187.クレープ(1)
眩しい朝日に起こされて体を起こす。
「んー! さてと、お弁当でも作ろうかな」
ちょっと暑い朝、夏が近づいている空気に体がちょっとだけだるい。その体を動かしてクローゼットの前に行くと、パジャマから服に着替える。春の服は長袖になっていて、ちょっと暑い。腕まくりをすると、ちょっとだけ涼しくなった。
「去年の夏服着れるかな? 後で試してみよう」
成長期の子供だ、一年経てば体は大きくなっているだろう。きっと去年の服は着れないだろうが、試しに着てみよう。どれだけ成長したか確かめたい気持ちもあるからだ。
いつもの服に着替えると、台所へ行き今日のお弁当を作る。今日はお仕事が休みの日、農家の子供たちと遊ぶ日だ。子供たちと遊ぶようになってから、日々の生活にハリが出たような気がする。
こんなに良くなるんだったら、早く行動をしておけば良かったな。そんなことを言っても、過去には戻れないから先のことを見ていこう。
そんなことを考えている間にお弁当の用意はできた。お弁当は時間停止機能が付いたリュックの中に入れておいて、テーブルの上に置いておく。
準備が終わると二人を起こす。体を揺するとイリスは簡単に起きてくれて、クレハは中々起きない。こういう時は耳を掴んで、息を吸い込み……。
「わっ!」
「おわっ!?」
耳の近くで大声を上げると、クレハが飛び起きた。
「や、やめろよなー……びっくりしたぞ」
「すぐに起きないのが悪いんでしょ」
「だって、ベッドが気持ちがいいのが悪いんだぞー」
「はいはい、ベッドのせいにしないでね。さぁ、着替えて」
私とクレハのやり取りを見ていたイリスは笑い、そのまま二人はクローゼットの前に行って服に着替える。
「準備完了だぞ」
「行きましょうか」
「うん」
準備が終わると、私たちは宿屋へと向かっていった。
◇
「「「ごちそうさまでした」」」
テーブルの上には空になった皿が三枚、今日も美味しい朝食を宿屋で食べた。すると、その声を聞きつけたミレお姉さんが近づいてくる。
「おそまつさま。今日は子供たちと遊ぶ日だっけ?」
「うん、そうだよ」
「この日を待ちに待っていたぜ!」
「魔物討伐じゃなくて、すいません」
「いいの、いいの。遊ぶのも子供の仕事の内よ。ねぇ、そうよね」
ミレお姉さんは周りにいた冒険者に同意を求めると、他の冒険者は強く深く頷いた。
「そうだそうだ、子供が遠慮しちゃいけない。思う存分遊んできなさい」
「三人ともいつも頑張っているんだから、それぐらいの休みは必要だ」
「俺たちだって休んでいるんだ、休みは必要さ」
私たちを温かく見守ってくれる冒険者たち、その優しい言葉に救われる部分もある。
「それじゃあ、今日も思いっきり遊ぶんだぞ!」
「魔物討伐、よろしくお願いします」
「魔物のことなら任せておけ!」
「今日は二人の分まで張り切るからな!」
食堂が賑やかな声で満たされる。このなんてことのない時間が大好きだ、みんなと食事を取って何気ない会話をかわすと心地よくなる。きっと子供だから心のどこかで大人を求めている部分があるんだと思う。
「それにしても、子供の遊び場ができたって聞いて見に行ったら、凄いものがあったよな」
「あれを魔法で作ったって言われて、はじめは信じられなかったぞ」
「ノアは凄い魔法使いだな。そんな魔法使いは見たことがない」
村に作った遊び場は色んな大人たちが見に行ったらしい。大小さまざまな遊具を見た大人たちはみんな驚いていた。見たことのないような建築物に感心していたほどだ。
これで村には私の物を作れる魔法が知れ渡った訳だけど、それが創造魔法ということはばれなかった。何もないところから物を出すのは反則技みたいなものだから、そのことについては言わないでおくつもり。
今は物を作れる魔法ということにしておけば、平穏に暮していけそうだ。もし、金銀財宝を自由に出せるのに気が付かれたら利用されかねない。うん、やっぱり創造魔法は隠したほうがいい。
「家に戻ろうぜ!」
「モモたちもお腹を減らしているでしょうし、帰りましょう」
「それじゃあ、またね」
「いってらっしゃい。今日は楽しんできてね」
ミレお姉さんや冒険者たちに別れを告げると私たちは宿屋を出ていった。
「今日はどんな仕事をするんだ?」
「今日はモモたちの餌を作ったり、砂糖作りをしておきたいな」
「結構やることありますね。お昼から遊ぶために頑張ってお仕事しなくっちゃ」
「それと今日はデザートを作ろうと思うの」
「デザートって甘い食べ物のことか!」
「デザート、いいですね! 今日は何を作るんですか?」
仕事の話からデザートの話に変わると二人とも食いついてきた。子供たちと遊ぶようになってから時間ができた私は、今まで作れなかったデザートを作って二人に食べてもらっていた。
二人はデザートをいつも美味しそうに食べてくれて、作る時間ができて本当に良かったな、と思った。そして、今日はまた新しいデザートに挑戦するつもりだ。
「今日はねクレープを作ろうと思うの」
「聞かない名だな、それはどんなデザートなんだ?」
「薄い生地にフルーツとかホイップクリームとかを乗せて、丸めて食べるものだよ」
「ホイップクリームってなんですか?」
そう、今日のメイン食材であり新食材はホイップクリーム。デザートと言えば欠かせない存在のホイップクリームを手に入れる手段に気づいたのだ。そのお陰でホイップクリームを使ったデザートを作れるようになった。
「ホイップクリームはね牛乳から作られる柔らかいフワフワとした食べ物だよ。甘くて口の中でフワッと溶ける食べ物かな」
「フワフワとした食べ物? なんだか想像できないな」
「フワフワ……口の中に雲がある感じでしょうか?」
「雲みたいな食べ物だと思うよ。きっと二人も気に入ると思う」
二人ともホイップクリームを想像できないのか、首を捻っている。まぁ、あの食感のある食べ物は他にはないから、食べたことがないと想像できないのかもしれない。
「でも、新しいデザートは楽しみです」
「そうだよな! デザートはみんな甘くて美味しいんだぞ」
「期待していてね、美味しく作るから」
そんなことを話していると家に辿り着いた。さて、モモたちに餌をあげないとね。
◇
家に到着した私たちは家畜小屋の掃除をすると、モモたちに餌を与え、その後放牧した。モモたちは元気に放牧地を歩き回り、のびのびと過ごしていた。
そんなモモたちを尻目に私たちはモモたちが食べる餌の生産を始めた。それぞれの分身を出し、畑に種を植える。それから植物魔法で一気に成長させて、分身たちと一緒に収穫する。収穫したものに処理を施し、袋に入れて詰めていく。
それと平行して、砂糖作りもする。まずはビートの種を植え、植物魔法で一気に成長させる。収穫をすると、皮を剥き、さいの目に切ると熱湯の中に入れて成分を抽出する。
抽出が終わると、今度はかまどの火で水分を蒸発させて、錬金術の精製の魔法で余分なものを排除する。そうすると、水分が蒸発した後に白い砂糖が残った。これで午前中にやるべきことは終わった。
「よし、じゃあクレープづくりを始めるよ」
お弁当を食べる前に、まずはクレープの生地づくりからだ。




