が持つ弓は、盾や槍に比べて小さい。携帯性を重視するとそうなってしまう。

 彼らは精密射撃を可能とするだけの腕を持っているが、今回使用できる武器に金属が使えず、鏃を抜いたものを用意している。


「それでもあの盾の妙技と槍の連携で問題ないでしょう。単体の実力ではオーガ族より少し強いくらいですが、なにしろ磨羯族にはアレがある」


「――特殊技能の〈相乗効果〉か」

 ハルイの言葉にダイルは頷く。


「今回は同数の戦いのため二十体だけだが、それでも全員が〈相乗効果〉を使う。あの数でも黒動亀族の突進すら弾くらしい」


 突進で建物どころか、城の門すら破壊できるあの「黒動亀族の突進」をわずか二十体の密集防御で防ぐという。


「そして攻めあぐねたところに槍が向かうわけか」

 同じ動作をする者が多ければ多いほど、〈相乗効果〉の力は強くなる。


 全員で盾を持てば、どれほどの防御力を発揮するか。

 全員が槍を持てば、どれほどの効果を発揮するか。


 そもそもこの磨羯族の存在は秘匿されている。

 十名、二十名、五十名、百名と同じ事をする者が増えれば増えただけ、その効果が高まるのである。


〈相乗効果〉によって、格上の存在と対等に渡り合える。

 もし磨羯族の数が増えれば、一大国家を形成することすら可能であろう。それだけのポテンシャルを備えているのである。


「オーガ族がどのくらい善戦するか楽しみだな」

「少しはいいところを見たい気もするが、さすがに無理でしょう」


 ダイルがわざわざ本隊から借り受けてきたのだ。

 磨羯族は本来、将軍とともにある存在。軍の中でも精鋭である。


「オーガ族がやってきたようだな」

「お手並み拝見といきましょう」


 訓練場の反対側から入場してきたオーガ族は、みな手に何かを持っていた。


「あれは……」

「……丸太?」


 オーガ族の全員が肩に丸太を担いでいた。


「何をするつもりだ?」

「あそこで陣を作るとか?」


 ダイルとハルムが首を傾げる中、訓練開始を告げる声が会場に響いた。




○訓練場 ゴーラン


「――みんな、丸太は持ったな!」


「「「うぇ~っす!」」」


 俺のかけ声に、全員の返答があった。問題なさそうだ。

 丸太は昨日、森に入って伐ってきたやつだ。


 太さは電柱の倍くらい。長さは……電柱より長い。

 だが〈腕力強化〉したオーガ族ならば、持って戦える。


 訓練開始の合図が鳴ったが、敵は盾を構えて亀のように丸まってしまった。

 ちょうどいい。こちらから攻めるとしよう。


「いくぞ! 囲め」


 丸太を抱えたまま走り、敵を囲うように陣取る。

 途中、矢が降ってきたが、念のためにと装備した革鎧すら貫通しなかった。

 落ちた矢を見たら、鏃の部分がぶった切られていた。それじゃあ、オーガ族の肌は貫けない。


 昨日のエア訓練をみたとき、ずいぶんと大きそうな盾を想定していると思ったら、背丈以上の盾を用意していやがった。

 こっちも準備しておいてよかった。


「大木の準備はいいか?」


「もちろんでさ」

「あとちょいで、行けます」


 今回、俺は『大盾を無視できる攻撃』を用意することにした。

 オーガ族が持てる最大の丸太……それも複数人で持つくらいのものが相応しい。

 昨日思いついて、探し出したのがこれだ。


「まるで世界遺産だな」


 六人のオーガ族がようやく持ち上げられるほどの丸太。

 伐り倒すだけで、三時間もかかった。しかも四方向から同時にはじめてだ。


「持ち上げろ!」

「ういーっす!」


 敵が縮こまっているならば、こいつでこじ開けるだけだ。


 本来持ったまま突っ込む予定だったが、これを上から叩きつけてやる。


「半分、補助しろ!」

 六人では持ち上がらなかったので、倍の十二人でなんとかあがった。


 何人かが阻止しに動いてくると思って、俺とサイファ、ベッカの三人はずっと敵陣の正面にいたが、その気配はない。


 敵は足並みを揃えないと死ぬ病気にでもかかっているのか?

 ここは犠牲覚悟で何人か出すところだろうに。


「そのまま落とせ!」

 それでも出てこないのならば、都合がよい。

 まるで世界遺産に登録できそうな巨木の丸太が、敵の頭上に落とされた。


 ――ズズズーン


 自重と落下速度が加わればこんなものだ。

 大地が揺れ、敵が空中に投げ出された。


 観客席から「相乗効果ぁー!」と悲痛な声が聞こえたが、あれは一体、どういう意味だろう。


 見れば、敵の半数が木の下敷きになって、残りは左右に跳ね飛ばされていた。


「丸太だ! 丸太で叩け!」

「うぉおおおおっ!」


 起き上がろうとする敵に向かって、俺は一心不乱に丸太で叩く、叩く、叩く、叩く。

 まるでボクシング漫画のように同じ動作を延々と繰り返した。


 途中、観客の中から「相乗効果がぁ! 相乗効果がぁ!」と煩かった。


 この訓練、リーダー格の者が敗北宣言しないと終わらない。

 だがそれがまだないということは、訓練は続いているわけだ。


「てめぇら、へばるなよ! 死ぬ気で叩け。叩かない奴は、あとで怖ぇええぞ!」


「「はいっ!!!」」


 素直な奴らだ。

 丸太を打ち下ろす音が激しくなった。


「なんだっけな、この音……どこかで聞いたような」


 しばらくして思い出した。

 生前聞いた、打楽器のシンフォニーだ。


 楽しくなって、俺もこのオーケストラに参加した。


 どれくらい時間が経っただろうか、気がついたら軍団長のダイルが俺の腰にしがみついて、止めてくれと叫んでいた。



 この訓練、敵のリーダーの降参で終わるのだけど、どうして軍団長が?



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― 新着の感想 ―
[一言] やる事・成すこと全部が「現代知識+オーガ族の常識」で、キテレツすぎんのよw そりゃ世界遺産に登録されるくらいの大木がありゃ城の門くらい破壊できらぁ
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