表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第4章 嗚呼無情編
149/359

149

「俺に作戦がある。坂の下からやってくる部隊は俺がやる。お前たちは前方の敵を全力で蹴散らすんだ。終わったら非戦闘員を連れてゴール地点に向かえ。俺は後から追いつく」


 時間がないので、俺は手短に作戦を説明した。


 敵は俺たちに二面作戦を強要しているのだから、馬鹿正直に付き合うつもりはない。


「作戦は以上だ。分かったな」


「よく分からねえけど、オレたちはいつも通り戦えばいいわけ?」

「そうだ。脇目もふらず敵を蹴散らせ!」


「おっしゃ、それなら得意だぜ」


「簡単だろ」

「いつやるの?」

「今だぜ!」


「お前ら……非戦闘員を忘れ……行っちまったよ」

 ひゃぁっほーとかいいながら、全員が走り出した。


「……というわけで、アンタたちはゆるゆるとアイツらの跡を追ってくれ」


 非戦闘員にそれだけ言い残すと、俺は坂を駆け下りた。

 俺の予想が確かならば、この坂の下にいる連中は防御特化の種族だ。


 わざと音を立てて存在をアピールし、坂の下に誘い込む。

 下から上がってくるのと、上から降りてくるの。当然、上からやってくる方が勢いがある。


 だが敵はそれを止めるくらい防御力が高い。

 この木で出来た棍棒では、ダメージが与えられないほど。


 すると戦線は膠着。攻めあぐねるわけだ。

 そこに上から援軍が現れて、俺たちは挟撃される。そんな感じだろう。


 ハッキリ言って嫌な手だ。

 この位置取りと敵の現れ方をみると、それ以外に考えられない。


「まともにゴールさせてくれねえだろうとは思ったが、そうきたか」


 茂みから現れたのは、真っ黒な甲羅を持った黒動亀こくどうがめ族だ。

「防御特化ってレベルじゃねーだろ」


 この黒動亀族。

 現れた数は五体と少ないが、種族レベルは死神族とほぼ変わらない。余裕でオーガ族を蹴散らせる。


 あの甲羅はとにかく固くて頑丈で、俺たちの本来の武器――金棒で叩いても相当苦労させられるしろものだ。


 それなら戦わなくていいと思うかもしれないが、こいつらは足が速い。

 攻城戦だと、黒動亀を数体突っ込ませるだけで敵陣が壊滅したりする。


 重い甲羅を普段から背負っているせいか足が丈夫で、唯一攻撃できそうだと錯覚して攻撃しても全然通じなかったりする。


「俺が何もしないと非戦闘員に追いつかれてしまうよな。……つぅことで、いっちょやりますかね。このタイプは手じゃなくて、前足ってところが攻略ポイントなんだよな」


 俺はニヤリと笑った。




○ゴール地点 軍団長ダイル


 ゴーランたちが現れるのをダイル軍団長は待っていた。

 といっても現れない可能性が高い。

 そもそもこれは……と思っていたら、予定時間を大幅に短縮して、連中は現れた。


 ダイルは目を瞬いた。

 非戦闘員も連れているのが見えたからだ。


 まだゴールしたばかりで数のチェックは終わってないが、おそらく全員いるのではなかろうか。

 つまり第二の訓練は、一発で合格となる。


 というか、これ、合格させない訓練なのだが……?

 ダイルは「意味が分からない」と頭を抱えた。


「ゴーランはどこだ?」

 責任者に聞いてみようと探したが見当たらない。


「ゴーラン? あとから来るんじゃね?」

「あとから? どういうことだ?」


 リーダーが単独行動? これもまた意味が分からない。


「なんつぅか、坂の下から敵が来たって一人で向かったぜ」

 オーガ族の一人がそんなことを言った。


 すると黒動亀族と知らずに戦いを挑んだのか。

 あれは走る小山だ。踏まれただけで骨が粉になる。


「だとするとゴーランはもう……」

「そろそろ来るんじゃ?」


 楽観的なオーガ族の言葉を聞いて、ダイルは可哀想に思った。


「残念だが彼はもう来ない。生きていればいいが」

 あんなものにひとりで立ち向かったか。なんて無謀な。


「ねえ、聞いたぁ? 生きていればだって! ちょ~ウケる」

 女のオーガ族が言うと、全員がゲラゲラと笑った。何がおかしいのだ。


「黒動亀族と戦ったのだろう? 勝てるわけがない。それに逃げ切れるわけも。何しろあれは見た目よりずっと足が速いのだ……から?」


 ダイルはここで違和感に気付いた。なぜオーガ族が無事でいる?

 黒動亀族はどこにいったのだ?


 ダイルは最後の障害として、馬頭鬼めずき族を配置した。

 実力のない部隊の場合、どこでどう戦っても挟撃される。


 実力が十分な部隊でも、軍をふたつに分けて戦わねばならず、少ない方の部隊が負ける。


 この最後の障害は、どうやっても勝てないようになっているのだ。

 最後に配置した馬頭鬼族は、全員で当たらないと勝てないようになっている。


 つまり部隊を分けた時点で負けは確定。

 かといって、後ろから黒動亀族が迫っているのだから、全軍で突撃をかけても戦っている間に非戦闘員が襲われる。


 先に坂の下の黒動亀族を倒そうとしても、その戦闘音が聞こえた瞬間に馬頭鬼族が殺到する手はずになっていた。


 つまりどうやっても勝てない戦いを経験させて、そこから学ばせる。

 いわゆる心を折りに行って、そこから這い上がらせるのがこの訓練の目的であった。


 そして不思議なのは、馬頭鬼族と戦ったあと、非戦闘員を連れてゴールしてきたにもかかわらず、黒動亀族の襲撃がなかったことだ。


「どういうことだ?」


 ダイルは非戦闘員の中にいた晶竜族のハルムを見つめた。

 ハルムは首を横に振る。彼も分からないらしい。


 勝てるはずのない二部隊に挟まれて、非戦闘員を無事にここまで連れてきた。

 果たしてそんなことが可能なのか。


「いやー、遅れちまったな」

「ゴーラン!?」


 ダイルが声を上げると、ゴーランは「どもっ」と手を振り返した。

 オーガ族の話では、黒動亀族と戦うためにひとりで向かったと聞いた。


「おっ、みんなゴールしたか。ということはこの訓練もこれで終了だな」

「そうだね!」

「ゴーラン、次はなんだ?」

「知らねえよ。俺に聞くな」


 和気藹々と話すゴーランに、戦闘による怪我は見当たらない。

 本当に訳が分からないとダイルは思った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ