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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
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 ファルネーゼ将軍の町まで行く途中で、侵攻する敵の軍勢を発見するとは思ってもみなかった。

 正直いま、驚いている。


「全員待て。いま考える」


 心を落ちつかせて、現状を確認しよう。


 位置からすると、小魔王ロウスの国から来た軍勢だろう。

 迎撃しているのはダルダロス将軍の部隊で間違いないと思う。


 そこまではいい。


「……なぜ、ロウスの軍がこんなところに?」


 王城を目指すならば、もっと進軍しやすい道がある。

 この周辺は山が多く、それを避けるようにくねった道ばかりだ。


 視界が悪く、道幅も狭い。

 草原で戦っているのはそういうことだろう。


 敵があえて進軍しづらい道を選んだ意味を考える。


 我が国内に軍を入れるのは、はじめてのはずだ。

 ゆえに道を間違えたとか?


「迷ったにしては、南に寄りすぎているな」


 しかも軍を小さく分けている。

 報告からすると、敵は軍団規模。少なくともこれと同じ軍が、あといくつか近くを通過しているはずである。


 この進軍ルートは最短距離から外れることおびただしい。

 最短距離と今回のルートを比べると、直径と半円の周くらい違う。


 そんな遠回りをする理由はなんだろうか。

 たとえば迎撃する側が困惑するとか、隠れて進めば見つけづらいとか。


 予想されるルートを通らなければ、せっかく構築した陣は無駄になるし、これだけ周囲に山があれば、敵軍の発見は困難になる。


「その分、日数がかかる。見つからない為というのもな……」

 少数の潜入ではなく、これは軍の侵攻である。


 空を飛ぶ者がいるので、索敵能力は高い。

 余計に日数をかけて迂回する価値はない。


 とすると、こんなところに敵が現れる理由が思いつかない。


 悩む俺の姿を副官のリグが心配そうに見つめている。


「なあリグ」

「なんでしょうか」


「ここは町から遠く離れている。道だって細くて軍の移動には適していない」

「はい」


「しかもあと二つ、三つ、近くの細道にも敵軍がいるだろうな」

「そうですね」


「どうしてこんなところにいると思う?」

 俺には分からなかった。リグはどうだろうか。


「何か理由があるのではないでしょうか」

「うん……そうだよな」

 それが知りたいんだがリグでは無理か。


 ならば発想を変えてみよう。

 いろいろ考えたが、迂回するメリットは見つからなかった。デメリットばかりだ。


 ではなぜそうしたのか。

 そうせざるをえない理由があったのではないか?


「最短距離を進軍できない理由か。……そんなものあるかな」


 あるわけがない。あるわけがないんだ。


 俺が住んでいる村の周辺は、道なんてまったく整備されていない。

 雨が降れば滑って歩けないし、小さな川は丸太一本渡してあるだけのところもある。


 村の住人しか通らないのだから、手間暇かける必要がないのだ。

 反対に町から町、町から城へ至る道は広い。


 荷馬車だって悠々通行できるようになっている。

 軍を通すならば、そういう道を利用するのが一般的だ。


 ……ん? あれ?

 いま、何かが俺の頭に引っかかった。


 この前、レニノスの軍が攻めてきたときも街道を使っていた。

 丘の上の町へ至る道だ。


 町へと通じる道は進軍のし易さでいえば、最高だろう。

 街道を使わない手はない。



 ――だけど、そこが使われるとしたら?



 クルルとロウスの軍が攻めて来たと聞いたとき、俺はすぐに四国が敵に回ったと判断した。

 当たり前だ。なにしろクルルはナクティと、ロウスはルバンガと同盟・・を結んでいる。


「ッ!! やられた!」

「ゴーラン様!? どうしました?」


「進軍に適した街道――最短距離の道は別の軍が使うんだ。おそらくは……ルバンガ」


 ルバンガはロウス領を通ってここまでやってくるとしたら、数日は遅れる。

 ちょうど王城のあたりで合流できるくらいに日程調整しているかもしれない。


 四国が敵ならば、攻めてくるのが二国とは限らないじゃないか。


「リグ!」

「はいっ」


「ダルダロスの部隊に加勢する。戦闘の準備をさせろ」

「すでに出来ています」


 俺が考えている間に用意させていたらしい。

 自国領内を通るだけだからと、重い装備はすべて荷馬車に乗せていた。


 みなすでに装備し終えている。


「でかした。ならば作戦を伝える」

 コボルド族を除き、全員が武器を手にしている。


 コボルド族は荷物番だ。

 あとは……経験がなかろうが、戦闘に参加させる。


 彼らだって魔界の住人なのだ。物心ついたときから、殺るか殺られるかは経験済み。

 初陣になる者もいるだろうが、ここにいる段階で覚悟はできているだろう。


「俺たちは敵の背後にまわり込んで大将を狙うぞ。先陣は俺がきる。全員俺の背に続け!」


「うっす!」

「うぇーっす」


「了解しました」

「分かりましたっ!」

 それぞれの返事が返ってきた。否定の返事はない。


「時間がない。いくぞ!」


 敵は軍団レベル。大将は恐らく軍団長。

 だが少なくともレニノスの国よりかはマシだろう。


 あれは……あの軍団長は強すぎたし。


 俺たちは戦っている両軍のうち、敵の背後に向かってコッソリ進んだ。




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