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愛 二乗  作者: 花ゆき
中学生編
27/37

愛二乗=果穂子+清子

 


 昼休みを知らせるベルが鳴る。

 大君は深いため息をつく。


 教室では弁当を食べるため席を立つ者が多い。

 そしてその中で一際ガタガタと音を立てている者がいた。

 大君は見なくても分かった。


「おーおきーみくん!一緒にご飯食べよっ」


 平田さんだ。

 そして立て続けにパタパタと駆ける音が聞こえる。

 バンッと荒々しく開けられたドアに、元彼女にして後輩の清子ちゃんがいた。


「先輩っ、私と食べましょう!」


 毎日こんなやり取りがある。

 そしてこれから起こることも予想できた。


「大君くん私と食べるんだよね」

「先輩っ、私ですよね?」

「私に決まってるじゃない」

「私です!!」


 言い合いは止まることがない。

 だから俺はいつもの通りこう言うのだ。



「じゃあみんなで食べようか」と。




「大君くん、この卵巻き私が作ったの。食べて食べて」

「先輩、このプチトマトどうです?私が作ったんです。無農薬ですよ」


 うっ……。トマトか。


「ふふ、バカね清子ちゃん。大君くんはトマトが嫌いなのよ」

「本当ですか!?」

「うん、あの種のプチプチ感がどうも好きじゃないんだ」

「平田先輩はどうして知っているんです?」

「一年の時にたまに弁当作ってたから。はい、大君くんの好きな甘い卵巻き」


 平田さんの腕は知っているから、戸惑うことなくぱくりと食べる。

 ふわりと口の中でとろける感触。

 広がる甘み。


「うん、おいしいよ」

「やったぁ」


 少し頬を赤らめて、慎ましやかに微笑む平田さん。

 家庭的で可愛い人だ。


「くっ、料理では一年からクラスメイトの平田先輩が有利ですね。

 流石家庭部に入っているだけあります。

 ならば私の領地で勝負です!!

 勝ったほうが大君先輩と帰れる。どうですか」


「受けて立つわ!」


「ではバトミントンで勝負です」



 時々俺はついていけなくなります。





 で俺は平田さんと帰っている。


「勝負勝ったの?」

「負けたよ。でも清子ちゃん部活の予定入ったから」

「そういや試合近いって言ってたっけ」


 清子ちゃんは大人しい女の子だった。

 けれど今は変わってきている。

 きっとこれが本当の彼女なんだ。

 変えたのは君――平田さん。



「だから明日は清子ちゃんと帰ってね」


 こんな時どきっとする。


「でも、平田さんは?」

「私は今日帰れたからいいよ。

 本当はずっと一緒にいたいけど大君くんは一人しかいないでしょ?だからだよ」


 こんな時の平田さんの顔は大人に見える。

 女の子が男よりも成長が早いって、きっと本当なんだ。

 そして清子ちゃんに気を遣う平田さんは優しいと思う。

 言い合いだって、じゃれあってるようなものだしね。


「分かった。平田さんって清子ちゃんと仲良いね」

「仲良いのかなー?私は好きだけど」

「仲良いよ」


 でなきゃあんなに楽しそうなはずがない。



「大君くんとはもっと仲良くなりたいな」


 聞き間違いかと思った。

 でも顔を上げた先には夕焼けと同じ色の顔をした平田さんがいた。

 口をかみ締めて俺の言葉を、反応を待っていた。




 俺は正直参っている。

 毎日聞かされる“好き”と言う言葉。

 それがとても心臓に悪くて、俺は不整脈になったのかとさえ思う。

 そして俺は今が心地いいから、


「もう仲いいじゃないか。友達だよ」


 そう言って気付かないふりをする。



 平田さんは視線を反らし、目をかげらせる。

 それを見て、いつもしまったと思うんだ。


 俺はずるいヤツだ。







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