表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢のままでいなさい!  作者: 顔面ヒロシ(奈良雪平)
秋――消えゆくメモリー
217/361

☆204 泥棒にはなりたくないよ



 唖然と口を開いた私を置いて、鳥羽は気安く片手を上げるといなくなってしまう。取り残された白波さんは苦笑し、柔らかに微笑んだ。


「まったく鳥羽は……」


「月之宮さん。私、前から聞きたいことがあったんだけど、いいかな?」

「え? ええ。なんでも聞いてちょうだい」

 ふんわりとした甘い香りが鼻腔をくすぐる。カラメル色の艶髪を触った彼女は、勇気を出したように唇を動かした。


「あのね、私ってどうしてフラグメントに選ばれたのかな……」

「……な」

 言葉を失ってしまった私に、白波さんが長いまつ毛を伏せる。その可憐な瞬きには、少しの迷いが表出していた。


「ずっと最近考えてたの。この世界には溢れるほどにすごい人間がいるのに、なんで何もできない私だったんだろうって。……できることなら、神様に理由を聞いてみたいよ」

「なんでってそれは……」

 白波さんは、この世界が舞台になったゲームのヒロインだから。主人公だから。

私はその理由を知っているけれど、思えば彼女は何も知らないのだ。どう説明したらいいのか分からなくて、視線が地面に落ちる。


 ……いや、突き詰めて考えてしまえば、それだって根本的な理由になるだろうか。

神様のフラグメントが白波さんでなければならなかった訳を、私たちは誰も知ることがない。


「……知って、どうしたいの?」

 私が訊ねると、白波さんは儚く微笑する。


「神様に名前を返したいかな」

 すっきりキッパリ言われた内容に、私は驚きを感じる。


「……返したい?」

「うん」


「どうして?」

「だって、このままでは私は卑怯者になってしまうもの。取り柄のない私が特別じゃなくなるってことはすごく不安なことだけど……。でもね、きっと私に欠片を預けてくれた神様も、困っていると思うから」

 ぽつぽつと説明をされた私は、胸がざわめくのが分かった。


「それで、白波さんは幸せになれるの?」

「なれるかもしれないし、なれないかも。アヤカシを惹きつける欠片がなくなったら、鳥羽君に振られちゃうかもしれないけど……」

 唇を噛みしめた白波さんは、泣きそうな声で言った。


「それでも、泥棒にはなりたくないよ……」

 そんな、泥棒だなんて思わない。

そう言ってあげられたらどんなに楽かと思うのに、愚かな私の口からこぼれ出ることはない。


 それは、自分が人外だと認めてしまうことだから。


欠片を所持することの危険性を考えたら、ここで白波さんとは分離してしまった方がいいのは確かだ。

例え、私たちの両方が本心から望んでいなかったとしても、そうしなくてはいけないと理性が訴えかけてくる。


「……思いつく方法がないわけではないわ」

 私が告げると、白波さんがパッと振り返る。柔らかな髪は踊り、曇天の空からは何粒もの水滴が落ちてきた。

それは、いやに透き通って見えた。

降り出した小雨の中、顔を上げて私たちは向かい合う。


「本当?」

「まだ確信は持っていないけれど、それでいいのなら、今すぐにでも呪を使うことはできる。選んでくれたなら、あなたを普通の人間に戻してあげられる」


 だから、選んで。

これからのあなたの道を。

燃えるような瞳をした私の言葉に、白波さんはまぶたを閉じた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ