189.大金がやってきた!(1)
二度目の夏がやってきた。木々は青々と茂り、青空には独特の雲が浮かび、太陽の日差しが暑く降り注ぐ。今年も真新しい服に袖を通し、それぞれの成長を祝い合った。
「ウチはこーんなに成長したんだぞ! 一番だ!」
「二番は私だね。結構背が伸びたんじゃないかな?」
「私は三番目ですね。二人に比べたら伸びなかったのは残念です」
三人並んでみると、身長差がはっきりとしてきた。クレハが一番、二番は私で、三番目がイリスだ。美味しい食事を食べ、体をいっぱい使って、寝心地のいいベッドで寝る。その習慣が私たちを成長させたみたいだ。
「その内、今の倍くらいまで大きくなると思うぞ」
「そんなに大きくなるかなー? 私はここまで大きくなりたい」
「私はこれくらいでしょうか」
三人で手を高く掲げて、理想の身長を教え合う。クレハの倍は無理かもしれないけれど、このままいくとかなり身長が高くなっていくような気がする。私とイリスは無難な感じで終わるだろうけど。
「大人になるのはまだまだ先だけど、このまま順調に成長できるといいね」
「大人かー……ウチはカッコいい大人になるぞ!」
「私は優しい大人になりたいですね」
「私はどんな大人になろうかな?」
理想の大人を想像して三人で嬉しそうに笑う。
「さぁ、今日は男爵様が来る日だから、その前にやること終わらせちゃおうか」
「おう! まずはモモたちのお世話からだな!」
「牛乳と卵もとらないといけませんね」
「足りない食材とかも補給しておきたいなー」
暑い日差しが差し込む中、明るい私たちの声が響いた。
◇
「よいしょっと。今回も沢山採れたね」
「これだけ採れれば、しばらくは大丈夫だぞ」
「でも、食べる量は増えてますし、足りるんでしょうか?」
モモたちの世話をした後、今日は自分たちで食べる野菜を育てて収穫した。新鮮な野菜たちを食糧保管庫に詰めていく。大量の野菜を作っても、みんな食べ盛りだから消費が激しい。
「クレハの食事量が凄いよね。私たちの倍……いや、三倍は食べているような気がする」
「うんうん、それくらい食べているような気がします」
「そうか? 二人と同じくらいじゃないか?」
「全然違うよ。今日も朝食は二人前をペロリだったじゃない」
「昼食だって、お弁当箱を大きくしても物足りなさそうでしたし」
成長期なのかクレハの食事量が凄まじい。朝は二人前をペロリと食べ。昼食はお弁当箱を大きいものに変えても、ちょっと物足りなさそうにして。夕食は私たちの二倍以上の食事を食べている。
私たちも食べる量が増えているが、クレハの増え方が異常だ。これは獣人特有の現象なんだろうか? でも、こんなに沢山食べるから成長が早いっていうのは頷ける。
私たちはクレハの食事についてあれこれ話していると、扉がノックされた。きっと、男爵様だ! 私たちは扉に駆け寄り、勢いよく開いた。
「よぉ、元気にしてたか」
「男爵様、こんにちは」
「三人とも揃っていたか、ノアだけかと思ったが」
「今日は特別な日だから残ってもらっていたんです」
「確かに特別な日になりそうだ」
男爵様は上機嫌に笑って家の中に入ってきた。その肩には大きな袋を抱えていて、何が入っているのかとても気になる。私たちに持ってきたものかな? と、少し期待した。
男爵様をダイニングテーブルの席につかせると、氷水が入ったコップを全員分テーブルの上に並べた。
「おお、ありがたい。冷たい飲み物が欲しかったところだ」
「ウチらも外で働いていたから、冷たい飲み物が欲しかったんだぞ」
「一息吐けそうですね」
みんなで冷たい氷水を飲み干して、一息ついた。
「生活は順調か? 納品が少し減ったから、生活は苦しくないか?」
「納品が減っても大丈夫です。二人の魔物討伐のお金もありますし、今まで貯めてきたお金もあります」
「ウチらが強い魔物を倒せば、沢山のお金が入ってくるんだぞ。最近は強い魔物と戦える力もついてきて、沢山稼げるようになったぞ」
「大分森の奥に行けるようになっても、無理なく戦えています。村のためにも、自分たちのためにも、まだまだ魔物討伐をしていきますよ」
「そうか、順調そうで何よりだ」
近況を話すと男爵様は嬉しそうな顔をして聞いてくれた。
「この村に来た時は何もない状態だったが、よくここまで色んな物を手に入れたな。今じゃ、この村に欠かせない人になっただろう。よく、頑張ったな」
褒められると、なんだか照れ臭い。三人で顔を合わせて、照れたように笑い合った。
「このまま雑談をするのもいいが、本題に入らせてもらおうか。冬の時期にやっていた仕事の報酬のことだ。ようやく揃ったのでな、ここに持ってきた」
とうとう、冬の間にした仕事の結果だ! 冬の間にしていた仕事はマジックバッグと砂糖の制作だ。どっちも高値で売れると言っていたけれど、どれだけの金額になるかドキドキしてきた。
「まずは砂糖からだな。白い砂糖は貴重な物で市民の間には流通できないものだった」
「えっ、それじゃあ! 貴重過ぎて売れなかったってことですか?」
「いや、そうじゃない。貴重だから貴族に流通したんだ。見事なまでに白い砂糖は貴族の中で人気が出てな、全ての砂糖が貴族によって買われたんだ」
「そっか、ちゃんと売れたんだ」
市民の間には流通しなかったけど、貴族の間で流通していたんだ。最初の話を聞いた時、売れてないって思っちゃって恥ずかしかったな。
「しかも白い砂糖は上流階級に良く売れたらしい」
「上流階級?」
「貴族の中でも上下関係があるんだが、その上の貴族に売られたってことだな。まぁ、寄り親の侯爵様の伝手を使って売ったわけなんだが……かなり好評だったみたいだ」
「侯爵様の伝手を使った? もしかして、男爵様が自ら売ってくださったんですか?」
「まぁ、そういうことになるかな。白い砂糖が貴重なのは分かっていたから、売り先を考えて侯爵様に頼んでみたんだ。そしたら、大当たりしたってことさ」
男爵様が寄り親である侯爵様の伝手を使って、上流階級の貴族に白い砂糖を売った。ここまで聞いてみると、白い砂糖がとんでもない魅力的な商品だったっていうことが分かった。
「ノアが作った白い砂糖は上質なもので、雑味のない甘味だけが残った砂糖だったみたいだ。その味の良さが上流階級の貴族には分かったんだろうな、その味を知ると他の砂糖は使えなくなるとか言ってたな」
「そんなに凄い砂糖だったんですね。あっ、でもその砂糖を自分で使ってていいんでしょうか?」
「自分で作った物なんだから、使っても問題ない。売る分は別にあったし、ノアだって自分で使うように労力を叩いて作ったんだからな」
私が作った砂糖がそんなに喜ばれているなんて思いもしなかった。それにそんな砂糖を日常使いにしていることがちょっと怖くなった。男爵様は使ってもいいっていうけれど、本当に大丈夫かな?
「まぁ、何が言いたいのかっていうと、ノアの作った砂糖は人気で全部売れたということだ。もし、可能であれば作物の納品の合間に作って持ってくれば、すぐに売り出すこともできるぞ」
「じゃあ、作物の納品が少ない今、砂糖を作って売り出してもいいってことだね」
なるほど、作物の納品が少なくなる今、砂糖を作って売り出すこともできるんだ。ただ、熱い火を使うから暑くなるのがネックなんだけどね。待てよ、分身にやってもらえばよくない?
分身を使って暑さを気にせず大量生産ができるかもしれない。本体の私はビートを刻む仕事をして、分身たちに火の番をしてもらえれば……うん、完璧だ。
「次にマジックバッグだな。これも冬に作ってもらったものだが、こちらは砂糖ほどじゃないが売れているみたいだ」
「高い商品ですからね、時々しか売れないですよね」
「まぁ、そうだな。上級の冒険者に売れたり、商人に売れたり……と売れる先は様々あるな。それでも、マジックバッグの需要は無くならない。今後も定期的に売れていくだろう」
マジックバッグは一つで何百万エルもすると聞く、砂糖のように一斉に売れるものでもない。でも、順調に売れているらしくて、そこは安心した。
「それでだ、砂糖とマジックバッグの売り上げをここに持ってきた」
男爵は持ってきた大きな袋をテーブルの上に乗せた。その袋からは金属音がしたけど……もしかして。
「中を開けてみろ」
そう言われて、私たちは袋を縛っていた紐を解いた。それから袋の口を広げると、その中には無数の金貨が見える。ちょっと待って、こんなに大きな袋の中は全部金貨?




