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悪役令嬢のままでいなさい!  作者: 顔面ヒロシ(奈良雪平)
秋――消えゆくメモリー
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☆199 仲間への報告 (1)


 帰ってきた私たちを迎えたのは、不機嫌な鳥羽とへとへとになった白波さんだった。現実感のない足取りで帰ってきた私と希未に、彼は苛立った声で言う。


「……遅い。どれだけ待ったと思ってるんだ」

 ごめんなさい、と返すと天狗は鼻を鳴らした。



 もう作業をしていた他のクラスメイトは帰ってしまったようで、吹奏楽部で忙しい遠野さんの姿もない。

誰もいない、がらんとした、空間。

虚ろな心で、恐怖ばかりが沸き起こってくる精神の私の顔色を見た白波さんが、心配そうに囁いた。


「……月之宮さん、大丈夫ですか?」

白い顔をしています。と言われた。その言葉にようやく、自分の血の気が失せていることに気付く。気付いてしまう。気付いてしまった。


「うん」と鼻をすすった私の様子に、鳥羽は違和感を覚えたようだった。


「おい、月之宮……」


「ごめんなさい、私、急用で東雲先輩に会わなくてはならないわ。できたら、鳥羽も一緒に来てほしい……例の一件よ」

 私のセリフに、何かを悟った鳥羽がひゅ、と息を呑んだ。苛立っていた雰囲気が一気に別のものへと変化する。

よく分からない顔をしている白波さんが、首を傾げた。


「……電話とかではダメなの?」


「直接……直接会わないといけないの……」


「だったら、私も一緒に……」


 それを押しとどめたのは、感の鋭い鳥羽だった。彼は眉を吊り上げ、白波さんの肩に手を置く。


「いや、白波は栗村と一緒に帰ってくれ。これ以上時間が遅くなると、物騒だから」


「はい……」

 しゅんとしょげてしまった白波さんに、希未が笑いかける。明るい茶髪のツインテールが揺れた。


「白波ちゃん、家族が心配してるだろうし、早く帰った方がいいよ。今まで待っててくれてありがとね」


「うん」


 率先してナンパに乗じて寄り道をした人間のいうセリフとは思えないが、それを突っ込む気力は私には残っていなかった。

連れだって鞄を持っていなくなった彼女たちを見送ると、二人きりになった教室で鳥羽が私に問いかける。


「……俺と東雲先輩に用事って、何があった?」


「遭遇したのよ」

 静かに私は語る。


「ウィリアムと名乗る外国人と……街中で遭遇したの。私の直感が正しければ、アレは恐らく怪異の一種だと思うわ。雰囲気が、なんとなく松葉と出会ったときに似ていたのよ」

 鳥羽の表情がみるみる険しくなっていく。


「特徴は」


「ただ、情報にあったピンクの瞳ではなかったの。紫色の目をしていたわ」


「……そうか」

 考え込む素振りを見せた鳥羽に、私は言う。


「東雲先輩に相談しないといけないわ」


「……月之宮」


 眉を寄せた鳥羽が、こちらにチラリと視線を向けた。


「白波に、知らせた方がいいか?」


「……分からないわ」



 でも、怖がらせたくない。

今は白波さんにとっても大事な時期で、それを脅かすようなことはしたくない……その思考は私と鳥羽の共通の思いなはずだ。


「まあ、アイツに知らせたところで怯えさせるだけな気もするんだよな……蛍御前のところに連れていくって手もあるけど、俺たちは神龍の住処なんて知らないだろ? 呼びかけに応じると思うか?」


「分からない」


 避難できるのならした方がいいと思うけれど、それで白波さんは幸せになれるのだろうか。その案に心がぐらりと傾きそうになったところで、蛍御前の言葉を思い出す。


『そうさのう……。妾がこうして視る限り、一見問題ないただの人間に見えるんじゃがの? よく視ると色んな必然が幾重にも重なってしまっておるんじゃ。まるで、悪いことを故意に先送りして生きてきたような、のう?』


 ここで白波さんを避難させることは、私と同じように問題の先送りにしていることにしかならないのだろうか。どこに逃がしても、ウィル・オ・ウィスプは白波さんを見つけ出して襲ってくるのだろうか。

 それに、あの気まぐれな神龍が例え友人といえど私の願いを無償で叶えてくれるなんてことがあるの?


 考えれば考えるほどに袋小路になっていく。

唸り声を出した私に、鳥羽がため息をついて言った。


「まあこの場で結論を出すことじゃないだろ。とりあえず東雲先輩に報告しようぜ」


「……そうね」


 東雲先輩なら、もっと理性的に考えられるだろう。

極端なことを言えば、私は彼のことを信頼していた。アヤカシを信じるだなんてふざけた話だけど、東雲先輩のことも、ここにいる鳥羽のことも信じられる存在になっているのだ。

種族が違っても、きっと……。


「ところで、東雲先輩とお前ってあれから進展はあるのか?」


「…………!」



 みるみるうちに真っ赤になった私の顔を見て、鳥羽が忍び笑いを洩らした。






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