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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第4章 嗚呼無情編
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 俺はリグから受け取った武器を手に取る。


 布でくるまれたそれを剥がすと、深海竜の太刀が現れた。

 もうひとつは、手に馴染んだ俺の相棒だ。これも俺の大事な武器。

 鬼には金棒がよく似合う。俺はそう思っている。


 だが今回は、相棒よりもこっちだ。

 深海竜の太刀を右手に持ち、金棒は近くの地面にぶっ刺しておく。

 予想通りならば、これを使うことはないはずだ。


 実戦で深海竜の太刀を使うのは初めてだ。

 ただし、練習ではそれこそ手にマメができるほど振った。


 それゆえ、深海竜の太刀はよく手に馴染んでいる。

 こいつは藁どころか、丸太くらいまでならスッパリ斬ってくれる。


 切れ味と頑丈さは、俺が今まで持った武器の中で最強だ。


 俺が両手で武器を構えたことで、バルタサールが立ち上がった。

 警戒したのだろう。


「ゴーランよ、どういうつもりじゃ?」

 メラルダ将軍は険しい顔をしている。先ほどの戦いが終わった直後に俺がこんなことをして、驚いているのかもしれない。


「コイツは俺を挑発した。そして喧嘩して負けた。なあ、そこまではいいよな」

 バルタサールの方を向いてしっかりと言い放つ。


 何か言い返したい顔をしているが、一方的にやられた事実は覆せない。

 なにしろ同じ軍団長たちが見ている中で敗北し、あろうことかメラルダ将軍に止められたのだから。


「それがどうしたのじゃ?」

 代わりにメラルダ将軍が答える。


「あれで決着は付いたと俺は思ったんですけどね。本人は『次は負けない』と言う」

「うむ。たしかに言っておったな」


 他の軍団長たちも「次は負けない」という言葉を聞いたようで、頷いている。

 俺はそれを聞いたからこそ、天幕を引っぺがしたのだ。


「じゃあ、『次』をやりましょう。奴は次と言った。俺に挑戦したんです。俺はそれを受ける!」


 バルタサールはこう言いたかったのだ。「次回戦うことになっても負けない」と。

 それはそうだろう。地力が違うのだから、俺が勝てる道理はない。

 だが、次が『今』ならば別だ。

 俺はずっと勝てるように算段をつけていたのだから。


「おっしゃぁー! ゴーラン、やっちまえ!」

「叩き潰せ!」

「おめえ、叩き斬れだろ。手に持ってるのを見ろよ」

「ぶった斬れ!」


 都合がいいことに身内連中が騒いでくれる。これで奴は断りづらくなった。

「武器を持つか? それでいいなら行くぞ」


 俺は余裕たっぷりに言い放った。

 ここの天幕に入るまでに、グランガチ族の装備はしっかり目に焼き付けてきた。


 奴らはショートスピアと盾を使う。

 自分の背丈より少し長い程度の鉄槍をだれもが装備していた。


 魔界では、長槍は使いづらいのだろう。あれは隊列を組んで同時に使うからこそ効果を発揮する。

 各自の技量で戦う場合、長槍は味方を巻き込んでばかりになるはずだ。


 バルタサールも例に漏れず、ショートスピアと盾の使い手だろう。

 それを理解していたからこそ、最初の組み手で、利き手の指を折っている。


 折ったのは、親指と小指だ。


 槍を握ると分かるが、その二本の指が使えないと、どうにも握りが甘くなる。

 そしてオーガ族と同じグランガチ族は、自己治癒の魔法が使えない。


 強靱的な回復力を持っているから、数日もすれば骨折はくっつく。

 だが、「今この時間だけでは無理」なのだ。


 気を利かせた同族が、バルタサールの槍と盾を手渡しにくる。


 バルタサールは戸惑っている。指の骨折は、軽微な怪我に部類される。

 だが、戦う上ではどうだろう。


 片手槍の場合、二本の指が使えないと、かなり不利になる。

 バルタサールはそれを感じ取っているのだ。


 利き手以外での鍛錬などやったことはないだろう。

 三本指で鉄槍を握ってまともに戦えるのか。


 俺は最初に戦ったときから、それを考えていた。

 すべて俺の掌の上だ。


 そして切り札の剣もある。

 魔界の深海がどのくらいの深さなのか俺は知らない。

 だが海上と深海を行き来できる深海竜とは、どれほどの強者なのか。


 日本の技術では再現できないほどの強骨格を持っているのは確実。

 それを加工して造ったこの太刀だ。存分に確かめてやる。


 バルタサールが不承不承、槍を握る。俺は目を細めた。

 奴が盾を握った瞬間に、俺は駆け出すつもりだ。そこで一気に決める。


 俺は身体中に魔素を巡らし、脳内がアドレナリンでパンパンになった頃、奴の視線が俺から一瞬だけ外れた。


 ――今だっ!


 踏み込もうとした瞬間、バルタサールの姿が吹っ飛んだ。

「なっ!?」

 気付いた時には、バルタサールが観衆のただ中に埋もれていた。


 何が起こったか理解するよりも早く、俺は太刀を胸の前に引き寄せ、防御の姿勢をとっ……。



 頭がぐらんぐらんする。殴られたのだと分かったが、視界が回っている。

 だめだ、意識を保っていられない……これ、気絶したら終わるやつ?


 意識は……もって、あと数秒。

『俺』は『オレ』に後を任せ……まか……せ……


               ○


○メラルダ将軍


 ゴーランが白い太刀を腰に差したとき、我はすべてを理解した。

 同時に背中に氷の塊を突っ込まれたような感覚を覚えた。


 ゴーランがなぜ天幕を追いやったのか。その意味がようやく分かったのだ。


 執拗にバルタサールの指を狙ったのは、そこが弱い箇所だからではなかった。

 指を折ったのはただの布石。


 本命は武器を持った戦いにもっていったときに、有利にことを運ぶため。すでに最初から計算され尽くされていた。


 我が戦いを止めたとき、ゴーランは「余計なことを」という顔をした。

 単純に追撃の機会を失わせたからだと我は思っていたが、ゴーランが手に持ったキバは、バルタサールのもの。

 はじめから右目を狙っていたのだ。そのために、先にキバを折った。


 一体ゴーランはどこまで先を読んでいたのか。空恐ろしいものを感じる。


 我が戦いを止めたあと、ゴーランは自分が勝ったにもかかわらず、煽りを続けた。

 それは戦いの興奮が冷めやらないゆえの行動かと思ったが、それすらも作戦のうちだった。


 我はそれに気付かず、問いかけてしまった。

 バルタサールも同様で、「次は勝つ」と言っていた。


 ゴーランは待ってましたとばかり、天幕を取り去ったが、考えてみれば先ほどのあれで戦いは決着をみた。ゴーランの勝ちだったのだ。


 あとはバルタサールが再戦をするかだが、あれの性格からすれば、必ずやる。

 だからゴーランは、自分が有利な状態のまま再戦するために煽ったのだ。


「次は勝つ」と言ったのを挑戦と受け止め、ゴーランは承諾した。

 一旦挑んだものを取り消せば、威信は地に落ちる。

 怖くなったと思われるからだ。バルタサールは窮地に陥った。


 衆人環境のもと、バルタサールは引くに引けない状況に追い込まれてしまった。

 ゴーランが太刀と金棒を持ってこいと言ったならば、我は理由をつけて止めた。

 部下を走らせなかった。


 我はあそこでも失敗した。我が気付いたのは、白い太刀を出したときだったのだ。


 そしてバルタサールは気付いていない。

 槍と盾を受け取った瞬間から、ゴーランは一気呵成に攻め立てるだろう。

 そのために今までお膳立てしたのだ。


 勝算があるに違いない。

 もしゴーランが我の思っているレベルに達しているならば、バルタサールの指や手首くらい、ポンポンと飛ばす。


 それどころか、心臓をひと突きするかもしれない。

 ゴーランは、それを狙っている。

 後顧の憂いを除くため、致命傷以上を与えるつもりだ。


 我はとっさに特殊能力の『絶身ぜつしん』を使った。

 これは、あらかじめ行動を決めておけば、離れた場所でそれを実行できる。


 ヴァンパイア族にも『瞬移しゅんい』があるが、あれは間を飛ばして高速で移動する技だ。


 我のは最初と最後だけ。間はない。

 その分、技の自由度は低いが、決めた動作を離れた場所まで一瞬で移動して行える。


 バルタサールを一撃で殴り倒した『絶身』は、ゴーランにも振るわれた。

 まったく同じ力でだ。

 正直、ゴーランの上半身が吹き飛ぶんじゃないかと少しだけ心配した。


 そうでなくても、二度と身体を動かせなくなるかもしれない。

 そうしたら、代わりの戦士を差し出し、ゴーランはこちらで面倒みよう。


『絶身』は途中で変更も、力の加減もできない技なのだ。


 と思ったら、拳に変な感触を得た。

 刀身で受けられたようだ。だがどうやって?


『絶身』は、予備動作などない。

 どれだけの強さでどう殴るか決めたあとは、自動で決まる。

 もし防御できたとしたら、それは我が移動する前に防御を終わらせていなければならない。


 移動前、ゴーランは太刀を構えていて、防御の姿勢を取っていなかった。

 我がバルタサールを殴り終わった直後にはもう、我が攻撃してくるのを見越して、防御をしていたことになる。


 なんという戦闘本能。なんという対人勘の鋭さ。


 我は驚いた。

 他の小魔王相手ですら防がれたことがない『絶身』を防がれたのだ。


 それでもオーガ族の上半身が吹っ飛ぶくらいの力が込められていた。

 太刀で受けたとしても、十日やそこいらは目を覚まさないだろう。数ヶ月間は寝たきりになるかもしれない。


 それは素直に謝ろう。

 今回、バルタサールを成長させたくて、少々無茶をしたのも事実だ。

 そのしわ寄せがゴーランに行ってしまっては申し訳ない。


 そう思ったら、ゴーランが立ち上がった。

「………………」

 開いた口が塞がらなかった。あれを喰らって立つのか?


 バルタサールですらいまだピクリともしないのに、同じ強さで殴ったゴーランは、気絶すらしない。

 しかも立ち上がったゴーランはどこか違う。

 あれは……なんだ? なんなんだ?



「過保護が過ぎるんじゃないか?」

 ゴーランの、それはそれは低い声がした。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] バルタサールが2回立ち上がってます。 前回の話 ************************* 俺を含めて、バルタサールやメラルダ将軍、周囲の兵たちの視線が俺の足下に注がれる。 …
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