愛二乗=果穂子+清子
昼休みを知らせるベルが鳴る。
大君は深いため息をつく。
教室では弁当を食べるため席を立つ者が多い。
そしてその中で一際ガタガタと音を立てている者がいた。
大君は見なくても分かった。
「おーおきーみくん!一緒にご飯食べよっ」
平田さんだ。
そして立て続けにパタパタと駆ける音が聞こえる。
バンッと荒々しく開けられたドアに、元彼女にして後輩の清子ちゃんがいた。
「先輩っ、私と食べましょう!」
毎日こんなやり取りがある。
そしてこれから起こることも予想できた。
「大君くん私と食べるんだよね」
「先輩っ、私ですよね?」
「私に決まってるじゃない」
「私です!!」
言い合いは止まることがない。
だから俺はいつもの通りこう言うのだ。
「じゃあみんなで食べようか」と。
「大君くん、この卵巻き私が作ったの。食べて食べて」
「先輩、このプチトマトどうです?私が作ったんです。無農薬ですよ」
うっ……。トマトか。
「ふふ、バカね清子ちゃん。大君くんはトマトが嫌いなのよ」
「本当ですか!?」
「うん、あの種のプチプチ感がどうも好きじゃないんだ」
「平田先輩はどうして知っているんです?」
「一年の時にたまに弁当作ってたから。はい、大君くんの好きな甘い卵巻き」
平田さんの腕は知っているから、戸惑うことなくぱくりと食べる。
ふわりと口の中でとろける感触。
広がる甘み。
「うん、おいしいよ」
「やったぁ」
少し頬を赤らめて、慎ましやかに微笑む平田さん。
家庭的で可愛い人だ。
「くっ、料理では一年からクラスメイトの平田先輩が有利ですね。
流石家庭部に入っているだけあります。
ならば私の領地で勝負です!!
勝ったほうが大君先輩と帰れる。どうですか」
「受けて立つわ!」
「ではバトミントンで勝負です」
時々俺はついていけなくなります。
で俺は平田さんと帰っている。
「勝負勝ったの?」
「負けたよ。でも清子ちゃん部活の予定入ったから」
「そういや試合近いって言ってたっけ」
清子ちゃんは大人しい女の子だった。
けれど今は変わってきている。
きっとこれが本当の彼女なんだ。
変えたのは君――平田さん。
「だから明日は清子ちゃんと帰ってね」
こんな時どきっとする。
「でも、平田さんは?」
「私は今日帰れたからいいよ。
本当はずっと一緒にいたいけど大君くんは一人しかいないでしょ?だからだよ」
こんな時の平田さんの顔は大人に見える。
女の子が男よりも成長が早いって、きっと本当なんだ。
そして清子ちゃんに気を遣う平田さんは優しいと思う。
言い合いだって、じゃれあってるようなものだしね。
「分かった。平田さんって清子ちゃんと仲良いね」
「仲良いのかなー?私は好きだけど」
「仲良いよ」
でなきゃあんなに楽しそうなはずがない。
「大君くんとはもっと仲良くなりたいな」
聞き間違いかと思った。
でも顔を上げた先には夕焼けと同じ色の顔をした平田さんがいた。
口をかみ締めて俺の言葉を、反応を待っていた。
俺は正直参っている。
毎日聞かされる“好き”と言う言葉。
それがとても心臓に悪くて、俺は不整脈になったのかとさえ思う。
そして俺は今が心地いいから、
「もう仲いいじゃないか。友達だよ」
そう言って気付かないふりをする。
平田さんは視線を反らし、目をかげらせる。
それを見て、いつもしまったと思うんだ。
俺はずるいヤツだ。




