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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
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 俺は街道をひた走った。

 目的の村まで歩けば二日かかる。それを少しでも縮めたかった。


「後ろ髪を引かれるとは、このことなんだろうな」


 もっと村に残って、ネズミ退治を手伝いたかった。だが、期日が迫っている。

 赤いネズミが出たのは不幸だったが、偶然ラミア族から情報がもたらされたのは僥倖だった。


 村に来る行商人から、流行病はやりやまいで壊滅した村や町の話を聞いたことがあった。


 どこか遠い国の俺たちとは関係ない話としか考えていなかったが、それは普通にどこの村でも起こりえることだったのだ。


「走れば今夜中にたどり着けるな」


 村の連中はうまくやっているだろうか。

 無心で走ろうとしても、どうしても頭から離れない。


 オーガ族の村で衛生観念を期待するのは間違っている。

「どうしてそうなるのか」しっかりと理解させるのが難しいからだ。


 だから、「手を洗え」「うがいをしろ」「汚いものを触るな」のような場当たり的な対応になってしまう。


 おそらくだが、オーガ族は人間よりも数倍、雑菌やばい菌に強い身体をしている。

 だから衛生に気を使わなくても問題がない。


「こういうときは不便だな」


 伝染病など、感染力が強ければ多少肉体が強固でも意味は無い。

 罹患したら他の患者と同じだ。


 俺は焦る心のまま歩を早め、夜半近くになってようやく目的の村にたどり着いた。


 自分でも分かる。疲労が溜まっている。

 目的を済ませたら、また大急ぎで戻る予定なので、ここらで少しでも身体を休めておきたい。


 大木の側で、俺は寝っ転がった。

 するとどうだろう。睡魔はすぐにやってきた。




「……ん?」


 身体を揺すられて目を覚ました。

 俺を覗き込んでいるのは、背の低いオーガ族――この村の子供だろう。


 まだ朝の早い時間帯だ。農作業の手伝いか、山に入って採取か狩りをするのだろう。

 村の子供らしいのでちょうど良い。


「俺はゴーランだ。この村にいるグーデンに会いたい」


 俺が名乗ると、子供はピョーンと飛び上がり、慌てて駆けだした。

 そんなに慌てなくてもいいと思うのだが。


 ゆっくりと立ち上がって、伸びをする。

 身体の中に痛いところもない。人間だった頃に、こんな木の根元で寝たら身体の節々が痛くてたまらなかっただろう。やはりオーガ族の肉体は頑強でいい。


 それに疲れも幾分マシになっている。やはり睡眠は大事だ。

「さて、いくかね」


 俺は村の中央に向かって歩き出した。




 俺が尋ねながら村内を歩いていると、グーデンは有名人らしく、だれもが家の場所を知っていた。


 向こうから子供に連れられたグーデンがやってくるところだった。

 先ほどの子供が呼びに行ったのだろう。


 村の中央にある大木の下に椅子があったので、そこに座って俺は久し振りに元部隊長と対峙した。


「がっはっはっ……久し振りだな」


 前回会ってからまだ一年未満だったが、少し老けただろうか。

 以前のグーデンはもっとこう、覇気があった気がする。


「今日は話があってきた」

「そうか。どのような話でも聞くぞ。何しろ、おぬしはおれに勝ったのだからな。がっはっは」


「ならば話は早い。俺はもうすぐ部隊を率いて、この国を出る」

「戦争か?」


「似たようなものだ。戦いに行くことは変わりない。問題はかなり長い期間、国を離れないといけないことだ」

「ふむ」


 めずらしくグーデンが悩む素振りをする。


「俺がいなくなったあとの村を任せたい。以前からやっていたから、できるだろう?」

 グーデンは五十年以上、ネヒョル元軍団長の下で部隊長をしていた。


 生まれて十七年しか経っていない俺とはキャリアが違う。

「ふむ……たしかにできるが、おれももう歳だ。おぬしに負けてから、とんとやる気が起きなくてのう」


 グーデンはオーガ族の突然変異種。両親は普通のオーガ族で、もうこの世にはいない。

 ハイオーガ族はオーガ族の三倍近く生きるため、知り合いのほとんどはもう鬼籍に入っているはずだ。


 オーガ族だからもとから鬼籍か? いや、それはいい。


 長年部隊長をしてきたグーデンの場合、そろそろ隠居を考える歳なのかもしれない。

 だからこそ、任せたいと思う。


「ならばこれが最後の仕事と思ってくれ。俺が無事戻ってくればよし。訃報が届いたのならば、おまえが新しいリーダーを決めてくれ。自分でなってもいいし、だれかを指名してもいい。おまえの言葉ならば、だれもが従う」


「おれの最後の仕事か。そうだな。良いかも知れん」


 乗り気になってくれたようだ。

 だが、以前と違って、いまオーガ族はいろいろ難しい問題を抱えている。


 そこを理解してもらわねばならない。


「時間が少ない。俺はすぐに村を出なければならないし、村を出たらもう会えないだろう。今から大事なことを伝えておく」


 すべて話しても、グーデンに理解できるとは思えない。

 俺が知っている部隊長だった頃のグーデンは、すべて副官のリグに任せていたのだから。


 そのため、今回も同じような感じになると予想できる。

 詳細は俺がコボルド族に教えればいいので、火急のものだけグーデンに伝えることにした。


「おれはひとつかふたつくらいしか覚えておけんぞ、がっはっは」

 言う前に先を越された。


「……分かった。ならば重要なものだけ話そう」


 赤いネズミが出た村の話をした。

 グーデンは病をまき散らすネズミについては知らなかったようだが、その危険性はしっかりと認識してくれた。


「三十年くらい前だな。井戸の水が悪くなって、バタバタと仲間が倒れたときがある。あれと似たような感じか?」


「その時は井戸を使わなければ、被害が広がらなかったのではないか? 今回も同じように、ネズミとその糞にさえ触らなければ、ある程度の感染は防げると思う。もし患者が出たら隔離して様子を見るんだ」


 他にもネズミを捕まえる罠の話や、他の村に赤いネズミのことを周知させるよう伝えた。

 原因が分かっているのだ。予防ができれば、被害は未然に防げると思う。


「もう頭がいっぱいだな。がっはっは……」

「……マジか」


 他にも俺が兵を率いた後、残った者たちで軍を編成しなければならず、その辺のことを伝えたかった。

 ほかにも、新たに仲間になった死神族のこともある。


 さらには、小魔王メルヴィスの支配を受けていないラミア族の扱いなど、色々と伝えたいことがあった。

 一度に言うと、前の話を忘れてしまうので、泣く泣く諦めることにした。


「だったら、もうひとつだけ覚えておいてくれ。他の話はコボルド族にすべて伝えるので、その者の言うことをよく聞くんだ」


「なるほど。それは得意だ。がっはっは……」


 得意らしい。うん、頭が痛くなってきた。

 それでも、理解しないまま動かれるよりマシだろう。


 少なくとも、魔法が飛び交う戦場のただ中に隊列を組んで突進するような命令はもう……出さないよな? 頼むぞ。




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