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敵に見つからないよう進むと、敵の本陣は山を背にしているのが分かった。
戦っているのは全軍ではなく、全体の三分の一程度。
木を組んで簡易陣を設置していることから、あれが遭遇前でないことも分かってきた。
「敵がここで待ち構えていたとすると、本隊は別の道を進軍中か」
どんな山道だろうと歩き続ければ、そこが道となる。
魔界ではどこもそんな感じで、村の住民しか使わない私道がいくつもできる。
それと同じで、町と町を結ぶ大きな道以外にもいま俺たちが通っているような細道は、いくつもあったりする。
敵はそういった細道にも兵を配置してきた。
理由は、回り込まれて本隊の背後を突かれないため。
もしくは回り込んで、敵の背後を突くため。
一本道に長い列を作るならば、複数の道を同時に進んだ方がいいと判断したのだろう。
「敵本隊でなくてよかったな」
さすがに敵の最大戦力がいる所へは突っ込めない。いや、突っ込むかな?
俺たちは敵に見つからないように大きく迂回したので、山を半ば登るような感じになってしまった。
敵と味方が戦っている様子が下方に見える。
そして山の麓に、敵大将がいる本陣がある。
「さあて、お前たち」
俺は声を落として、振り返った。
着いてきたのは戦闘に参加する九十名の阿呆どもだ。
「分かっていると思うが、俺たちはファルネーゼ将軍のいる町まで行かねばならない。だが、困ったことに道の先には敵軍が鎮座している。戦闘中だ」
俺が下方に目をやると、いまだ互角の戦いを続けている両軍がいる。
ダルダロス将軍も、軍を分けたくなかったのだろうが、こういった別ルートを放っておくと、背後から襲いかかられかねない。
やむなく迎撃部隊を出したのだろう。
「繰り返すが、俺たちの目的は将軍の町へ行くことだ。だが、邪魔者がいる。お前たち、どうする?」
「蹴散らせばいい」
「ぶっとばそうぜ!」
「殺すしかねえ!」
希望通りの言葉が返ってきた。
「そうだ。ぶっ飛ばせばいいんだ。だが勘違いするなよ。俺たちはただ邪魔者を排除するだけだ。町に向かうついでだ。あいつらを進軍のついでにぶっとばしてやろうぜ。策はいらねえ。遠慮するな、どこを向いても敵ばかりだ。思う存分やっちまえ!」
「うぉーっ!」
「さあ、野郎ども。突撃だぁ!」
「「うぃーっす!!」」
みなそれぞれの獲物を掲げ、一気に山を駆け下りた。
驚いたのは敵軍だろう。
だれもいないと思っていた山から雄叫びが聞こえたと思ったら、筋肉ダルマたちを先頭に、武器を掲げた大勢が駆け下りてきたのだから。
「いっけぇえええええ-!」
先頭はもちろん俺。これで土砂降りの雨が降っていたら、桶狭間だなと思いつつ、金棒を振り下ろした。
目の前に躍り出てきたのは、二足歩行で鎧を着た狐男だった。
本陣を守るひとりだったのだろう。
――ガキィイイイイン
俺の金棒を剣で受け止めやがった。
急な斜面を走り、その勢いのまま打ち下ろしたやつをだ。
単純な力だけならば、敵は俺を遙かにしのぐ。
「邪魔だ!」
だが、身体の勢いは止まらない。止められない。
俺は奴の胸の辺りを思いっきり蹴って、押し出した。
力は、質量と加速度の積。
全速力した俺の加速度は、えらいことになっていた。
ゆえに奴ははね飛ばされ、頭から地面に着地した。
――ドドドドド。
その上を、俺を含めたオーガ族たちが蹂躙していく。
「てめえらぁ、食い放題だ! 味わうヒマなんかねえぞ。手当たり次第に喰い散らかせぇ!」
「うぇーっす!」
思ったが、この敵軍。
想像以上に強い。
戦場で戦っているのが先鋒と考えたら、ここにいたのは大将を守る精鋭か。
だとしたら、早まったかもしれない。仲間はどう感じただろうか。
「ヒャッハー!」
「敵はどこだぁー!」
「死ね。死ななくても死ね!」
楽しそうだ。
見たところ、本陣には獣相を持つ者が多い。
とくに獅子や虎といった連中がやたらと豪華そうな鎧を着ている。
そういう種族の集まりなのだろう。
俺と一緒に突撃した九十名は、好き勝手に手近な敵を喰らっていく。
本陣にいる敵の数からして、部隊長二人分くらいか。
だとすると、戦いが長引くとヤバい。
本陣はそれほど広く作られていない。
どこかに軍団長がいるはずだ。
「お前らぁ、もっと気合いを入れろ!」
「「うぇーっす!」」
士気が上がった。
破砕音が激しくなる。
強そうなのはいるが、大将っぽい者は見当たらない。
「手の空いている奴は、俺に続けぇ!」
どこにいるか分からない軍団長を探して、俺は本陣の奥深くへ切り込んだ。
本陣が混乱しているのが分かったのだろう。遠くの方でも戦闘音が激しくなってきた。
味方が押し返しているといいなと思いつつ、左右に金棒を振って強者を探す。
「……あれか?」
全身を分厚い鎧で固めた大男が見えた。
三国志の武将が使っていそうな、槍と大鉈が合体したような武器を携えている。
「あそこまで行くぞ!」
軍団長か部隊長か分からないが、一角の相手であることはたしかだ。
向こうも俺に気付いて、やってこようとする。
「者ども、突撃だぁあああ!」
俺は気勢を上げた。




