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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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◎ワイルドハント 小魔王ユヌスの国 ネヒョル


 ネヒョルが小魔王メルヴィスの配下になったのは、エルダー種に進化する方法を探るためだった。


 メルヴィスが永い眠りの最中であることは、その頃になると、周辺諸国に知られていた。


 ネヒョルは、メルヴィスが起きるまで待っているつもりであったが、一向に目覚める気配がない。

 そのため、独自に動くことにした。


 メルヴィスの寝所に近づいたのである。


 メルヴィスが眠りに入る前、気に入らない町を一瞬で滅ぼすことがよくあった。

 理由は、この国に戦いを仕掛ける準備をしていたから……などである。



 ――敵対する者には容赦なし、そしてキレやすい



 この一言がメルヴィスの性格をよく現していた。

 ゆえにネヒョルの行為は、無謀とも言える。

 一瞬で灰にさせられても、文句の言えないものであっただろう。


「……あれ? 入れない」


 寝所を覆う他者を寄せ付けない結界に、ネヒョルは阻まれた。しかも……。


「よく見ると、これ……見たことないや」

 張り巡らされた正体不明の力はなんであるか。


 そのときのネヒョルは、まったく理解しえなかった。


 かつて大魔王の位まで上り詰めたメルヴィス。

 天界の住人から受けた呪いによって、力は最盛期を知る者からしたら、あり得ないほどに落ちていた。


 絞りかすほどの魔素しか残っていない。

 それでも小魔王の位に留まっているのは、元より強者であったゆえであろう。


「だけどこんな強力な結界……」


 しばらくのち、ネヒョルは気づくことになる。

 メルヴィスの寝所に張られた結界には……聖属性の力が使われていることに。


「転んでもただでは起きないってことかな。呪いを受けて、その力を利用するなんて、さすがエルダーヴァンパイア」


 なんとかしてメルヴィスの寝室に入ろうと研究していたネヒョルは、その結界が聖属性を使ったものであることを突き止めた。


 聖属性そのものではなく、メルヴィスが体内に受けた呪いを使っているため、かなり変容していることにも気づいた。


「呪いの正体が聖力だとして、メルヴィスの力が落ちているわけで……互いに相殺しているのかな」


 体内に聖属性の力が残っている意味を考えて、ネヒョルはそう結論づけてみた。


 どちらにせよ、いまのネヒョルにはそれを破る手段はない。


「これは諦めるしかないかな」


 それからはまたネヒョルは、メルヴィスが起きるまで雌伏の時を過ごすことになる。


 もともと飽きるほど生きてきたヴァンパイア族である。

 数十年、数百年でも待てるのだ。




 串刺しにされた仲間に近寄り、光の束を握ってみた。

 ネヒョルはその力の感触を確かめる。


「聖力の強さは……うん、まあまあかな」

 メルヴィスにはかなり落ちると、ネヒョルはひとりごちた。


「キサマ、聖力を見たことがあるのか?」

 ファッサーニは不思議そうな顔をするが、そのときネヒョルは別のことを考えていた。


 目の前のファッサーニを捕まえて尋問し、聖属性の力について知っていることを全て聞き出してしまおう。物騒な考えである。


「何がおかしい」

 薄ら笑いを浮かべているネヒョルに、ファッサーニの額に青筋が浮かぶ。


「みんなは周囲の騎馬を殺っちゃって。ボクはこれを捕まえるから」


 指を差されて、「これ」呼ばわりされたファッサーニは激昂した。


「我が王はキサマが危険だと仰せだ。どれほど嘆願しても生かすつもりはないぞ」

 どうやらネヒョルが、小魔王国を荒らし回っているのを知っているらしい。


 別段隠すつもりもないし、それどころか派手にやっていたので、周辺諸国へ噂が広がるのも当然と言えた。



 ネヒョルの命を受けて、ワイルドハントの面々が動き出す。

 すぐさまファッサーニの部下と交戦した。


「うわっ」

 急に浴びせられた聖力に、ネヒョルは身体に力が入らなくなるのを感じた。

 ファッサーニの攻撃である。


 続いて繰り出される槍を避けきれず、脇腹から血が噴き出した。

 ファッサーニは、確実にダメージを与えるため、狙いやすい胴体に攻撃を集中させてきた。


(これが天界の住人の力か……思った以上にやっかいだな)


 ネヒョルは魔王と同等の強さを持つ天界の住人を倒さなければならない。

 それはまだ先の話になる。いまは力が足らない。


 天界の住人の攻撃はすべて、魔界の住人には毒である。


(本来ならば、魔界にいると動けないはずなんだけどなぁ)


 天界の住人にとって魔素は身体に毒となる。

 吸い込むだけで、身体を蝕むと言われている。


 ゆえに魔界に侵攻する天界の住人は、結界をつくり、そこを拠点にしながらでないと、居ることすらできない。


 ただし、ファッサーニのように聖力を否定し、魔素を取り込んで生きることを選んだ場合は、その限りでない。


 また厄介なのは、そのような堕天した者の場合、わずかながら聖属性の乗った攻撃が使えるのである。


(天界の住人と戦う練習にちょうどいいかと思ったけど、これは思ったより大変かな)


 魔王級と戦うためには、もっと強くならねばとネヒョルは、このときばかりは真摯に思った。



 戦いはというと、慣れない聖攻撃に苦労したものの、すでに複数の小魔王を撃破しているネヒョルが最後は圧倒した。


 知恵ある小魔王ユヌスといえども、ネヒョルの力がすでに小魔王を凌駕しているとは、さすがに思わなかったらしい。


「……こんなものかな」


 両手足を奪い、ファッサーニを完全に無力化させたネヒョルは、笑みを深めて問いかけた。


「ねえ、天界について知っていることを洗いざらい教えてくれるかな? たとえば強い者の情報とか」


 いつまで経っても帰ってこないファッサーニに、小魔王ユヌスは己の見込みの甘さを悔いた。


 同時に、ワイルドハントを一級危険指定として、周知徹底させることを忘れなかった。





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