愛二乗=作戦会議!
果穂子は雑誌を買った。
そして一番に見たのは恋人Get特集。
初恋なだけに手探り状態なのだ。
とにかく数打ちゃ当たるの要領で何でもしてみることにしたらしい。
・その1 彼に存在を知ってもらおう。
「これは大丈夫よね」
委員長を一緒にやっているのに知らないってことはないだろう。
・その2 細やかな気遣いで女の子らしさをアピール。
果穂子は無言で今までを振り返る。
「平田さん、それ重いでしょ?持つよ」
「いーのいーの。大丈夫」
英語の時間に和英辞典を使うことがあって、大量に運んだっけ。
……今更無理だ。そんなことしたら具合が悪いのかと思われる。
家の影響で鍛えてたのが裏目に出たようだ。
果穂子の家は父が道場をやっている。
心配性の長男のために果穂子も護身術程度に学んでいる。
・その3 彼の視界に入ろう。
「……えーっと」
これはどういう意味だろうか。下手をすればストーカーになる。
一応教室の席からして大君くんの視界には入っていると思う。
・その4 積極的に交流しよう!
「これだーー!!」
さっそく果穂子は友人皐月に相談する。
「へぇ、果穂子がそこまで積極的になるなんてね」
デートをしたいと話したところ、皐月は嬉しそうに相談にのってくれた。
「でも今大君くんには彼女いるから、二人っきりはまずいわ」
「そうだよね……」
前、二人で買い物していたことが原因で、大君くんは付き合っていた彼女と別れてしまった。
果穂子はそれに責任を感じている。
あの時気付いていれば、断ることも出来たのに。
けれど育った恋の苗は私が断ることを許すだろうか。
いや、もう過ぎたことだ。考えるのは止めよう。
「そうね、Wデートはどうかしら。
私達と大君くん遠山で」
それなら自然かもしれない。
ただ、皐月はいいのだろうか。
ちらりと見ると、皐月は果穂子の視線から読み取ったらしい。
「私なら大丈夫。
私が提案したことなんだし、ね?」
こうして作戦は立てられた。
夜、啓一は家でテレビを見ていた。突然携帯が鳴る。
ディスプレイを見てみると“柿本 皐月”。
緊張しながらも通話ボタンを押す。
「はい」
『もしもし~、遠山?』
「そうだけど」
声はつれないが内心啓一は小躍りしていた。
体育祭の練習の時電話番号聞いててよかったー!
『果穂子がね、大君くんとデートしたいって言うのよ』
「いや、でも雪哉は彼女がいるぞ」
『そこで私達の出番よ』
私達ーー!?
いい響きだ、と啓一は内心思う。
「具体的には何を?」
『私達含む4人のWデートよ』
「そうか。じゃあこっちから雪哉に伝えておく」
『頼んだわよ』
「まかせろって」
めちゃくちゃおいしい企画なんですけど!グッジョブ、平田!!
啓一はニヤニヤしながら携帯の電話帳を開く。
選択したのは“大君 雪哉”。
「よっ、雪哉」
『あぁ啓一。どうしたんだ?』
「俺とお前と柿本、平田のメンバーで遊びに行く話が持ち上がってるんだけど、どーよ」
『うーん、彼女いるからなぁ。おもしろそうだけど、ごめん』
ここで断られるわけにはいかない。
なんたって柿本と遊べるおいしい企画なんだ。
「まぁ聞けって。俺柿本好きなんだよ。協力してくれ」
『えー、嫌だよ。ややこしいことになりそうだし』
「そこを頼む!」
『一ヶ月俺のパシリ』
「一週間!」
『三週間』
「一週間!」
『そんなに一週間がいいならそれでいいよ。本当は一日でよかったんだけど』
「何ーー!?」
こいつ確信犯かよ。
『じゃ月曜日からで頼むぞ、パシリ』
「はい……」
『で、いつ遊びに行くんだ』
「まだ決めてねぇみたいだな」
『そっか。じゃあ俺から電話しておく』
「誰に!?」
柿本に電話されたらヤバイ!
俺の気持ちとか平田の気持ちがばれるじゃん。
『誰にって平田さんしか知らないんだけど』
「あぁ。さんきゅ」
果穂子は皐月からの連絡を待っていた。
大君くんOKくれたかな?
そして鳴り出す携帯電話。
真っ先に果穂子は取った。
「どうだった!?」
『何が?』
携帯から聞こえた笑いを含んだ声に、携帯を落としそうになった。
それは教室でも声が聞こえるたびにドキドキする声。
『こんばんは。大君です。……啓一からの電話待ってた?』
私は見えもしないのに首をブンブン横に振る。
ある意味待ってた。
異性だからなかなか電話出来なくて。
メールも打っては消すばかり。
それでも電話がくればいいと思ってた。
「皐月かと思ってたの。ごめんね」
『ならよかった』
「どうして?」
『あ、ほら。啓一が柿本さんのこと好きだからさ』
「へー。お似合いだね」
最近よく話してるもんね。
皐月はどう思ってるのかな?
『あ、あぁ。そうだよね。それで遊びに行くって話だけどOKだから』
「ほんと!?何処に行く?」
『平田さん達の行きたい所にしようよ』
「うん、決まったら連絡するね」
『頼んだよ。じゃぁおやすみ』
「おやすみ」
やった、やった!
電話貰えちゃった。遊びに行ける。また連絡できる。
“おやすみ”っていってもらえた!
たったそれだけで果穂子は幸せな気持ちになるのだった。




