283.幸せな時間
夜も更け、空気が冷たくなってきた。そんな中、再びステージの周りに人が集まる。ステージに上るのは、男爵様だ。
「みんな、収穫祭は十分に楽しんだか?」
その質問にみんなが声を上げた。どれも楽しかったと声を揃えたものだ。
「俺も久しぶりに楽しい思いをした。みんなの力があったからこそ、収穫祭を開けたと思う。収穫祭に協力してくれて感謝する」
すると、周りから拍手がパラパラと鳴った。
「名残惜しいが、これにて収穫祭を終了とする」
ここで、一斉に拍手が鳴り響いた。まだ、テンションが高い人もいて指笛を吹いている人もいる。
「後片付けは明日にして、今日は火を消して撤収しよう」
男爵様の言葉にみんなは動き出した。火が灯った焚火台を次々と消していき、明るかった広場も段々と暗くなっていく。私も何かお手伝いしなくっちゃ。
「ノアちゃん。あの一番大きな焚火台の火を消せるかい?」
「うん、任せて!」
仕事が来た! 私は一番大きな焚火台に近づくと、水魔法を発動させる。焚火台の上から大量の水を落とすと、音を立てて火は消えた。すると、より一層周囲が暗くなったように感じる。
「火が消えるとなんか寂しいな」
「そうですね……。終わるとなるともっと見ていたかった気がします」
「火を囲んで、楽しかったからねぇ」
火が消えた焚火台を見ながら、しみじみと思った。私たちはボーッとしている間に他の焚火台の火も全て消えて、月明りだけが差し込む場所に変わった。
用事は終わった。そうなると、人々は帰路につく。農家と村に住んでいる人は行く方向が真逆だ。だから、いつも仲良くしている農家の子供たちとはここでお別れだ。
子供たちが集まっているところに行くと、みんなにお別れの挨拶をする。
「今日は楽しかったね。じゃあ、またね」
「うん、また!」
「今度はアスレチックの所で遊ぼうぜー!」
「そうだな! じゃーなー!」
「みなさん、気を付けて帰ってくださいね」
「うん、そっちもね。またね」
子供たちと挨拶をかわすと、子供たちは親の後をついて反対側に歩いていった。まだちょっと名残惜しかったけど、また会えるから大丈夫だよね。
それから、村に向かう集団の中に入って帰路についた。その最中、みんな収穫祭のことを話して歩いていた。楽しかった思い出が蘇ってきて、落ち着いてきたワクワク感がまた溢れてきた。
その時、男爵様が声をかけてきた。
「よぉ、三人とも。収穫祭はどうだった?」
「はい、凄く楽しかったです!」
「全部楽しめたぞ!」
「収穫祭を企画してくれてありがとうございました」
私たちがはしゃぎながら応えると、男爵様は満足そうに笑っていた。
「そうか、そうか。そんなに楽しんでくれたか。だったら、この村はもっと好きになってくれたか?」
「元々好きだったけど、もっと好きになりました」
「こんなに楽しいイベントがある村のことが嫌いになるわけないよな!」
「村が一体になったみたいで、みんな家族の感じがして好きです」
「そう言ってくれると嬉しい。まだまだ、村の状況は良くないかもしれない。そんな中でも楽しみを見つけて、頑張る気持ちになればいいと思ったんだ」
そっか、男爵様は村のみんなのことを思って、この収穫祭を考えてくれたんだ。こんなに村のことを思っている人の所にいれて、私は幸せだ。
「男爵様のお陰で、やる気が溢れました。何かお手伝いできることがあったら何でも言ってください!」
「ウチは魔物討伐を頑張って、村を守るんだぞ!」
「私もです。大切な人がいるこの村を守ってみせます」
「三人ともありがとう。お陰で俺もやる気が溢れた。みんなでこの村を豊かにしていくぞ!」
四人でオーッと手を突き上げた。一体感が生まれたみたいでとても気持ちがいい。この村で私がやれることは沢山ある。もっと色んな事をお手伝いして、この村が豊かになるように頑張ろう!
気持ちを一つにすると、男爵様は私たちの所から離れて屋敷の方へと戻っていった。私たちはみんなに付き添って、一度村の方に進んで歩いた。
そんな私たちのところに、ミレお姉さんと冒険者たちが近寄ってきた。
「収穫祭、終わっちゃったわね。三人とも楽しかった?」
「祭りがつまらないわけねぇよな!」
「この三人が楽しんでいる所、沢山見たぜ!」
「三人とも良い笑顔だったな!」
いつもの食堂メンバーで話をするだけなのに、幸せな気持ちが溢れる。みんなで楽しんだ気持ちが蘇ってきた。
「みんなが楽しそうにしていたから、とっても楽しかったよ」
「騒ぐんだったら大勢の方がいいなって思ったぞ!」
「沢山の人で騒ぐのってこんなにも楽しいんですね」
みんなもとってもいい顔で楽しんでいた。あの光景はとても良かったし、自分たちもその中に入れたことが幸せだと思う。
ワイワイとみんなで話しながら歩いていると、村の中心までやってきた。そこでみんなとお別れをすると、今度はそれを見計らっていたようにエルモさんが近づいてきた。
「三人は人気者ですね」
「エルモも気にせず入ってこれば良かったのに」
「いえ、私はまだちょっと苦手で……」
「きっと、その内慣れてくるよ」
「ですね。子供たちとは打ち解けてましたし、その内冒険者さんたちとも打ち解けられるはずです」
「そ、そうだといいんですが……」
エルモさんのお店につくまで、私たちは一緒に歩いていく。月明りが照らす中、賑やかな私たちの声が広がった。そうしていると、エルモさんのお店が見えてきた。ここでお別れだ。
「では、三人ともおやすみなさい。今日は楽しい夢が見れるといいですね」
そう言ってエルモさんはお店に帰っていった。残された私たちは自分たちの家へと急ぐ。冷たい空気の中、私たちの話し声は止まない。こんなことがあった、あんなことがあった。そんな話題で会話が尽きることはない。
楽しく帰り道を歩いていると、私たちの家が見えてきた。それだけで、ホッとするような安心感がある。私たちの帰るべき場所、それがあるだけで幸せな気分になれる。
「「「ただいま」」」
家の扉を開けて三人で声を合わせる。帰ってくる言葉はないけれど、三人一緒だから問題ない。すぐに家の中に明かりを点けると、洗浄魔法をかけて私たちの汚れを取る。
それからクローゼットの前に行って、服を中にかけてパジャマに着替える。そうして、気楽な姿に変わるとすぐにベッドの中に入り込んだ。
「うー。外が寒かったから、ベッドの中が天国みたいだぞ」
「もう冬が近づいてきてますからねー。冬の準備もしなくちゃいけませんね」
「新しい冬服の注文もしたし、届くのが楽しみだね」
ベッドの中に入ってからも、会話は止まらない。思いついた話題を口にしては、その事について話していく。けれど、思い出すのは収穫祭のこと。
「はぁー、収穫祭楽しかったなぁ。あれが、毎日だったらいいのに」
「毎日あったら、生活できませんよ」
「分かってるって。それくらい楽しかったってことだよ」
「まぁね。それくらい楽しかったね」
毎日が収穫祭だったら、どれだけ楽しいだろうか? きっと、毎日笑って暮らしていると思う。それってとっても幸せなことだ。
「みんなと一緒に楽しんで、三人で楽しんで……いい時間だったな」
「夢のような時間でした。また、やりたいですね」
「男爵様にお願いしたら、新しい祭りを考えてくれるんじゃない?」
「いいな、それ! 今度、新しい祭りを考えるようにお願いしてみようか!」
「新しい祭り……いいですね!」
新しい祭りに二人は大喜びだ。できれば季節ごとに祭りが一つあれば嬉しいんだけど、難しいかな?
三人で新しい祭りについてワイワイと話す。とても楽しい気分になるけれど、段々と瞼が重たくなってきた。二人も同じなのか、どんどん声のトーンが落ちてくる。
「まだ寝たくないのに……眠たいぞ」
「私もまだ話したいですが……」
「私も同じ」
沢山喋りながら眠りにつくのが心地いい。大好きな友達といっぱい楽しいことをして、お喋りして、とても幸せな気分になれた。こんなに幸せな気持ちになれるのはそうはない。
「ふぁ……ダメだ、おやすみー」
「私も……おやすみなさい」
「二人ともおやすみ」
一日の終わりの挨拶をすると、瞼を閉じた。沢山楽しいことをした一日の終わりはとても気持ちがいい。それだけじゃなくて、近くに大好きな友達もいてくれる……こんなに幸せな瞬間はない。
どうか、この幸せな日々がこれからもずっと続きますように。




