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愛 二乗  作者: 花ゆき
中学生編
33/37

愛二乗≠すれ違う恋

 


 拒絶され、俺は魂が抜けたように平田さんの家を出た。

 平田さん家が見えなくなって立ち止まる。

 もう足を動かせない。

 限界だった。



 俺はなんてことをしたのだろう。

 平田さんに避けられるぐらい傷つけた。


 当然じゃないか。

 何度も振った。そして振っておきながら、思わせぶりな態度も取った。

 こんな俺をもう平田さんは嫌いになっただろう。


 しかし胸は締め付けられるような痛みに襲われる。

 思わず左胸を服の上から押さえつける。




 くそっ……!!

 どうしてこんなに胸が痛む!


 平田さんがもう俺のことを好きじゃない。

 彼女に今までひどいことをした。

 彼女の痛みはこんなものじゃない。



 平田さんはずっと俺を見てくれた。

 俺に彼女がいる時も。

 悩んでいると、励ましてくれた。

 何度も振った。けれど彼女は揺らがない目で俺を見ていた。



「平田さんは馬鹿じゃないのか。

 こんな痛みを抱えながら、俺をずっと好きでいたなんて」


「そうだ。平田は馬鹿だ」


 いつの間にか、正面に啓一が立っていた。


「けどな、馬鹿になれちまうのが恋ってやつなんだ。めんどくせーよな。

 恋愛ってのは二人とも馬鹿になって成立する。理屈で恋が出来るかよ。

 馬鹿になれ、雪哉」


 驚きすぎて口が開いたままだ。


「好きだって伝えるんだ。何度も何度も何度も!

 平田が信じられるように。安心するように。

 それで休みにはデートして、男と話してるだけで妬けばいいんだ。

 こんなの不平等ってくらいに大切にするんだ。

 平田に示せ、好きだってな!」


 何を知った風に!

 大君は平静を失う。


「そうしたいさ!

 でも手を払われた!!

 もう拒絶されたくないんだ、怖いんだ!!」


「それは平田も同じだろうが。

 平田は、目から血を流すほど苦しんで雪哉に伝えた。

 お前はそこまでしたのか?」


 大君にそれまでの勢いが消えた。

 奥歯をかみ締める。



「そうだな。たかが一回で諦めるほうがどうかしてる。

 平田さんは何回も傷ついたんだ。

 その痛みを思えばこんなの、何でもない!」



 今までは平田さんが想ってくれた。

 これからは俺の番。

 諦めるもんか。







 新学期早々、果穂子は教室の前で立ち止まった。

 教室のドアを開けるのが怖い。


 今度大君くんに声をかけられたら終わりだ。

『迷惑なんだ。もう話かけないで』

 そう言われたらどうしよう。


 遠くから大君くんの声がする。

 私は慌てて教室に入った。




 休み時間。私は彼と同じ空間にいるのが怖くて、立ち上がろうとした。

 その時私の机に影が出来る。

 わたしは恐る恐る顔を上げた。


 そこには、真剣な顔をした大君くんがいた。




 人気のない裏庭に二人はいた。

 果穂子はここで初めて彼と話したことを思い出していた。


 やっぱりこのままじゃ駄目だ。



「「あの」」


 声が重なる。


「大君くんからどうぞ」

「いや、平田さんからでいいよ」

「じゃあ……」



 私はあのクリスマスから願っていたことを言葉にした。



「今まで沢山迷惑かけたよね。でも、これだけは言いたいの」


 私は空から力をもらうように大きく息を吸った。



「“友達でいて下さい”」



 私のたった一つの願い。

 好きになってくれなくていい。

 好きでいてもいいですかなんて、重いことは言えない。


 ただ、最後に残ったつながりだけは守りたかった。


 それ以上は望まないから。







 雪哉は強いめまいを感じていた。


 もしこの場に神がいたのなら、俺を嗤っているだろう。

 俺が距離を詰めようとすると彼女は離れる。


 “友達でいて下さい”


 それ以上は駄目なのか。

 俺がもたもたしてたからこんなことになったんだ。

 平田さんの家に行った時、言えばよかった。



「悪いけど、友達でいられない」



 人三人分離れた俺と平田さん。

 今ここにある距離を、俺は壊す。

 そのために俺は言おう。


 俺は初めての告白にどうしようもなくあがって、彼女の目が見られない。

 足元には俺の影がある。

 深呼吸をすると気持ちが落ち着く。


 俺は気持ち新たに前を向く。


「平田さん、俺はっ!」



 けれど視線の先には誰もいなかった。






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