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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
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 夜会が進み、主賓が揃ったところでおおいに盛り上がりをみせた。

 もちろんいつもの魔界らしく、広いホールの隅っこで殴り合いの喧嘩が始まる光景もみられた。


 酔って気が大きくなったり、滅多に顔を合わせない種族が出会ったりして、あちこちで喧嘩が始まるのだ。


 多くの場合、「やんのか」「もちろん」とその場で殴り合いが始まるのだが、たいてい軍団長あたりが出てきて「外でやれ」と一喝する。


 俺は見ていないが、今頃は城の中庭あたりで、数組が取っ組み合いをしているのだと思う。


「今宵は、十分楽しめたぞ」

 メラルダは上機嫌だ。


 メラルダの様子を見る限りは、夜会は成功したのだと言える。

 ホスト役をしたファルネーゼ将軍の面目も立ったといえよう。


「では我らはそろそろ退出する。また明日じゃ」

 上機嫌に手を振り、メラルダは帰っていった。


 主賓が退場したことで、本来ならばこのまま夜会はお開きになる。

 だが、飲み足りない、食い足りない連中が大勢いる。


 テーブルの上の料理が綺麗に無くなるまで、夜会は続く。

 それが分かっているのか、まだまだ人は減らない。


「ゴーランはどうするんだ?」

「話してばかりでしたからね。腹一杯食べていきます」


 俺の場合、メラルダや他の将軍たちとずっと話していたので、実はあまり食べていない。

 だったら、夜会が始まる前に腹に入れておけばいいと思うかもしれないが、上役が登場していないうちに多種族とコミュニケーションしておきたかったため、動き回っていたのだ。


「それでもオーガ族は敬遠されていたけどな」

 底辺の脳筋と話す価値なしと、散々な扱いだった。


 残った料理を大皿にまとめて、俺が遅めの食事をしていたら、何人かがやってきた。

 俺と話をしたいらしい。


 なぜ夜会も終わりになって……と思っていたら、顔に見覚えがある。

 夜会の最初に俺が話しかけて無視した連中だったりする。


 自己紹介を受けて話を聞いてみると、何のことはない。

 俺がファルネーゼ将軍と親しそうに話したり、他の将軍から呼ばれたり、今回の主賓である魔王国からの客人と知り合いだったのをずっと見ていたようだ。


 大物だったのかと慌てて擦り寄ってきたようだ。

 他種族とのコミュニケーションをとりたかったのだが、将軍に紹介してほしいという願望が透けて見えるため、ものすごく萎えてしまった。


 今回の夜会、急なことだったため、城働きの下っ端が数合わせで多数参加していたらしく、俺もその一員と見なされていたようだ。


 というか、いま俺に話しかけているのは、その数合わせの連中らしい。

 親しく口をきくどころか、声すら掛けられない将軍と対等に話す俺とお近づきになりたいとあからさまに言う奴もいた。


 めんどうなので、全員をいなして会場を出る。

 最後は、「なんだかなぁ」という気分にさせられた夜会だった。




 翌日、メラルダとの会談に出席した。

 ファルネーゼ将軍は昨日と今日を使って各将軍と話を詰め終えたらしく、晴れやかな顔で会談に臨んでいた。


「部隊の交換はこちらとしても否はありません。ぜひお願いしたいところです」

「そうか。それは良かった」


 あっけなく話がまとまってしまった。


 部隊を交換する意味は、双方とも分かっている。

 俺たちは強力な部隊を貸し出してもらう代わりに、レニノスやファーラの台頭を阻止する義務を負う。


 借りるのは魔王軍の強力な戦力である。

 その使いどころさえ間違えなければ、十分勝機はあると見ている。


「細かい内容にも合意できるよう、これから話を積み上げていくことになりますが、部隊の交換はいつ頃を予定していますか」


 期日を決めるのは大切なことだ。

 それに逆算して、準備を進めていかねばならない。


「交換の日程か。いまより三十日後でどうだろうか」

「三十日後……構いません。それまでには準備できていると思います」


 三十日も猶予があれば余裕だ。

 なにしろ最近は防衛戦が数度あったので、兵を集めて移動させる経験をしっかり積んでいる。


「これからの話し合いに必要なのは、部隊の数と持参するものじゃな。食糧はある程度持ち込むとして、装備が違えば、交換もままならぬだろう」


「なるほど。種族によって食べるものが違いますから、部隊が決まったらその詳細を詰める必要がありますね」


「それと部隊の運用じゃな。独立させるかどこかに組み込むか。希望を聞いておかねば、行った先で混乱が生じても困る」


 どうやらただ部隊を交換すればいいわけではなさそうだ。

 実務はコボルド族が受け持つだろうが、話し合いである程度決めておかないと動くに動けない。


「希望を聞いて、揃えられるものはできるだけこちらで揃えておきます」

「うむ。頼んだぞ。我の方はいまだ軍行動ゆえ、さしたる準備は必要ない」


 メラルダ側では、必要なものは揃っているらしい。

 だとすると、三十日間の猶予期間を使って準備をするのはこちら側になるわけか。


 その後もいくつかの取り決めをして、メラルダとの会談が終了した。

 今後はメラルダも代理人を出し、ファルネーゼの町でやりとりを行うらしい。


 すでにメラルダ軍は近くに来ているので、往復の時間もそれほどかからないという。




「いやー、終わってよかったですね」

 これは俺の正直な気持ちだ。


 急に村から呼び出されて何かと思ったが、これで村に戻ることができる。

 しばらくゆっくりしてもいいし、部下を鍛えてもいい。


 とにかく、血なまぐさい戦争の話は御免被りたい。


 俺はゆっくりと空を見上げた。

 真っ白な雲がゆるやかにたなびいていた。


「良い天気だ」

 本当にそう思う。




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