188.クレープ(2)
クレープの生地に必要なのは小麦粉、砂糖、牛乳、卵。牛乳と卵はとれたてなのでとても新鮮、これはいい生地ができそうだ。
「こんな材料で何ができるんだ?」
「生地を作るって言ってましたね、どんなのでしょう」
「薄い生地だよ。その生地に色んな物を乗せて食べるデザートだからね」
二人が興味津々とばかりに覗き込んでくる。その二人の視線を受けながら、木の器に材料を全部入れてかき混ぜる。すると、あっという間に生地の材料が完成だ。
「かなり水っぽい生地ですね」
「これ本当に大丈夫か? 固まらないんじゃないのか?」
「まぁ、見てて」
かまどの上で熱した鉄板、油を引くとその上に生地を流し込む。その生地をお玉の背で丸くなるように広げて焼いていく。片面が焼き上がると、串で生地を鉄板から剥がしてひっくり返して反対側を焼く。
「わぁ、本当に薄い生地ですね」
「ペラペラだぞー、食べ応えがなさそうだぞ」
「これだけだったらそうかもしれないけど、付け加える材料はまだまだあるからね」
話している間に反対側が焼けた。その焼けた生地を大きな皿に移し替えると、鉄板にまた生地を焼く。それを後、二回繰り返して人数分の生地を焼けば完成だ。あとは粗熱を取って冷ませば食べられる。
「じゃあ、次はホイップクリームだね」
クレープのメイン食材と言ってもいいホイップクリームだ。まずは材料を作るところから始める。牛乳を入れたコップをキッチンカウンターの上に置くと、手を向ける。そして、創造魔法を使って牛乳から生クリームを作り出す。
出来立ての生クリームと砂糖を木の器に入れ、木の器を氷水の張った木の器に入れる。次に魔動力で浮かせた泡立て器を生クリームの中に入れると、泡立て器を高速回転させた。
「凄い速さですね。これでホイップクリームを作るんですか?」
「こんなことして、生クリームは無事なのか?」
「まぁ、見てて。そろそろ変化が出てくる頃だから」
生クリームを泡立てていくと、生クリームがどんどん膨らんできた。さらに泡立てていくと、もこもこしてくる。
「膨らんできましたね。これがフワフワの食材ですか」
「なんでこんなに膨らむんだ? 不思議だぞ」
生クリームがホイップクリームに変わると、泡立て器の動きを止めた。木の器の中を見てみると、そこにはフワフワに泡立てられたホイップクリームがある。
できたホイップクリームを創造魔法で出した絞り袋に入れる。木の器に残らないように綺麗に取ると、絞り袋がパンパンに膨らんだ。
「じゃあ、クレープを作っていくよ」
次はクレープの完成まで持っていく。創造魔法で出したバナナとチョコレートシロップを食糧保管庫から取り出し、キッチンカウンターに生地と一緒に置く。
まな板に生地を置き、生地にホイップクリームを絞り出す。その上に切ったバナナを乗せ、チョコレートシロップをかける。材料を全部入れたら、生地を畳んで丸めると……チョコバナナクレープの完成だ。
「完成したよ!」
「これがクレープ! どんな食感がするんでしょう」
「色々入れたら膨らんだな! これなら少しは食べ応えがありそうだ」
「これはデザートだから、後で食べよう。先にお弁当を食べようね」
出来上がったクレープを皿に盛って、私たちはダイニングテーブルに近寄った。食事の後が楽しみだ!
◇
「「「ごちそうさまでした」」」
お弁当を食べ終えた私たちの目線はすぐにクレープへと向かった。
「もう食べていいですか?」
「うん、食べようか」
「お弁当を食べた後だけど、まだまだ食べられるぞー」
ワクワクといった表情で三人でクレープを手にした。ホイップクリームが沢山入った生地はフワフワしていて、力を入れたら中身が飛び出してきそうだ。
「何が入っているんでしたっけ?」
「ホイップクリームと果物のバナナとチョコレートシロップだよ」
「チョコレートが入っているから、間違いなく美味しい奴だな!」
クレープを少し観察をして、三人で顔を合わせる。
「それじゃあ……」
「「「いただきます!」」」
クレープの先をパクリと食べた。一口目で分かるのはもちもち生地の美味しさだ。ほのかに甘い生地はそれだけでも美味しい。でも、クレープで美味しいのは別の部分もある。
クレープを千切るとフワフワとしたホイップクリームの食感を感じ、次にチョコシロップとバナナの味がダブルで襲い掛かってきた。強烈なチョコの味に独特なバナナの風味が合わさり、それをホイップクリームがまとめる。それは極上の味となった。
「うん、美味しい! 二人ともどう?」
そうそう、この味! なんだか嬉しくなって二人を見ると、目を見開いて止まっていた。どうしたのかな? 一瞬心配になるけれど、それも一瞬の事。すぐに二人は口を開く。
「この味は新しくて、とっても美味しいです!」
「うわー、なんだこれなんだこれ! 甘いとの甘いのが合わさって、凄いことになってるぞ!」
「初めて食べる味なのに、とても合っているように感じるんですけど」
「これがクレープか! このフワフワしたホイップクリームがめちゃくちゃ美味しいんだぞ!」
時が動き始めたように喋り出した二人。一口食べては喋り、もう一口食べては喋り……と忙しい。でも、どうやら味は気に入ってくれたみたいだから安心した。
前世では王道の組み合わせだったけど、ここでも王道の組み合わせとして実力を発揮している。幸せそうな顔をして頬張る二人の顔を見ると、幸せ倍増だ。
「フワトロとしたホイップクリームが堪らないぞ。これならお腹いっぱいに食べられそうだぞ」
「この組み合わせは最強ですね。癖になりそうです」
「この味を気に入ってくれて嬉しいよ。私もこの味が好きなんだ」
クレハはガツガツ食べて、イリスと私は味わいながらゆっくりと食べ進める。すると、クレハのクレープがなくなってしまった。
「あーあ、ウチのクレープはなくなっちゃったぞ」
「早く食べるからですよ」
「もう一つずつ作ったほうが良かったかなー」
「うー、ホイップクリーム……あ、あった!」
悲しげだったクレハはイリスの顔を見てパァッと表情を明るくする。席から立ち上がったクレハはイリスに近づき、頬に付いたホイップクリームをペロリと舐めた。
「なっ!? ク、クレハ! 何をするんですか!」
「ホイップクリームがついてたんだぞ! 美味しかった!」
「そんな行儀の悪いことしないでください!」
「あはははは!」
まさか、そんなことをしてしまうほどホイップクリームを気に入ってくれるとは思いもしなかった。二人のやり取りがなんだかおかしくて笑っていると、クレハがこっちを見て近づいてきた。って、まさか!
「ノアにも付いているぞ!」
「ちょ、ちょっと待って!」
ペロッ
「ひぃっ!」
クレハに頬を舐められた! クレハはホイップクリームを食べられてご満悦のようで、とても嬉しそうな顔をしていた。だけど、舐められた私は気が気じゃない。
「クレハー!」
「わー、ノアが怒ったぞ!」
「こっちも怒ってますよ!」
「えぇ、イリスも怒ってる! ウチは悪くないんだぞー!」
二人でこってりとクレハを怒って昼食の時間は終わった。みんなで遊ぶ前にちょっと疲れた出来事だった。




