3話
いやいや、マジか。
誰が、学校のおひいさまである白崎凛華が、俺のネット友達のリリィであると予想しただろうか?
呆然と声にならない声を漏らした俺に、彼女が微笑む。
「えっと、宮原和也君、だよね?こうして話すのは初めてだね」
ダメだ、理解が追い付かない……。
本当に目の前にいるおひいさまが、リリィなのか?
「……えっと、リリィって、白崎さんだったの……?」
「そうだよ。ほらその証拠に」
彼女はスマホを取り出し、画面を見せてきた。
そこには、俺が見慣れたアイコンと共に、確かに「リリィ」の文字が表示されている。
どうやら本当に、目の前にいる白崎さんがリリィのようだ。
でも、目の前にいるのは学校一のおひいさま、白崎凛華。端正な顔立ちと、誰もが見惚れる上品さを備えた憧れの存在だ。背筋をピンと伸ばして立つ姿は、どこか近寄りがたい雰囲気すら感じさせる。
そんな彼女が、ゲーム内で俺とバカみたいに騒ぎ、時には声を上げて笑っていたリリィと同一人物だなんて、到底信じられない。
「ねえ、和也君。そんなにジロジロ見て、どうしたの?」
「いや、なんか……本当にリリィが白崎さんだったんだな、って……」
俺はぽつりと本音を漏らした。頭の中が整理しきれず、まともな言葉が出てこない。
「ふふ、やっぱり意外だった? でも、私も和也君がこんなに真面目そうな人だなんて驚いたよ」
彼女の声は柔らかくて、どこか安心感がある。
それでいて、しっかりと自分の考えを持っているような凛とした響きもあって、ゲーム内で感じていたリリィそのものだった。
「和也君。せっかくだからあそこにあるカフェへ行かない? もっと話したいことがいっぱいあるから!」
「そ、そうだね」
彼女に誘われるまま、俺はカフェへと足を進める。
心臓の鼓動はまだ速いままだったけれど、それが次第に高揚感に変わっていくのを感じていた。
カフェに着くと、リリィ、いや、白崎さんは、スッとメニューを開きながら微笑んだ。
どこか優雅な仕草が、「おひいさま」と呼ばれる彼女らしい。それでも、ゲーム内でリリィとして話していたときの柔らかさも感じられて、妙に安心した自分がいる。
「何か飲む? 私はキャラメルラテにしようかな。甘いの、好きなんだー」
そう言いながら俺を覗き込む白崎さん。学校では見せたことのない、気取らない表情だった。
「じゃ、じゃあ、俺も同じのにする」
つい、自然と答えてしまう。この状況にまだ慣れていないはずなのに、不思議と彼女といると居心地が悪くない。
白崎さん、遠目で見たことしかなかったけど、本当に可愛いな。
「でも、本当に和也君だって分かってよかった。ゲーム内で一緒に遊んでいるときから、和也君の性格がなんとなく伝わってきたの。優しいし、真面目だし、ちょっと不器用だけど、ね?」
「え、それだけでわかるもんなの?」
驚いて聞き返すと、白崎さんはふっと笑った。
「だって、いつも学校で西園寺君と話してるときと同じなんだもん。そりゃわかるよ」
その言葉に、俺は少しだけ気恥ずかしくなった。
けれど同時に、俺のような陰キャもおひいさまに認知されてるんだなと思うと、どこか救われた気持ちにもなる。
注文したキャラメルラテが運ばれてきて、ほっと一息ついた頃、俺は思い切ってずっと気になっていたことを口にした。
「リリィ……いや白崎さんってさ、学校でのイメージと全然違うよね」
ストレートに言うと、白崎さんは少し驚いたように目を丸くしてから、くすっと笑う。
「そうだね。ゲームの中と学校じゃ、結構違うかも」
「なんで、学校とゲームの中でこんなに性格が違うの?」
俺の言葉に、白崎さんは少し目を伏せた。
「学校では、そういうおひいさまだって言われて、勝手に作られちゃうんだよね。『白崎さんは完璧だから』とか、『おひいさまらしい』とか。私自身がそう振る舞いたいと思ったわけじゃないのに、いつの間にか周りがそういう私を望んでるみたいになっちゃったの」
彼女の声は少しだけ寂しげだった。でも、すぐに顔を上げて、優しく微笑む。
「でも、ゲームの中だと、誰も私のこと知らないし、“白崎凛華”じゃなくて“リリィ”としていられる。ゲームの中はありのままの私を出せる場所なんだ」
確かにゲームの中のリリィは、確かに生き生きとしていて、とても楽しそうだった。
学校の中では、皆の理想のおひいさまを演じていたんだろう。
かなり退屈だったんだろうな。
「そっか……じゃあ、ゲームの中が本当の白崎さんってことなのか?」
そう言うと、白崎さんは小さく笑った。
「うん。リリィのときの私が一番素直で、私らしいと思う。だからね、リリィでいるときの私が本当の私だと思ってくれたら嬉しいな」
白崎さんはそう言って、柔らかく微笑む。
「分かった。じゃあ、俺もリリィのことをそのままの白崎さんだと思うことにするよ」
「ありがとう、和也君」
お礼を言う白崎さんの笑顔はどこまでも優しくて、どこか誇らしげだった。
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