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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
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 小魔王メルヴィスの眠る城は、この国の中心地にある。

 現代日本風に言えば、首都。


 この国で一番発展している町だ。


「さあて、このまま真っ直ぐ帰るってのはツマランよな」


 何しろ、しばらくはゆっくりできるのだ。


 今回の件で、国の方針がいくつか決まった。

 まず、三十日後にやってくる魔王トラルザードの部隊。


 これは小魔王レニノス戦への切り札として使う。

 レニノスやファーラの台頭を許したくないメラルダの意向を受けてやってくるのだから、そこらの兵とはレベルが違うと思われる。


 やってくる部隊を見てから判断するだろうが、おそらくレニノスとファーラが戦っている一番よい時期を狙って侵攻するのだろう。


「侵攻軍は……ダイダロス将軍の出番だな」


 ゴロゴダーン将軍が倒れたいま、新しく将軍になったツーラートは、再編した軍の訓練を施さねばならない。

 先の痛手から立ち直るにはまだ早いと思われる。


 俺が所属しているファルネーゼ将軍の部隊はおそらく王都の守りとなる。

 これまで連戦だったことと、前回少数ながらもレニノスを倒しに向かったり、ファーラ軍をおびき寄せたり(これは俺の仕業だが)、様々な活動をした。


 ローテーションからしても、今回ファルネーゼ将軍の出番はない。


「城の守りくらいなら、俺も参加してもいいかな」


 連戦続きだったのは俺も同じで、今度こそゆっくりと休みたい。

 それでも観光がてら、城に詰めるのもいいとは思っている。


 なんにせよ、ダイダロス将軍と隣国からやってくる精強な部隊に期待だ。


「おっ、甘そうな果物だな」


 というわけで俺はいま、町で絶賛買い物中だ。

 部隊長から将軍直属の部下になったおかげか、給金もそれなりにもらっている。


 ここで使わなくて、どこでつかうのか。


「お兄さん、これはダイダロス将軍の町から仕入れたものなんだ。この辺でも滅多に口にできないものだよ!」


 草色の髪の少年に見えるが、これでも立派な大人だ。

 グラスランナー族といって、草原で暮らしている戦闘には向かない種族。


「初めてみる果物だな。俺の村で見たことがない」


「そうでしょ! これすっごく甘いんだから。断崖の中腹にしか生えない果樹なんで、翼を持った一族しか採取できないんだよ」


 この世界の甘味にはいくつか種類があるが、果物の甘味はわりと一般的だ。


 パイナップルのようなごつごつとした見た目だが、持って匂いを嗅ぐと、やたら甘い芳香を発している。


「ひとつもらおうか」

「はい。まいどあり~」


 初めて見た果物。

 普通はどうやって食べるのかと悩むところだろうが、オーガ族は違う。


 口を大きくあけて、その半分をかみ砕いた。


「……ん。なるほど。果肉は甘いな。中心部がやや硬いのは種を作るからか?」

 果物は大変瑞々しく、美味しかった。


 もう一口で残り半分を咀嚼し、唖然とした顔で見ているグラスランナー族に顔を近づけた。


「これはあといくつある?」

「えっと……麻袋の中に五つかな」


「よし、全部もらおう。袋ごとくれ」

「……は、はい!」


 大きさもパイナップルくらいか。

 グラスランナー族が背負って持ってきたようだが、俺にはコンビニの袋程度の負担でしかない。


「いい土産ができた」

 サイファとベッカにも喰わせてやろう。きっと喜ぶはずだ。


「……そういえば、リグにも何か買ってやらんとな」

 副官のリグにはいつも世話になっている。

 向こうは職務の一環だと思っているだろうが、身の回りの世話も結構やってもらっている。


 こういうときに、受けた恩を返しておくのもいいだろう。


「これなんか、いいな」

 綺麗な箱を売っていた。寄せ木細工に似ている。


 手先が器用なレプラコーン族あたりが作ったものだろう。

 あれは木工や細工がやたらと得意だと聞いている。


 少々値の張るものだったが、先行投資という面もある。

 これで喜んでくれるならば、安いものだ。


「忘れちゃいけない、ペイニーもか」


 これで死神族のペイニーだけ土産がないとよろしくない。

 口では何も言わないだろうが、それがかえって気になりそうだ。


「さて、ペイニーね。何がいいか……」

 真剣に露天を見て回るが、これといったものはない。


 そもそも魔界の住人に土産を買う習慣がないのだろう。

 土産物屋みたいな店がない。


 そして魔界の住人に「着飾る」という習慣もない。

 いや、あるのだが現代日本のような感覚ではない。


 せいぜいが他者と区別するためなにかを身につけるようなくらいだ。


「……これはいいな」


 目に付いたのは傘。

 この世界だって、雨が降れば傘を差す。


 みののような雨よけをまとううこともあるし、濡れても気にしない種族もいる。

 だが、多くの種族は傘に似たもので雨よけをする。


 そして俺が見つけたのは、軽くて明るい色の傘。日傘に近い物だ。

「これで全員分の土産は買えたな」


 普段から俺の家に集まっているあの連中はこれで全部だ。

 奴らの喜ぶ顔が目に浮かぶ。俺はホクホク顔で村へ急いだ。




「帰ったぞ!」

 土産の袋を抱えたまま、俺は自分家の戸を開けた。


「ゴーラン様、おかえりなさいませ」

「おう、リグ。変わったことはなかったか」

 これはいつものやりとり。


「ゴーラン、お帰り」

「ようやく帰ってきたな」

「お帰りなさいませ」


 サイファとベッカの駄兄妹、リグとペイニーもいる。


「ちょうど良かった。みんなに土産が……」


「ゴーラン様。変わったことといえば、先ほどファルネーゼ将軍の部下の方がいらっしゃいまして、魔王領へ向かう部隊をゴーラン様に任せたいので、至急部隊を編成して、将軍の町まで来るようにとのことです」


「なんだって……!?」


「交換する部隊をゴーラン様にお願いするので……」

「いや、聞こえている」

「…………」


 メラルダの部隊と交換する部隊を俺が? まさか……。

 なんで俺が?


 脱力した腕から、土産物が音を立てて床に落ちた。

 転がっていく果物に、ベッカか「いいにお~い」と甘い声をあげた。


「……マジかよ」


 俺は天を仰いだ。

 汚い天井がそこにあった。




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