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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第4章 嗚呼無情編
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 夜になって、俺のもとにダイル軍団長から使いの者が来た。


 何かと思ったら、軍団長が俺宛に手紙を書いたという。

 俺が手紙を受け取ると、使者はそのまま帰っていった。

 仕方ないので、寝台に寝転がりながら手紙を読んだ。


 魔界に時候の挨拶を書く習慣はないし、そもそも軍人は文面に余計な装飾をしない。

 簡潔に用件だけを伝えてくる。


「……と思ったんだけど」


 手紙がやたらと長い。

 連日の訓練参加を労うとともに、今日の成果を大変褒めてくれた。


 薄気味悪いほどベタ褒めである。

 当然俺は、この手紙に裏があると勘ぐってしまい、リグを呼んで一緒に解読することにした。


「別段おかしいところはございませんが」

「そんなはずはないだろ。何か仕掛けがしてあるはずだ」


「そう言われましても……」

 困った顔を見せるリグだが、ここは譲れない。


 これまでの訓練を思い出してみた。

 軍団長が用意した訓練は、どうひいき目に見ても「意地が悪い」としか言い様がない内容だった。


 ならなこの手紙にもきっと仕掛けがしてある。

 俺はそう思ったのだが……。


「本当に何もないと思いますよ。用件は……明日の訓練は休み。いえ、訓練開始は事前に伝達をするのでそれまで休憩と書いてありますし、それでよろしいかと」


「そんなはずはないだろっ! きっと裏があるって。おいリグ、この手紙で相手の裏をかく方法を考えてみろ。それが答えだ」

 それが答えだ。


 俺が必死に言い募るが、リグは「私は明日も訓練がありますので、これで失礼します」と出て行ってしまった。


「おかしいだろ。休みと思わせて早朝に集合しないと失格とか、休憩だって日付が変わる前に撤回するとか……いや待てよ、明日以降しばらく訓練は休みとあったが、特訓があるのかもしれない。そうか、騙されんぞ!」


 俺たちに課されたのは、訓練だけではないということか。

 ならば明日、目にもの見せてくれる。




 そして翌朝。

 俺はまだかまだかと待ち構えていたのに、ダイル軍団長は本当に休みにしてどっかいってしまった。


 いつまで待っても特訓の知らせが来ないから、こっちから聞きに行ったら、すわ反乱かと、軍団長の本部が一時騒然となってしまった。


 俺がフル装備に剣と金棒を担いだ姿で現れたから、多少は驚くかもしれないだろうが、あそこまで過剰反応されるとは思わなかった。


「思わず、副軍団長をノしてしまったぞ」


 軍団長直属の部隊が槍を構えて走ってきたので、手近にいた副軍団長を人質にとり、囲みを脱した。


 その際、副軍団長があまりに騒ぐので、金棒で殴り続けたらぐったりしたので担いで脱出できたが、あやうく無実の罪で捕まるところだった。


「そういえば副軍団長はどうしたっけな」

 途中で邪魔になって放り出したが、無事だろうか。


 ダイル軍団長は昨晩のうちにメラルダ将軍のいる本陣に行っていたらしく、帰ってきたときには、副軍団長奪還のための軍を編成している最中だったらしい。


 それはきっと誤解だからと、戦闘準備をはじめる部隊を宥め、俺とサシで話をしたいとやってきた。


 ただし、軍団長の後ろには、直属部隊が武器を手に掛けたまま十人ばかし佇んでいたものだから、不穏な空気を感じ取ったオーガ族の連中が、先制攻撃を仕掛けてしまった。


 もちろん奇襲を想定していた直属部隊は、そんなミエミエの襲撃にも動揺することなく冷静に対処していた。


 直属部隊は実剣を装備しており、あれでは仲間たちの分が悪い。

 そこにサイファとベッカが割って入り、止めるのかと思ったら嬉々として参戦。


 しかたないので俺も加わってようやく静かにさせることができた。


 ようやくダイルと話ができると思ったら、「なぜ反乱を起こした? これはファルネーゼ将軍の差し金か?」と言い出した。


 だから誤解だと言おうとして気付いた。

 足下に転がっている直属部隊を俺が踏みつけていることに。


 まあ、誠心誠意話したら、分かってくれた。

 途中、二回くらい武器を抜いたが。


 向こうの誤解からはじまったと俺は思っているが、完全武装をして、ダイルはどこだと血相を変えて飛び込んできた俺を見て、本部の連中は殴り込みにきたと思ってもしょうがないと言いたいらしい。


 抜き打ちの特訓があるかもしれないので準備していたと答えておいた。


「ゴーランが血走った目で駆け込んできたと聞いたが」

「どんな特訓なのか考えていたんで、寝不足だったんですよ」

「…………」


 ちなみに放り出された副軍団長は回収できた。

 貴い犠牲ということで我慢してもらった。


「そもそも何で手紙だったんです?」

 昨日の夜、手紙を受け取ってから、俺は何か裏があるんじゃないかとずっと悶々としていたのだ。


「次の訓練のことで、本陣にお願いしに行くことにしたのだ。出かける準備を部下にさせている時間を利用して、手紙を書いた。直接会いに行っても良かったが、夜のうちにここを出れば明日の朝には本陣に着くからな」


 聞いてみればなんのこともない。

 ただ時間がなかっただけのようだ。


「まあ、その件は分かりましたけど、準備ができるまで休みっていうのも……」

「休めるときは休む。そのことも軍役の中で学ばねばならん」


「それはそうですけど」


 うちの連中、いま最高にヒャッハーな状態なので、こんなときに休ませると、暴発するんじゃないかと心配だったりする。


「実際、他の種族の訓練もそこまで進んでいないしな。できることなら、足並みを揃えたい」


「そういうことですか。そういえばひとつ気になったんですけど」


「なんだ?」

「いま、種族ごとで訓練をしていますけど、合同訓練はしないんですか?」


 不思議なのは、種族ごとに訓練内容がバラバラであることだ。


「いま受けているのは基礎訓練だからな。基礎訓練は種族ごとが原則だ。そもそもこの訓練の目標のひとつに、種族が一丸となって動けるようになるというのがある」


「同種族内ですら意思疎通がはかれないと、他種族相手ではもっと無理ですか」


「その通りだ。そして複数の種族が集まる訓練は、我が軍の機密にも属する。この基礎訓練を終えても、それは教えることができん」


 そこから軍の動きが予測されてしまうので、一切秘密であるという。


「分かりました。もっともな理由だと思います。それで俺たちの訓練はいつ頃再開できそうですか」


「いま相応しい者たちを用意してもらっている。二、三日中には到着すると思う。来たら連絡を入れる。その後、訓練再開だ」

「了解しました」


「それと、あまり完全武装でうろつかないでくれ。さすがに部下たちが怖がる」

「別に俺、全方位に噛みついたりしないですよ」


「それは部下も分かっている。だが八方向のうち、四方向くらい噛みつくことが分かっている存在は、やはり警戒したくなるものなのだよ。では、私はこれで失礼する」


「お疲れです」

「ああ……」


 ダイルが出て行ったあと、俺はふと考えた。


「……四方向も噛みついているか?」


 これは甚だしい風評被害だ。



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