表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢のままでいなさい!  作者: 顔面ヒロシ(奈良雪平)
秋――消えゆくメモリー
190/361

☆179 探し人の影

今回は短いです。


 付き合い始めたばかりの恋人な鳥羽と白波さんは、いつもよりも近づいた距離で並んで帰る。それを見送った私と希未が、連れだって会話をしながら校舎の前で立ち止まっていると、ふとした拍子にとある男の後ろ姿を見つけてしまった。

遠くに佇んでいるのは、1人でいる白金髪の背の高い彼。

私は視界の奥に、東雲先輩の存在を察知した。


「……ねえ、希未」

「ん?」

 どうしたの?と、希未がツインテールを揺らす。訝しげな顔になった彼女に、私はこっそり囁いた。


「あっちに東雲先輩がいるわ」

「え、嘘? マジで?」

 目を瞬かせた希未が、驚いて私の指差した方向を見る。唸りながらもそちらを確認した彼女は、曲がり角を通過していった東雲先輩の姿にこんな声を洩らした。


「……本当だ。まだ今日は会えてないんでしょ? せっかくだから、八重は私なんかほっといて話してきたらいいのに」

「それは……」

 あの神社での一件以来、妖狐とはまともな会話を交わしていない私はドキリとした。カラカラになった口に、無理やり唾を呑み込む。

日が沈んでいく午後。風がざわめく夕刻に、私は少しだけ勇気を出してみることにした。

……このまますれ違い続けることなんて耐えられないから。


「ごめんなさい、私……」

「いーってことよ」

 ウインクをしてきた希未に背中を押された私は、校舎の影にいなくなった東雲先輩を追いかけることにした。

冷たい風が頬を撫ぜる。上ってきた星が旅人の目印になって点滅をする。


「私、先輩に会いに行ってくるわ」


 もしかしたら、ちょっとの勇気で世界は変わるかもしれない。自分から踏み出すことで、このゲームの支配から解かれた未来はいくらでも輝くのかもしれない。

確信は持てないけれど、幸せそうな鳥羽と白波さんのカップルを見ていたら、悪役令嬢だったはずの私でも幸福になりたいと思ってしまったから。

だから、こんな矛盾だらけな私のことを『好き』だと言ってくれている東雲先輩との向き合い方をもっと模索してみたかった。

 そんな思いを抱いて探し始めたのに、何故か分からないけれど当の妖狐を捕まえることができなかった。


「……あれ……校舎の中かしら」

 ローファーを脱いで、靴下のままですのこの上に立つ。

そのまま靴を持って廊下を歩きだすと、あてどもない私はいつの間にか図書館の前まで来てしまった。

うーん……。


「来た道を戻った方がいいかな」

 窓から見える夕焼けは綺麗な茜色になっている。

どこで探す方向を間違えたのか、結構な時間を無駄にしてしまった。

階段を上った先で立ち止まって考え込んでいると、こんな時間に誰もいないと思っていた図書館の扉が押し開かれる。


「……お、月之宮じゃん」

 眠そうな眼差しでにへらっと笑ったのは、グレーのボサボサの髪をした雪男のアヤカシ。私の担任である柳原政雪だった。


「先生」

「友達も連れずに、こんなところで何をしているんだ?」

「……えっと……」

 まさか東雲先輩を探していたと正直に言うのは恥ずかしい。曖昧に口を濁すと、柳原先生はニヤニヤ笑ってこちらを見た。


「まさか、誰かと待ち合わせか? コレか? コレ」

 親指を立てて見せた先生の問いかけに、私は無視をする。あながち間違ってもいないが、かといってそんなカマかけに引っかかるのも癪だ。


「違いますっ」

「なーんだ、つまんないな。だったらこんな時間になんでここにいたんだい。図書館ならもう閉館の時間だぞ」

 適当な言い訳をひねり出そうと、私は脳をフル稼働させる。そうして、1分ほど考えた後に当たりさわりのない話題を自分から持ち出した。


「その……文化祭の演劇のことで担任の柳原先生にご相談が……」

「え? もしかしてオレのことを探してた感じ?」

「……はい」

 大嘘である。


私の言葉を聞いた柳原先生が、考え込むような素振りをする。口をつぐんでいたが、憂い気な表情でこう返答をしてきた。


「あー、もしかしてその相談は時間がかかりそうなものか。今日はこれから会議になるから、月之宮のための時間はとれそうにないんだ。明日……は土曜だけど、喫茶店かどこかで会えば大丈夫か?」

「そ、そうですね」

 何か大げさなことになってきたぞ。

冷や汗を浮かべそうな気持ちになってきた私が深く頷くと、柳原先生は手元の手帳の1ページにボールペンで何かを書き込んでべりっと破って剥がした。


「ここで落ち合おう。時間は、13時ごろでいいか?」

「……はい」


 手渡された紙に書かれていたのは、いかにも胡散臭い喫茶店の名前と簡単な地図だ。

今更断るわけにもいかない私は、親身に笑った雪男に背中を叩かれて微妙な笑みを浮かべることになったのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ