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悪役令嬢のままでいなさい!  作者: 顔面ヒロシ(奈良雪平)
秋――消えゆくメモリー
243/361

☆228 看病は献身的?

今回は短いです。




 帰ってきた白波さんの姿を見つけたご両親は、顔をくしゃりとさせて娘を抱きしめた。2人は泣きながら彼女に囁く。


「よかった……無事で良かった」


 そう言われて抱擁される白波さんは、「心配をかけてごめんなさい」と繰り返す。

その言葉が含んでいるのは今回の事件だけではないだろう。涙を流す親の姿に、ひしと縋り付く腕の強さに、その愛を感じたはずだ。



「……羨ましいですか?」

 東雲先輩にそう言われて、私は何かを言い返そうとした。……けれど、思ったよりもその光景に訴えかけるものを感じて、静かに首を振る。


「いいえ」

「嘘を言うのはよしなさい」

「……嘘じゃない」

 だって、私はもうとっくに親への期待は捨てているのだから。

白波さんのご両親の愛を目の当りにして、羨ましいと思うその感情自体が雑音なのだ。気にしなければきっと忘れることができる。


「家族に愛されていない私の命よりも白波さんの命の価値の方が重いのかしら……そう思ったこともありますけど」

「……八重」


「でも、そういうことではないって今は分かるんです」

 苦笑しながら、私は東雲先輩の手を握った。長い指が、ぴくりと動く。


「――私、助けてもらったこの命を粗雑にしないってもう決めました。この世の命は全て等しく尊いものなのだと、彼女に教えてもらった気がします。自分のものだからって、傷つける必要なんかない」

 気付くのが遅すぎたような気がするけれど。

学んだことをそっと呟くと、東雲先輩が口端を上げて笑いかけてきた。


「やはり、君と白波小春を出会わせて良かった」

「え?」


「彼女ならもしかすれば君を変えてくれるのではないかと思っていたのですが……」

 くく、と東雲先輩が満足げに喉を鳴らす。

 ブルーの瞳に優しさが宿る。

その言葉に頭が真っ白になっていると、こちらの持っているスマホに着信が鳴った。慌ててポケットから取り出してメールをチェックすると、私はそっと胸をなでおろした。


「柳原先生と八手先輩が意識を取り戻したって……っ」

「そうですか」

 どんどん暗くなっていく空。

カラスの鳴く声が聞こえ、私は天を仰いで笑った。





 車いすに乗った柳原先生が頬を緩めた。

「……おー、月之宮」


「さっさと受け取りなさい。この寝坊助」

 東雲先輩が突き出してきた豪勢なユリの花束に、先生は複雑そうな表情を返す。

この妖狐はマナーを知らないのではない。知ったうえでわざと嫌がらせをしているのだ。


「東雲さんにオレなんか悪いことした? 死んだ方が良かった?」

 悪うございましたね、と少し拗ねた素振りになる。

隣のベッドには八手先輩が落ち着いた寝息を立てている。

お見舞いの品にリンゴを持ってきた私が皮を剥き始めると、松葉がびくびくしながらこちらの手元を見ている。


「八重さま、ボクがやろうか?」

「それはダメよ。2人には助けてもらったんだから、ちゃんと恩返しをしないと」

「だって見ているとすごく怖いよ!?」


 慄いている松葉に向かって、キッと私は持っている包丁の切っ先を向ける。じろりと睨むと、松葉は静かに目を逸らした。


「……そういえば柳原。白状しなさい。あの戦闘で使った銃はどうやって手に入れたんですか?」

「ぎくっ」

 口を引き結んだ先生の目が動く。

それを見た東雲先輩は凄みのある作り笑顔を浮かべた。


「さあて?」

「……テーマパークの折りに月之宮に借りた金で買いました」


「どうして八重にそのことを素直に申告しないんですか、お前は。どうせ他にも色々つまらないことで使い込んだんでしょう」

「そ、それは……。大人の事情ってもんが、な?」

 東雲先輩の目が据わった。


「酒屋にパチンコ屋に居酒屋etc……ちなみにここに領収書が何枚かあるのですが。全快したら覚えておくように」

「……ひい……っ」

 柳原先生はさっと青ざめる。


 その時。

私の親指に刺さった包丁を見て、松葉が悲鳴を上げた。






これで秋は終了です。次回から冬の章に移ります。

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