表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛 二乗  作者: 花ゆき
中学生編
22/37

愛二乗=皐月と啓一

 


 次の日、雪哉はニヤニヤとした啓一が現れるものと思っていた。

 自分が気を利かせて二人きりにしたのだから、あいつは上手くやるはずだと言う信頼でもある。

 しかし、現れたのは微妙な顔をした啓一だった。


「昨日はどうだった?」


 成功とも言えない顔色にあえて尋ねる。

 啓一は酷いヤツだ、とばかりに溜め息を落とす。

 それでも気になる大君は譲らなかった。

 少し間が空いて、観念したように啓一が答える。



「いろんな意味で失敗。でも次の約束したから、それは上出来だろ」


 いろんな意味とは何だろうか。


「ともかく次の約束出来てよかったな」

「次もWデートだぞ」

「え?」

「二人っきりじゃ駄目なのかよ~」


 二人きりがいいとばかりに頭を抱える啓一。

 ということはまた、俺は付き合わされるのか?彼女いるのに?

 いなかったら大分違っただろうけど。


「友情のためだ。頼むぞ」


 ……頼まれたくない。

 そんな俺にあいつは一言。



「俺は何がなんでもあいつを手に入れるよ」


 強い目、自信に満ちた顔。全てが俺と違っていた。

 こいつは俺さえも利用するのだろう。

 次もWデートでなくてはならないのだから。



 一生懸命体当たりする啓一とは違って、俺は一歩下がった所にいる。






 ――お願いよ、雪哉。女の子には優しくしてあげて。

 こんな悲しい想いを他の子にもさせないで。私だけで十分よ。




 姉が泣いていた。

 姉が泣く姿なんて見たことなくて、姉のために頑張ろうと思った。

 姉は母でもあったから。



 俺はあの時の姉の強い悲しみにうん、と頷いた。

 そして今回も啓一の強い気持ちに頷いた。





 この時、俺は何一つ自分で決めていなかった。

 のちに悔やむことになる。






 教室で皐月と話していたら、遠山君が来た。


「柿本ー、上手くいったぞ」

「あら、やるじゃない」

「まかせとけって」


 何の話だろ?

 不思議そうな顔をした私にニャッと笑いかける皐月。


「また遊べるよ。大君くんとね!」

「雪哉は正直乗り気じゃなかったんだけどな。俺に感謝しろよ~」


 そうだ、大君くんには彼女がいる。

 落ち込む私を見て皐月が遠山君の頭を小突く。


「あんた余計なことを!」

「ほんとのことだろ。平田、お前はそれを分かってて、でも諦めなかった」


 皐月は私を心配そうに見る。

 私は俯いて、遠山君の言葉を一つ一つ消化していった。


「そう、諦められないから。彼女がいても振り向かせる。

 迷惑なのは分かってる。犠牲も出ると思う。

 それでも決めたから、もういい子でいるつもりはないよ」


 悪者にだってなるんだ。





「平田変わったな」

「そうね、強くなった」


 そこで、ごほんとせきごむ啓一。


「次のデート、スカート着て来いよ」

「デートなんかじゃないわよ!わたしは今は無理だって言ったじゃない」

「雪哉と平田がくっつくまで、だろ」

「知ってるなら、っ」


 知らない間に吐息がかかる距離にまで近づいている啓一に、後ずさる皐月。

 それをまた詰める啓一。

 目は限りなく真剣で、皐月には怖かった。


「なぁ、俺待てねぇよ」


 啓一の手が頬に触れる。

 びくっと体が震える。

 だれに触れられてもこんな反応はしない。


「明らかに俺に気がある感じなのに。

 あいつら待ってたら何年かかると思ってんだよ」


 つつっとなぞる頬にぞくっと走る何か。


「わ、私のこと一年から好きだったならまた一年ぐらい待てるでしょ」


 顔を青くして、震える皐月。



 強がりだな。



 啓一はそんな皐月を見下ろして微笑んだ。

 頬にやった手をそのままに顔を寄せた。



 思わず目を閉じる皐月。

 しかし予想していた所とは別の場所にぬくもりはあった。




 啓一は自分の行動が妙に恥ずかしくなって皐月の頭をかきまぜた。

 そして走って教室を出て行く。

 途中で振り返った啓一は、またいたずらっ子のように笑っていた。


「次はスカートだからな!」

「うるさい!」


 そして私達は笑い合った。





 啓一が教室から出た後、皐月はおでこに触れる。

 彼が二度触れた場所。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ