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敵の侵攻もあることだし、今すぐにでも魔王トラルザード領へ向かいたい。
「……って思っだんだけどなぁ」
俺はいま、絶賛突き上げを喰らっている。
俺の前に集まったのは、ヴァンパイア族が二十体くらい。
しかも、この町を守る正規兵たちだという。
町の正規兵……ヴァンパイア族という上位種族に加えて、代々町の守護を任されている由緒ある連中といった感じだ。
そんな彼らが、なぜ俺に突っかかっているのかといえば。
「野蛮なだけのオーガ族に隊長が務まるか!」
彼らの文句を集約すれば、上のようになる。
「済まんな。どうしてもゴーランに会わせろと言うのでね」
ファルネーゼ将軍も強く出られないらしい。
将軍はもちろんこの町のトップ。
だからといえ、何でもかんでも思い通りになるわけではない。
たとえば今回、俺と一緒にトラルザード領へいくヴァンパイア族の十名。
将軍は少々強引な感じで、彼らを選抜したという。
選ばれた十名は、この町の正規兵の息子や娘たちだ。
彼らには強く成長してほしい。将軍はそう思っている。
ゆえにここで試練を与えたかったらしい。
というのも、正規兵の子息であっても戦闘が得意とは限らない。
忍耐強いわけではない。
早い話、ヴァンパイア族の落ちこぼれである。
プー太郎やプー子と言えば分かりやすいだろうか。
無職でも、家事手伝いでもいい。
引きこもりやニートと呼んでも構わない。
そういう存在だ。
上位種族に生まれ、立派な親を持ち、安全な町に住んだからだろうか。
折れやすい心に反して、プライドだけが高いのだという。
彼らには成長してもらって、将来この町を守ってもらいたい。
そんな気持ちから、将軍は多少強引であっても、選んでしまったのだという。
そこへ「待った」を掛けたのは、なんとその親たちである。
「他国へ赴かせるなどとんでもない」
「ウチの子はできるんだから、そんな修業は必要ない」
「そもそもオーガ族が率いるなんて、前代未聞だ」
等々。
将軍が本人の了承を得ずに決めたことで、こうして文句を言いに来たのである。
俺からしてみれば、すでに成人した者たちに対して、親が口を出す道理はないと思っている。
それでも将軍の顔を立てて、今まで黙っていたのだが、そろそろ限界だったりする。
「オーガ族など、ただの肉の壁だろ」
「そうだ、なんなら私たちがオーガ族を全員血祭りにあげてやってもいい」
「あんな馬鹿な連中など、死んだって家畜の餌にもならん」
「処理に困るだけだ」
「慈悲をやるから、そこらで首を吊って死んでろ」
酷いいいようである。
俺は将軍の顔を立ててニコニコ聞いていたが、次第に俺が自分の意志でニコニコと笑うようになった。
「なるほど。あなた方は、俺や俺の種族に文句があるようですね」
ニコニコだ。
「あたりまえだ、この糞オーガ族め」
「話を聞いてなかったのか。これだから馬鹿な種族は困る」
ニコニコ。
こいつらは、俺のみならず、俺の部下たちも馬鹿にした。
「ひぇ~~~、ゴーランが笑ってるよ」
「お、おい……に、逃げるぞ」
オーガ族の仲間が、まるでこれから泥棒にはいるかのように、忍び足で去って行った。
失礼なやつらだな。逃げなくても危害を加えたりしないのに。
「よし決めた。このオーガ族を殺して、話を白紙に戻そう」
「それがいい。ついでに臭いオーガ族を全部処分しよう」
「そうだそうだ。みんなでぶっ殺そう」
なんと、馬鹿にするだけでなく、俺の部下たちにも手を出そうというのだ。
これが町を守る正規兵だというのだから笑わせる。
とくに酷いのが、俺に顔を近づけて猛然とまくし立てている二人。
将軍が名前を教えてくれたが、男がエルタールで女がフィンサリー。
夫婦だそうな。
溺愛する息子を俺に連れ去られるのが心底嫌らしく、まるで敵のように突っかかってくる。
そして俺はもう、堪忍袋の緒が切れていた。
「そこまで言うのならば、いいでしょう。力で白黒付けましょう」
魔界式だ。
俺の言葉にエルタールが下卑た笑みを浮かべた。「かかった」と思ったのだろう。
「後ろの皆さんも同じ意見ですか?」
俺が尋ねると、一人残さず頷いた。
「でしたら話は早い。皆さんと俺が戦って、勝った方に従うでいいですね」
馬鹿かコイツという表情が浮かんでいる。
正規兵のみなさんは、腕に自信があるのだろう。
一も二もなく頷いた。
「じゃあ、俺とみなさんで対戦だ……っと、あなた方は武器です」
「……なんだと?」
「どういうことよ」
俺の近くにいたエルタールとフィンサリーの夫妻が怪訝な顔をする。
彼らは合気道を知らない。俺が軽く腕を持って足払いをかけ、重心を移動させると、二人の身体は宙を舞い、頭から地面に着地した。
もちろん自分から飛んだので、二人にダメージはない。
それでも両足を高々と天に向けた姿はとても滑稽といえよう。
俺は右手と左手でそれぞれの足を掴んだ。
「さあ、始まりだ、ボケども! 心して来やがれぇ!」
俺は武器となったエルタールとフィンサリーを振り回し、連中のただ中に駆け込んだ。
「秘技、エルタール崩し!」
エルタールを敵に何度も叩きつける。もちろん手加減はしない。「やめっ!」とか「ぐひぃ」とか聞こえるが、武器は喋らない。
「大フィンサリー旋風!」
フィンサリーを風車……扇風機の羽根のように回転させる。ごんごんごんごん……といいタイミングで音が入る。そのたびに敵がはじけ飛ぶ。なんとも優秀な扇風機だ。
「エルタール受け!」
「先輩を返せ!」と叫びながら突っ込んできた敵の刃をエルタールで受け止めた。
「ぐぎゃ!」と声が聞こえたが、盾は喋らない。
「そして、フィンサリー返し!」
返す刀でフィンサリーを敵に叩きつける。敵は「ぐべろぉ」といい声で鳴いて飛んでいった。
「必殺、夫婦で最後の共同作業!」
両手を同時に車輪のように回し、周辺に集まった敵を蹂躙していく。
よほど武器たちが良かったのか、念入りに振り回したのが功を奏したのか、これで立っている者は皆無になった。
「仕上げは夫婦の達人!」
まるで太鼓かドラムを叩くかのように、倒れ伏す敵に両手の武器を容赦なく叩き付ける。
とにかく叩きつける。これでもかと叩きつける。
その作業があまりに楽しくて、「ヒャッハー!」と何度叫んだことか。
どれだけ叩き続けたのか、記憶がおぼろげになった頃。
気がついたらファルネーゼ将軍が俺の腰に巻き付くようにしがみつき、「頼むからもう止めてくれ」と叫び続けていた。
同僚のオーガ族の姿は……どこにもいなかった。




