愛二乗=白紙
『好きな子の水着なら、何でもいいよ。その子が着てこそ、だし』
「好きな子の水着なら、ね。お前のその言葉、言い聞かせてるように聞こえる。
好きにならなきゃいけない。これは義務だって」
啓一は誰もいない放課後にそう言った。
実際そうだ。俺は彼女を好きにならなきゃいけない。
「本当に好きになったらそんなこと言えなくなるはずだ。
お前にとって、好きだから、なんていい訳でしかない。
感情がついてきてないんだよ」
俺の親友は全て見破っていた。
ムキになった俺は彼女と過ごす時間を増やす。
……好きにならなきゃ。
「え、クラスで海行くんですか?
私も行きたいです」
「でもクラスの集まりだからなー」
暗に駄目だろうと伝える。
「先輩の彼女だから、では駄目ですか?」
“彼女”。
その言葉が俺を鎖で絡み取った。
「そうだね。彼女なんだし、いいかな」
“彼女”という言葉は俺を見動き出来なくする。
「大君くんの馬鹿!大嫌い!!」
どうして嫌いなんて言われるのだろう。
俺、何かしたかな。
女子の中で平田さんとは結構仲良いと思ってたけど。
そのことばかり考えて、隣に彼女がいることを忘れていた。
「別れましょう」
だから夏休みに入って呼び出された時、何を言われたのか分からなかった。
今回俺は何も悪いことをしていないはずだ。
喧嘩も何もしていない。
「これで私と先輩はただの先輩後輩の仲に戻りました。
けれど私は先輩が好きです。
そんな私を知って下さい、好きになって下さい」
後ろからざっと土を踏みしめる音がする。
平田さんがいた。
「「これは私と平田先輩(彼女)からの宣戦布告」」
意味が全く分からなかった。
「私大君くんが好き」
心が一気に軽くなる。
嫌われてはいない?
けれど人は歳をとるごとに慎重になるものだ。
「海では嫌いって……」
「うん、あの時はごめん。
本当はすごく好きで、どうしたらいいか分からなかった。
でも大君くんがいいから。
彼女がいてもいなくても、大君くん、がいい。
彼女がいないから、なんて理由で選ばないで。
ちゃんとどちらかを選んで」
だから宣戦布告。
果穂子たちは大君の逃げを知っていた。
だから一度白紙に戻した。
その上で選んでもらおうと言うものだ。
「大君くんには私達をちゃんと知って欲しい。
その上で答えを出して」




