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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第3章 小国哀歌編
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 夜会の主賓はもちろんメラルダ。

 今回、メラルダの供回りとして、二人の男女も一緒に来ている。


「男の方がハルムで女がミニシェ。両方とも晶竜しょうりゅう族だ。私は挨拶に行ってくる」


 ファルネーゼ将軍が出迎え、三人と優雅に話している。


 メラルダは落ちついた感じの着物に着替えていた。

 いつものような着崩した風ではない。


「こういった夜会の方で真面目な服装をするのか」

 その考えが少し面白かった。


 せっかくの夜会であるし、メラルダならばもっと着飾るかと思ったが、普段の格好の方が派手だと分かっているのだろう。


 多くの者が参加するこの夜会で、眉をひそめる者が出るかもしれない。

 そう考えての着替えではないかと考えている。


 そして供の二人。

「平安時代の貴族……もしくは昔の神官と巫女みたいに見えるな」


 二人とも袴のようなものをはいている。

 男は若草色、女は白と赤を基調とした狩衣かりぎぬ姿だ。


 本人たちの趣味というより、メラルダの指定ではなかろうか。


 なんとはなしにメラルダたち三人を見ていると、不思議なことが分かった。

 供の二人の足捌き、体幹のブレなさや重心の移動が、昔自分がよく見た人たちに似ているのだ。


「……武術を嗜んでいるとか?」


 これでも幼少の頃から道場に通い、そこで育てられた身だ。

 長じて人に武道を教える立場になった。


 何かの大会に出たりすると、壮年以上でその道を究めたような人たちはみな、同じような動きをしていた。

 身体を鍛えると、どうしても体捌きが似通ってくるのだろう。


「あれは達人の動きか。久し振りに見たな」


 魔界は『タオ』という概念がない。

 剣道、柔道といった、武を通して道を究めるような考えが発達しておらず、弱い者が技術で勝つといった発想がないのである。


 ゆえに練習、特訓、訓練、鍛錬、何でもいいが、そういった地道な努力と無縁だったりする。


 強くなりたければ、喰って寝ろ。そうすれば身体ができあがる。それが正解だと考える連中がほとんどだったりする。


 二人のように武を嗜んでそうな動きは魔界で珍しいなと眺めていたら、ファルネーゼ将軍に手招きされた。


「いまリーガードをどう攻めるか意見を聞いていたのじゃが、おぬしは何かあるかの」

「破壊の魔王リーガードですか。軍ではなく本人を?」


「そうじゃ。といってもやつの種族すら分からんからの。どうしたもんか、悩んでおるのじゃ」


 ファルネーゼ将軍が苦笑している。

 小国のいち将軍には、魔王を倒す方法など答えづらい話題だろう。


 魔王リーガードの種族は不明。

 種族が分かると、攻撃方法や特殊技能、弱点などがつまびらかにされるので、進化種ともなると、もとの種族を隠す傾向にある。


 リーガードの場合は起源オリジン種らしく、どのような種族か分かっていない。

 通常、配下から類推できたりするのだが、魔王ともなると多数の種族を抱えているため、特定は難しい。


「たしか立派な角が生えていると聞いたことがあります」

「そうじゃ。鬼種は起源種も多く発生すると聞くが」


「もともと鬼種は弱い種族ですから進化も容易、魔界でも数が多い方なので起源種も産まれやすいのではと思っています」


 それでも破壊の魔王に繋がるかといえば……どうだろう。


 リーガードの噂でよく聞くのが、単体で軍を壊滅させたとか、町をひとつ破壊したとか物騒なもの。

 ついた呼び名が破壊の魔王。


 とにかく「すべて壊さなきゃ気が済まないのか」と周囲が嘆くほどだという。


「鬼種ならば魔法が使えないのと、魔法耐性がないわけですから、それ専用の部隊を用意して包囲殲滅が基本でしょうけど」

「ふむ……けど?」


「長年魔王として君臨しているならば、魔法主体の敵と戦った経験が皆無とは思えません。対策をしてあるか、鬼種ではない可能性がありますね」

「なるほど。それで?」


「魔王の呼び名からも、性格的に慎重とは無縁でしょう。誘い込んで他と引き離してから戦う感じでしょうか」


「ふむ。ゴーランよ、おぬしならどこへ誘い込む?」

「深い谷底ですね」


 そこから抜け出すのが大変ならばなお良い。

 谷底の場合、暴れれば暴れるほど、危険度は増す。


「果たして谷底に追い込んだだけで、リーガードを倒せるかのう」

「いえ、倒すのは周囲の部隊ですね。リーガード自身はそこに釘付け。全力で魔王の部隊を壊滅させます」


 強大な魔王と強力な軍が一緒にいるから脅威なのだ。

 魔王単体ならば、同じ魔王軍で囲めば、倒せるのではと思う。


「なるほど、おもしろい手じゃな。どうだ、我の言った通りじゃろう?」

 メラルダは左右に控えた供の肩を叩いた。


 お供の二人も、メラルダになにやら囁いている。


 いまの話題、もしかして俺を試した?

「戦略を語るオーガ族がいたぞ」

「メラルダ様、ご冗談を」

「いやいや、本当だぞ。だったら試してみるか?」

 こんな流れではなかろうか。


 ファルネーゼ将軍としては、軍師の存在さえ隠せればいいと考えているだろうし、話を持ちかけられて、乗ったんだろうな。


 しばらくしてメラルダたちが他の将軍にも挨拶をすると行ってしまった。

 俺はファルネーゼ将軍と少し話をした。


「あの護衛たち、相当できますよ」

 老婆心ながら、一応警告しておく。


「まさか。あれは晶竜族だぞ。晶竜族は、見目麗しい反面、戦闘力はほとんど持たない種族、飾りも同然のはずだが」

 意外な言葉が返ってきた。


「足捌きひとつとっても、かなりのものですよ。竜種ならば力も強いでしょうし。無手でも俺たちを制圧できるくらいには鍛えていると思いますが」


「……本当か?」

「ええ、強者には鼻が利くもので」


「迂闊だったな。晶竜族は戦闘力を持たないと言われていたので、そのまま信じてしまった」

「それを言い出したのって?」


「魔王トラルザードの国からやってくる商人たちだ」

「だったら金を掴まされているか、嘘の情報を流されているかもですね」


 向こうにも軍師に相当する者がいるのだろう。

 魔王国なのだ。いるのは当たり前かもしれない。


「一筋縄ではいかんな」

 将軍の顔が険しくなった。


 今のところは味方だが、それでも気を抜くわけにはいかなさそうだ。




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