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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
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 敵の侵攻もあることだし、今すぐにでも魔王トラルザード領へ向かいたい。


「……って思っだんだけどなぁ」


 俺はいま、絶賛突き上げを喰らっている。


 俺の前に集まったのは、ヴァンパイア族が二十体くらい。

 しかも、この町を守る正規兵たちだという。


 町の正規兵……ヴァンパイア族という上位種族に加えて、代々町の守護を任されている由緒ある連中といった感じだ。

 そんな彼らが、なぜ俺に突っかかっているのかといえば。


「野蛮なだけのオーガ族に隊長が務まるか!」


 彼らの文句を集約すれば、上のようになる。


「済まんな。どうしてもゴーランに会わせろと言うのでね」

 ファルネーゼ将軍も強く出られないらしい。


 将軍はもちろんこの町のトップ。

 だからといえ、何でもかんでも思い通りになるわけではない。


 たとえば今回、俺と一緒にトラルザード領へいくヴァンパイア族の十名。

 将軍は少々強引な感じで、彼らを選抜したという。


 選ばれた十名は、この町の正規兵の息子や娘たちだ。

 彼らには強く成長してほしい。将軍はそう思っている。


 ゆえにここで試練を与えたかったらしい。

 というのも、正規兵の子息であっても戦闘が得意とは限らない。

 忍耐強いわけではない。


 早い話、ヴァンパイア族の落ちこぼれである。

 プー太郎やプー子と言えば分かりやすいだろうか。

 無職でも、家事手伝い(カジテツ)でもいい。

 引きこもりやニートと呼んでも構わない。

 そういう存在だ。


 上位種族に生まれ、立派な親を持ち、安全な町に住んだからだろうか。

 折れやすい心に反して、プライドだけが高いのだという。


 彼らには成長してもらって、将来この町を守ってもらいたい。

 そんな気持ちから、将軍は多少強引であっても、選んでしまったのだという。


 そこへ「待った」を掛けたのは、なんとその親たちである。

「他国へ赴かせるなどとんでもない」

「ウチの子はできるんだから、そんな修業は必要ない」

「そもそもオーガ族が率いるなんて、前代未聞だ」

 等々。


 将軍が本人の了承を得ずに決めたことで、こうして文句を言いに来たのである。

 俺からしてみれば、すでに成人した者たちに対して、親が口を出す道理はないと思っている。


 それでも将軍の顔を立てて、今まで黙っていたのだが、そろそろ限界だったりする。


「オーガ族など、ただの肉の壁だろ」

「そうだ、なんなら私たちがオーガ族を全員血祭りにあげてやってもいい」

「あんな馬鹿な連中など、死んだって家畜の餌にもならん」

「処理に困るだけだ」

「慈悲をやるから、そこらで首を吊って死んでろ」

 酷いいいようである。


 俺は将軍の顔を立ててニコニコ聞いていたが、次第に俺が自分の意志でニコニコと笑うようになった。


「なるほど。あなた方は、俺や俺の種族に文句があるようですね」

 ニコニコだ。


「あたりまえだ、この糞オーガ族め」

「話を聞いてなかったのか。これだから馬鹿な種族は困る」

 ニコニコ。


 こいつらは、俺のみならず、俺の部下たちも馬鹿にした。


「ひぇ~~~、ゴーランが笑ってるよ」

「お、おい……に、逃げるぞ」


 オーガ族の仲間が、まるでこれから泥棒にはいるかのように、忍び足で去って行った。

 失礼なやつらだな。逃げなくても危害を加えたりしないのに。


「よし決めた。このオーガ族を殺して、話を白紙に戻そう」

「それがいい。ついでに臭いオーガ族を全部処分しよう」

「そうだそうだ。みんなでぶっ殺そう」


 なんと、馬鹿にするだけでなく、俺の部下たちにも手を出そうというのだ。

 これが町を守る正規兵だというのだから笑わせる。


 とくに酷いのが、俺に顔を近づけて猛然とまくし立てている二人。


 将軍が名前を教えてくれたが、男がエルタールで女がフィンサリー。

 夫婦だそうな。


 溺愛する息子を俺に連れ去られるのが心底嫌らしく、まるでかたきのように突っかかってくる。


 そして俺はもう、堪忍袋の緒が切れていた。


「そこまで言うのならば、いいでしょう。力で白黒付けましょう」

 魔界式だ。


 俺の言葉にエルタールが下卑た笑みを浮かべた。「かかった」と思ったのだろう。

「後ろの皆さんも同じ意見ですか?」


 俺が尋ねると、一人残さず頷いた。


「でしたら話は早い。皆さんと俺が戦って、勝った方に従うでいいですね」

 馬鹿かコイツという表情が浮かんでいる。


 正規兵のみなさんは、腕に自信があるのだろう。

 一も二もなく頷いた。


「じゃあ、俺とみなさんで対戦だ……っと、あなた方は武器です」

「……なんだと?」

「どういうことよ」

 俺の近くにいたエルタールとフィンサリーの夫妻が怪訝な顔をする。


 彼らは合気道を知らない。俺が軽く腕を持って足払いをかけ、重心を移動させると、二人の身体は宙を舞い、頭から地面に着地した。

 もちろん自分から飛んだので、二人にダメージはない。


 それでも両足を高々と天に向けた姿はとても滑稽といえよう。

 俺は右手と左手でそれぞれの足を掴んだ。


「さあ、始まりだ、ボケども! 心して来やがれぇ!」


 俺は武器となったエルタールとフィンサリーを振り回し、連中のただ中に駆け込んだ。


「秘技、エルタール崩し!」

 エルタールを敵に何度も叩きつける。もちろん手加減はしない。「やめっ!」とか「ぐひぃ」とか聞こえるが、武器は喋らない。


「大フィンサリー旋風!」

 フィンサリーを風車……扇風機の羽根のように回転させる。ごんごんごんごん……といいタイミングで音が入る。そのたびに敵がはじけ飛ぶ。なんとも優秀な扇風機だ。


「エルタール受け!」

「先輩を返せ!」と叫びながら突っ込んできた敵の刃をエルタールで受け止めた。

「ぐぎゃ!」と声が聞こえたが、盾は喋らない。


「そして、フィンサリー返し!」

 返す刀でフィンサリーを敵に叩きつける。敵は「ぐべろぉ」といい声で鳴いて飛んでいった。


「必殺、夫婦で最後の共同作業!」

 両手を同時に車輪のように回し、周辺に集まった敵を蹂躙していく。

 よほど武器たちが良かったのか、念入りに振り回したのが功を奏したのか、これで立っている者は皆無になった。


「仕上げは夫婦の達人!」

 まるで太鼓かドラムを叩くかのように、倒れ伏す敵に両手の武器を容赦なく叩き付ける。

 とにかく叩きつける。これでもかと叩きつける。


 その作業があまりに楽しくて、「ヒャッハー!」と何度叫んだことか。

 どれだけ叩き続けたのか、記憶がおぼろげになった頃。


 気がついたらファルネーゼ将軍が俺の腰に巻き付くようにしがみつき、「頼むからもう止めてくれ」と叫び続けていた。


 同僚のオーガ族の姿は……どこにもいなかった。




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