83話 初めてのダンジョン②塔2階 草原フィールド
階段を登りきるとまた空気が変わった気がした。
先ほどまでの下は土だけど、鍾乳洞かと思うような、わりかし狭い通路で壁は洞窟みたいな岩ゴツゴツだったのと違い、見渡す限りの草原だ。花が咲き、蝶が飛んで、鳥の鳴き声もして、なかなか平和な感じがする。
「草原フィールドだな。リィヤ、次なんか来たら、お前、戦ってみろ」
アークに言われてわたしは頷く。
「どんな、魔物、くる? ご存知でしょうか?」
ソウショウが視線を逸らす。
「お前、どこで言葉覚えたんだ?」
シリさんは言語を間違わないと思うのだが、なんか変だったのかな?
「いろんな人、話す、聞く」
アークは納得できてない顔で、そっかと頷いてから教えてくれる。
「鳥、ネズミ、ウサギ系だろうな」
ウサギか。それは嫌だな。ウサギを狩るのは抵抗がある。鳥も嫌だけど、おそらくインコ系ではないはず。……と思いたい。
「ラットだ」
探索のアラームより早くアークが教えてくれる。わたしは両手でラケットバットを握り直した。
ラットってネズミじゃないの? デカくない?
マルチーズぐらいの大きさで、水色と灰色の中間みたいな色。
あ、敵認定された。
片手じゃ無理だよね、当てられたとしても衝撃でラケットバットがすこーんと飛んでいきそうな気がする。両手で持つと上から振り下ろすか、横からかっ飛ばす感じしか思いつかない。ストライクじゃなくても、打たなきゃなんだよね、やっぱり。
だって地を走っているんだもん。これをかっ飛ばすとなると、すくい上げるようにバットを振らないとだよね。
はい、今まで突撃してくる魔物にバットを自分より前に出して当てる、と言うことしかしたことないので、積極的に魔物と戦うとなるとどうしていいかわからない。
低い球を打つみたいに、もしくはゴルフみたいなイメージ?
わたしは今バッターボックスにいるのだ。
ラットに合わせて体を横に向け、足はラットと垂直に。バットを構える。
ラットが飛ぶように走ってきた。ものすごく振りづらいけど、ボールより大きい分だけ当たる率は高いはず!
一直線に向かってきたラットに向かって、思い切りラケットバットを振る。
空ぶった! 走り抜けたラットは、きゅっと方向転換をした。
ひょえーーーー。ラットがわたし目掛けて飛んでくる。目の前でバットを握りしめる。
わたしの顔を目掛けて体当たりしてきたラットは、バットに当たると、ぽてっと地面に落ちた。屍だ。マルチーズぐらいの大きさだからか、反動はなんとか踏ん張れば耐えられる。ポンと音がして、白い煙みたいなのが出て、中から白い毛皮が現れた。
空気抵抗がすごい。そりゃそうか。普通のラケット部分だったら空気が通るけど、これ、ただ平べったく面積が増えたんだもんね。
「ラットの最上級毛皮だ」
アークの憮然とした声。
「それはいいですが。リィヤ、さっきのは何ですか?」
ソウショウに尋ねられる。
「何?」
意味がわからずに尋ね返す。
「さっき、ラットから外して武器を振りましたよね? 何か意味が?」
「当てる、した。当たる、いなかった」
「それは当てようとしたけれど、当たらなかったと言ってます?」
わたしはうんうん、頷いた。ソウショウは額を抑える。
「お、またラットだ。リィヤ、ちょっと、こっち来い」
ソウショウが毛皮を拾ってくれたので、急いでバッグに入れて、アークの元にいく。
「これを当てるんだな?」
バットを片手で掴み、尋ねてきたので、わたしは頷いた。
アークは後ろからわたしごと抱え込み、一緒にバットを握る。わたしもバットを持っているが、一緒にバットを振るつもりらしい。
さっきより、少し大きなラットだ。3体もいる。
ラットが走りながら跳躍をつけて飛んできた。それを目掛けてバットを振る、アークが。
わたしはただ手を添えていて、アークがバットを振っている、が正しい。
あまり振り切らずに、ラットを見事にラケット部分に当て、当たったラットは地面に落ちる。そしてドロップする。続けてきた2匹もなんとはなしにラケット部分に当てる。屍となり、ドロップする。今までは相手からの攻撃を受け入れるばかりだったが、発見だ。こちらから力を入れると、力の作用で相殺されるみたいで、多少は反作用がくるけど、吹っ飛ぶ程じゃない。
「すげー武器だな。本当に相手の力をカウンターで返してる」
Sランクにもなると、そんなこともわかるの? すごいな。
今度はアークとソウショウが入れ替わり、ソウショウが後ろからバットを一緒に持ってくれる。
またまたラットがやってきた。慌てず、騒がず、ソウショウはまるでバンドをするようにバットを動かし、難なく倒していく。あ、振り切るよりこっちがいいかも。やり方を模索していると、アークから突っ込まれる。
「で、リィヤ。叩く時に目を開けてなかったら、永遠に当たらないぞ」
はい、そんな気がしていました。
「一角ウサギだ」
え? ウサギ??
どこ? わたしは少々浮ついた気持ちでそちらを見た。
いや、倒す対象なのは心苦しいが、ウサギと聞くだけで、心は踊る。
「来たぞ」
ソウショウが鋭く叫ぶ。
は?
ウサギ? どこが? うっすいピンク色の可愛らしい色合いではあるけれど。
二本足で立って、背が1メートルはあるのに?
短い毛皮に筋骨隆々で、目つきが悪いのに? なんかお尻ボリボリ掻いてるんだけど。
耳? あんな触覚みたいなひょろっとしたのが? 耳らしき触覚のようなものの間にツノがある。
「お、どうした? リィヤ。やる気だな」
「ウサギ、違う!」
「違うって……」
「とりゃー」
わたしは剣道よろしく、上からラケットバットを振り下げる。
派手にポンと音がして、塊が落ちた。お肉っぽい。
「お前、一角ウサギ嫌いか?」
「ウサギ、違う。これ、ウサギ、ヤダ」
見た目がウサギウサギしていなくて助かったのだが。それにしても、これがウサギなんて、わたしは断じて認めない!
この子がこういう姿になったのは別にいいけど、これを『ウサギ』と称した輩に物申したい。
その後、一角筋肉(ウサギのカテゴリに入れたくないのでそう呼ぶことにする)が何頭も向かってきたので、全てお肉にしてやった。的が大きいので当てやすく、力はあるらしいが素早くないので、先手必勝でわたしでもいけた。
草原フィールドはあまり強くない魔物たちがぽこぽこ湧いてくるだけだった。さすがに数が凄くて辟易したが、相変わらず全部ドロップしてくれるので、いい収入になりそうだ。
カウンターの反動だけより、わたしからも力を入れた方が有効とわかったこともありがたい。
休みを入れながら2階の探索を続け、やっと上へと続く階段をみつけた。
ソウショウが懐中時計を持っていて、一角筋肉の嵐が去ったところだったし、今日は休むことにした。
セーフティスペースがちょうどよくあったからってこともある。
そこに3つのテントをはり、食事の準備だ。
かなりドロップ品が手に入ったし、一角筋肉のお肉は食べてみようということになった。
アークとソウショウは食べたことがあるみたいだけどね。
見た感じは鶏肉っぽい。親子丼みたいにしてみるか。わたしが考えた2WAY立体竃では唸らせた! 焚き火はひとつだが、石を工夫して置いてふたつのコンロに見立て、そのひとつはさらに上下で調理だ。最初にお米をといで水を含ませる。浸水中にスープを作り出す。火が入ったら、ご飯を炊き出して、その上にスープのお鍋を置く。
もうひとつのコンロでおかずを作っていく。
野菜のスープと、白米ご飯を炊き、一角筋肉はお醤油ベースの出汁と丸ネギで煮て、コッコの卵を溶いて回し入れ閉じる。
出汁はお魚の骨をカラカラに焼いたものと乾燥野菜を粉砕した『特製ノープランで出来上がりました出汁のモト』だ。
ライズまずい病のアークとソウショウだったけど、一気に平らげてくれた。ふたりとも気持ちいい量を食べてくれる。アジトのみんなより体が大きいこともあり、アジトのみんなも結構いっぱい食べることができて驚いたけど、さらに、だ。
男の子ふたりのママである友達が、お寿司を食べにいく時は、その前にふたりで食パン1斤を食べさせるというのも納得できる。甥っ子はわりと少食だったんで、ピンときてなかった。そして思う。そんだけ食べて、なんでスレンダーなの?
「お前、本当料理うまいなー」
「街ではないのに、こんなにちゃんとしたおいしいものが食べられるなんて」
ふふふ。もっと崇めてくれていいのだよ。
読んでくださって、ありがとうございます。
21.08.06>武器、バットにまつわるところ
ただのバットでなくラケットの形をしている記述などなどが
どこにも入ってなかったので足しました。
教えてくださって、ありがとうございました!
211202>やリ方→やり方
誤字報告、ありがとうございましたm(_ _)m




