愛二乗=大嫌い
「あれから彼女と上手くいってるんだ」
夏休みも近くなり、期末テストがある。
委員長の仕事で皆の提出物を集める時のことだった。
私は一瞬何のことだか分からない。
「相談してよかったよ。平田さんのお陰かな」
ようやくこのまえのことで言われたのだと分かった。
あぁ、もうイヤ。
泣きたい。
私は力を込めて笑った。
「そっか~、よかったね!」
上手く笑えたかな。
うん、大君くんは気付いてない。
今が幸せだと笑う大君くんが憎らしい。
帰り道、彼女と帰る大君くんを見て、泣きそうな私のこと知ってる?
彼女のことを呼び捨てするようになった大君くんの声を聞くの、辛いんだよ。
果穂子の部屋で勉強道具が錯乱している。
ノートを開いているがやる気のない果穂子。
やさぐれていた。
「今日は一緒に勉強するんだって」
机の向かいで聞く皐月。
「どうして知ってるの」
「大君くんが教えてくれた」
「うーん、無神経ね」
「正直もう止めようかな」
あれからいろんなトゲが刺さり、私の心は悲鳴を上げていた。
皐月は勉強道具を片付けた。
果穂子の目を見る。
疲れ切った目だった。
「だって毎回デートの内容教えてくるんだよ。限界」
果穂子はとん、と肩をたたかれる。
いつの間にか隣に皐月がいた。
下を向いてこれまでのことを吐き出すように言う。
「彼女のクセとか言われても、……っく、プリクラ見せてこないでよ、……」
視界が揺れる。
次第に話せなくなって、膝にポタポタと雫を落としていた。
皐月がぎゅって抱きしめてくれていた。
抱きつく私。
「もー、皐月好きー」
「はいはい、私も好きだから」
「大君くんなんか嫌いー」
「まだ好きなくせに」
流石親友。
何も言えなくなった。
「まだ好きだから、苦しいんだよ……」
「告っちゃえば」
さらに何も言えなくなる。
「振られたらどーすんの」
「成仏しな」
「駄目じゃん!」
思わず突っ込みを入れる自分。
涙は乾いていた。
テスト明け。
テストの開放感からクラスのみんなで海に行こうという話になった。
「果穂子、水着買いに行こ」
「なんで?学校の水着あるじゃん」
そう言ったら皐月に叩かれました。
「いーい?これはアピールするチャンスなのよ。
可愛い水着で好感度UP!
ハナちゃんなんてビキニ買うって言ってたよ!」
と鼻息荒く言う皐月。
そうは言われても、スタイルには自信ないし、恥ずかしいし。
それでも買うのよ!とぐいぐい引っ張られる果穂子。
今日買いに行くの!?
「柿本ー、海はビキニで来いよー!」
「うるさい、このオープンすけべ!」
教室から出る時、遠山君が声をかけた。
そういや皐月はどんな水着を買うんだろう?
「おーよ、男はみんなすけべさ。この聖人君子してる雪哉だってな!」
教室のざわめきが消えた。
みんな大君くんを見ている。
「啓一、そこで話振らないでくれるかな」
頭を痛そうにする大君くん。
しかし遠山君は聞いていなかった。
「雪哉だって水着はビキニだろ!?」
「いや、あの……聞いてないか」
大君くんが言うのをみんな待っている。
その空気におされた大君くんはしばらくためらった後、声に出す。
「好きな子の水着なら、何でもいいよ。その子が着てこそ、だし」
教室がきやーという歓声や悲鳴、ピューという口笛でにぎやかになる。
好きな子、彼女のことなんだろうな。
耳塞いでればよかった。
結局私が買ったのはワンピースタイプの水着。
皐月もである。
「あれだけ言ってたからビキニに朝鮮するんだと思ってた」
「だってまだ中学生じゃない。それに胸ないし、くびれないし。見られるの恥ずかしいじゃん」
私と同じようなこと言ってるからおかしかった。
けれど今まで一番応援してくれたのは皐月だ。
そんな皐月だからこそ、勉強会の日から考えて決めたことを報告する。
「海に行く日に告白しようと思う」
「そっか、頑張って」
「うん、やっぱり私のこと意識して欲しい。このままで終わりたくないから」
海の日当日。
大君くんが彼女も連れてきた。
しらーっとするクラスの女子。
皐月が代表して尋ねる。
「これ、クラスの集まりなんだけど」
「清子が行きたいって言ったから」
「でもクラスの集まりだからさ。彼氏や彼女連れて来たいのに我慢してる人もいるんだよ」
「お願い、今回だけ。ね!」
なかなか引かない大君に皐月が折れた。
大君くんの馬鹿!!
彼女連れてこないでよ。一緒にいる所見せないで。手なんか繋がないで。
すぅっと息を吸い込む。
「大君くんの馬鹿!大嫌い!!」
言った後の大君くんの顔を見てしまったと思った。
その後彼女に慰められている大君くんを見て何もかもイヤになった。




