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悪役令嬢のままでいなさい!  作者: 顔面ヒロシ(奈良雪平)
冬――ゲームマスターの告白
303/361

☆284 打ち明けた前世の記憶




 翌日、私は不安を抱えて学校に行った。

自分の教室に入ってみると、そこには生徒に遠巻きに避けられている少女が一人、席に座って教科書の整理をしているところだった。

驚きを隠せずに、登校してきた奈々子の姿を見る。正確には、その服装だ。

あれだけ改造されていた制服は模範的なものに代わり、化粧も大人しめのものになっている。


「…………っ」

 私が来たことに気付き、奈々子は息を呑む。

俯いた彼女は、やがて勇気を出したようにこちらを見た。


「ご……ごきげんよう」

「おはよう」


「……何よ。似合ってないとでもいいたいの?」

 別人みたいに装いが変わっても、中身は相変わらずの口の悪さで、私はそのことにホッとした。


「別にいいわ。そんなことあたしだって分かってるもの。でも、少しは今までと違うように見えなくもないでしょ!」

「……何か心もちが変わりでもしたの?」

 期待せずに私が笑って見せると、奈々子は唇を噛んだ。


「そんなわけじゃ……」

 ああ、この子は今、嘘をついた。

一朝一夕に、私たちの関係が修復できるわけではない。

彼女を哀れに思ったからといって全ては許せない。でも、ここで互いに罵ってしまえば、それこそ元の木阿弥になってしまう。


 それでは何も変わらない。

これから変わりたいと思っているのなら、この痛みを乗り越えなくちゃいけない。


「松葉は今、あなたのところにいるの?」

 私が問いかけると、奈々子はバツの悪そうな顔で頷いた。


「そう……」

 ダメだ、優しくない言葉しか浮かばない。

誰か助けて欲しい。そう思って視線を走らせてもクラスメイトは関わり合いになりたくないようで、近寄ろうともしなかった。


「……月之宮さん?」

 そこに、分厚い本を持った遠野さんと目が合う。


「おはよう」

「……おはよう」

 挨拶をした遠野さんは、こちらの空気を読んでくれた。歩いて近づいてきた彼女は、この状況を見てとって奈々子の机の引き出しに溜まった教科書の整理を手伝い始める。

いつもは拒絶するだろう奈々子も珍しく為されるがままになっていると、やがて何事もなかったかのようにホームルームになった。





 放課後になると、廊下で希未は毒づいた。

「よくもまあ、日之宮さんものうのうと登校できるものだよね。あれだけのことを八重にしておきながら……」


「でも、お元気そうで良かったよ」

のほほんとした白波さんの言葉に、希未は威嚇する。


「あれが苦にして病気になるようなタマ!? 白波ちゃんもなんでそんなに友好モードになってるのさ!」

「俺も右に同じだ。白波、お前は人が良すぎるぞ」

 鳥羽が白波さんに呆れると、彼女は視線を宙に浮かべる。


「でも、日之宮さんってよく考えてみると月之宮さんの身体を傷つけるようなことはしていないっていうか……」

「いや、それは未遂ってだけだから。そういう状況にならなかったってだけで、アイツならやりかねなかったぞ」

「そうかなあ……」

 白波さんは腕組みをした。そういうちょっと生意気な仕草でも、この子がやると可愛らしく映る。


「そうね。どちらかといえば私は嫌われているみたいだし……」

「ホントに?」

 白波さんは、首を傾げる。


「私は、日之宮さんは月之宮さんのことが好きなんじゃないかと思うけどな。大事な幼なじみさんを独占したかっただけじゃないかって……」

「ないない」

 私は苦笑してその説を否定する。

眉間にシワを寄らせた希未が、嫌そうに言った。


「あーあ、どうしてあんな邪悪な女がこの学校に転校してきちゃったかなぁ! 最初は傍観者を気取っていたんでしょ!? だったら最後までそうしてれば良かったのにっ」

「確かにそこは気になるよな」


「ん?」

 何も考えずに喋っていたらしい希未が目を瞬かせると、鳥羽は咳払いをした。


「……いや、だから日之宮がこの学校に転校してきた動機だよ。確かに陰陽師としての保身を考えるなら、わざわざこの学校を引っかき回す意図が分からねーよな」

 ぎくりとした私が立ち止まる。

そういえば、みんなは奈々子が前世の記憶を取り戻したことを知らないのだ。そのことを知らずにいれば、彼女の行動は不可解なものに移るだろう。


「……月之宮さん?」

「あれ? 八重?」

 気付いたら、歩いていたみんなの距離はこちらと開いていた。

空笑いを浮かべている私に、鳥羽が怪しく思う。


「なっ……ななな、なんのこと?」

「どうしたんだよ、てめー。何か隠してることでもあるのか?」


「そ、そんなことは……っ」

 しまった。

次第に、希未の顔が険しくなる。つかつかと私の正面まで迫ってきた。


「ちょっと聞かせてもらおうかな、八重……?」

「え、え、その」

 視線を動かすと、鳥羽が口笛を吹いて誤魔化しているところが映る。


「だってこの前は隠し事してもいいって言ってたじゃない!?」

「いや。流石に色々あったし、状況ってのは変わるもんだ。月之宮」

 珍しくも東雲先輩のような作り笑いを浮かべる鳥羽というものをお目にかかってしまった。





 結局、私は殆どの隠し事を打ち明けることになった。

乙女ゲーム関連のことは伏せておこうかと思ったけれど、話の矛盾やすり替えは逐一鳥羽が指摘してしまう為、自分の正体が名前を失くした半神だということ以外は話してしまうことになったのだ。

一連の話を聞いたみんなの顔色はグレーやブルーになったり戻ったりしていたが、最終的には誰もいない学食で頭痛を堪えていた。


「あのさぁ……八重……」

 学食のテーブルに突っ伏した姿勢になった希未がうめき声を出す。


「逆に壮大すぎるよ、その情報は……。何? 私たちって乙女ゲームのキャラクターだったの? 冗談じゃなくって真面目に云ってる?」

「この期に及んで冗談を云えるとでも?」


「それさあ、ネット小説の読み過ぎでそういう夢を見たとかじゃ……」

 ひどい。

親友にまで疑われてしまうだなんて。

私がじろりと睨むと、希未はげんなりした顔になる。


「だってさ、流石に信じろって云われても……」

「俺は信じるけどな」

 そこに、開いていた購買からダイエットコーラを買ってきた鳥羽がすました顔でそう言った。

そのセリフに私が驚くと、彼は真面目に説明する。


「まず、前世の記憶がある人物が一人じゃないこと」

「それが何なのさ?」


「少なくとも、月之宮だけの妄想ではないという証拠になるだろ?

次に、話してもいないうちから月之宮が俺たちの正体を知っていたこと。

これは、当時の月之宮が本来なら知りえるはずのない情報を持っていたこと自体が証明になる……最後に、白波と俺が付き合っていること」


「ねえ、鳥羽」

 希未が冷めた目でフッと笑い飛ばした。


「……アンタって意外とロマンチストなんだね。ないわー、マジないわー」

「おい白波。俺、コイツを殴ってもいいか」

 困り顔の白波さんが返事をする前に、私は鳥羽を引き戻した。

 ここで希未と喧嘩になられても困るのだ。


「逆に云うとさ、三つしか証拠がないってことじゃん? 月之宮って陰陽師の家だし、ちょっと変な形で予知夢を見たってことじゃないの?」

「ぐ…………」

 流石の鳥羽も言葉を詰まらせた。

そこに、白波さんが居心地悪そうに言った。


「あの……、そのゲームの主人公って私だったの? そのことにびっくりしたっていうか……」

「そうよ」

 きっぱり断言すると、白波さんは頬を赤らめた。


「そ、それはやっぱり違うんじゃないかな……」

「証拠ならもう一つあるわ」

「なんですか?」


 首を傾けた白波さんを指さし、私は勢いよく言った。左手の拳を握りしめ、

「白波さんは可愛い!」


「ええ!?」と白波さんが小さく跳ね、

「はいい!?」と希未が叫んだ。

 仏頂面の鳥羽も頷く。


「そうだな。確かにそれは大きな証拠だ。ゲームの主人公である白波が可愛いことは否定できねーよ」

「……うっ」

「反論できるものならしてみろよ、オラ」

 色々言いたいことがありそうな顔をして、希未は口をもごつかせた。しかし、白波さんの彼氏である鳥羽の圧力に負け、俯いて額に手を当てた。

その光景に、白波さんが叫ぶ。


「どんな理屈ですかぁ!」

「……それで結局、私の話すことは信じてもらえるのかしら?」


「月之宮さん、サラッと流さないでくださいーっ」

 いやだって、満場一致みたいだったし。

白波さんは誰よりも可愛い。誰にも文句を言わせないぐらいに乙女ゲームの主人公に匹敵する美少女だ。


「はいはい、信じるよ。私はこれでも八重の親友だからね。今更嘘をつかれるとも思ってないし」

「そういう反応をすると思ったから話すのが嫌だったのよ」


「ごめんね!」

 希未に抱きつかれ、私はため息をついた。


「日之宮が月之宮を操ろうとしたのは、前世から憧れていた悪役令嬢の座を奪ってアヤカシと敵対するつもりだったということか……。確かに、話は見えたけどな」

 何だかんだで辻本君のお蔭でネット小説の知識のある鳥羽が思慮深げな表情になる。


「まあ、いいか。さっさとオカ研に顔出そうぜ。日之宮の考えていることなんか永遠に議論しても分かりたくねーや」

「そうだね。そうしよ」

 椅子から立ち上がり、歩き出そうとした鳥羽を私は引き留める。


「……あの、怒ったりしないの」

「なんでだ?」

 不思議そうな目をした鳥羽に、私はぐっとこみ上げるものがあった。そのまま黙り込んだこちらの肩をポンと叩き、彼は笑った。


「ま、お疲れさん」

 泣きそうになるから、そういうのは卑怯だ。


 オカルト研究会に向かって歩く中、私たちは会話をしなかった。

やがて階段を上ってドアにたどり着くと、希未が何気なくドアノブを握って押す。


「おっくれまーし……」

た、の部分まで言おうとしたところで、親友は硬直する。

私と鳥羽と白波さんがどうしたのかと室内を覗き込むと、そこでは嬉しそうに話している二人組の姿が見えた。

それが誰なのかを認識したところで、鳥羽と希未が叫ぶ。


「なんでこの女がこの部活にいるんだよ!」

「そうだよ!」

 穏やかな表情で夕霧君と話していた奈々子は、ふいっとソッポを向いた。それを微笑ましそうに見ていた陛下が呑気に言う。


「忘れたのか? 日之宮は部員になったと前に紹介したろう。ここでは喧嘩はなしだからな」

「ゆーうーぎーりー……」

 歯ぎしりをして怨霊化しそうになった鳥羽に対し、奈々子のことを影ながら心配していた白波さんがおかしそうに笑った。




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