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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第4章 嗚呼無情編
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 どうやらバルタサール軍団長は、俺に文句を言いたいらしい。


「何か気に障ることがありましたか」


 もちろん俺は、そんな文句など、軽く流せるスキルを持っている。

 ゆえに穏やかに返した。


 相手の気持ちをおもんばかって、ソフトに応対できる俺。

 できる男は違うなと、自分でも思う。


「ふん、脳筋のオーガ族に言った所で、分からんか」

 とご立腹のようす。


「ふむ」

 一連の嫌みを俺が理解できていないと思われている。


 バルタサールが直前に言った言葉を思い返す。

 たしか、「話を真に受けて本当にやってきた」とかなんとか。


 これはメラルダ将軍が俺たちに持ちかけた交渉――部隊の交換について、「本当に来るとは馬鹿な奴め。足手まといになるんだから遠慮しろ」と言いたいわけだ。


 互いに部隊を派遣した理由。

 メラルダ将軍が、勝手に自軍の部隊を他国に提供するのは、色々とまずい。

 魔王本人や他の将軍、他国に対して、申し開きしにくいのかもしれない。


 そもそも部隊はすべて、魔王トラルザードから預かったものである。

 だからメラルダ将軍は、軍を交換しようと提案したのだ。


 これならば両国の条件は一緒、優劣もなければ、面倒な説明もいらない。

 もっとも、平等なのは書類上だけだが。


 小魔王レニノスらの覇権を阻止したいのは、メラルダ将軍もファルネーゼ将軍も同じ。

 ゆえに互いの利害が合致し、双方丸く収まる案がこの部隊の交換であった。


 ただし、俺たちの国から派遣する部隊は……正直いって弱い。

 何しろ強かったら、その部隊で小魔王レニノスを倒しに行っている。


 それができないからこそ、メラルダ将軍の案に乗ったのだ。


 一方バルタサール軍団長は、「使えない部隊」がやってきたことに失望と怒りを感じている。その気持ちは分かる。よく分かる。

 足手まといが来るくらいならば、来ない方がマシだ。なぜ、ノコノコと来たのか。そう言いたいのだ。


 ゆえに俺は、優しい気持ちでこう伝えた。


「上の決めたことに俺は従いますし、それを批判することは、上の考え、つまり両国の決定を蔑ろにすることでもあります。どうかここは……」

「うるさい馬鹿」


 うん、通じなかった。

 しょうがないので、俺はニコニコしている。

 書類上とはいえ、部隊の交換をしているのだから、部隊を派遣しないわけにはいかない。

 役立たずが来るのはメラルダは百も承知だ。


 それに「足手まといは要らないから送らないでくれ」とメラルダ将軍が言わなかったのにも訳がある。ちゃんとあるのだ。


 オーガ族や死神族は一応ファルネーゼ将軍の直属。

 戦闘経験のない飛鷲族の若者たちは、あれで次代を代表する者たちである。

 もっとも使えないヴァンパイア族にいたっては、甘ったれではあるが、血筋はいい。

 みな失うと惜しい、もしくは政治的に問題になる連中が揃っている。


 つまり俺たち、派遣した部隊を磨り潰させないための保険、もしくは裏で策謀させないための人質のようなものなのだ。


 ちょっとした抑止力程度の力しかないが、それでもいるといないとでは、派遣したメラルダ将軍の部下たちの心情は違う。

 部隊を交換しているからこそ、安心して国境をまたげるのだ。


 それを分かったような口で批判するバルタサールこそ何も分かっていない。


「そもそも何が不満なのでしょう? 俺たちが嫌ならば関わらなければいいのでは?」

 部隊も違うわけだし、交流を避けようと思えば、ずっと避けられるはずだ。


「お前たちのようなうさん臭い部隊が本陣に詰めると聞いて、俺は耳を疑ったぞ。なぜ俺が前衛で、お前らが本陣なんだ!」

 テーブルをダンッと叩いたバルタサールに、俺はため息を隠さなかった。


「……何も分かっていない」

「なんだと?」


 今の話からすると、直前までダイルとバルタサールの布陣は逆だったようだ。

 ダイルが本陣にいて、俺たちを鍛える。それはなんらおかしい事ではない。


 本陣のひとつ先――前線から一歩引いた場所を守るのは、メラルダから信頼されている証しだ。


 あの場所は、いつどこに後詰めに行くか、非常にシビアな判断を要求される。

 神出鬼没なネヒョルのことだ。もしかすると直接本陣を狙いにくるかもしれない。


 バルタサールの位置は、どこへでも行けて、どこに行くか自身で決めなければならない重要なポジションである。

 それが不満とは……本当に何も分かっていない。


「本陣守護の役目は重要で、とても名誉なことでしょうが、本陣に入った部隊はどこにも動きません。いえ、動けません。本陣を守ることが仕事ですから」

「だったらなんだ」


「ダイル軍団長は、俺たちの訓練もありますので、本陣に詰めるのは理に適っていたのですよ」


 信頼度で言えば、バルタサールの方が上だったはずだ。

 だが奴は、自分で不平を言い、布陣を変えさせた。


 さすがに前線の三部隊を変える訳にはいかないので、ダイル軍団長は一番神経を使わされる重要な場所へ、移動することになってしまった。

 加えて俺たちの訓練も施すというブラックな職場だ。


 メラルダがそれを許したのは、バルタサールに全体を見る目がなかったからだろう。

 あの難しい位置取りの意味を分からないならば、そこに派遣しても意味は無い。そう判断したのだ。


 よって俺は「あーあ、やっちゃった」という思いを込めて、ため息を吐いたのである。


「オーガ族のくせにっ!」

 バルタサールが立ち上がった。




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