67話 君を想う③クルミのケーキ
カレーは最低4つ、いや、最悪3つのスパイスがあればあの感じに作ることができる。
レッドチリパウダーはなかったが、唐辛子はイースターの支部で見つけた。ウコンとパクチーは、森で探索してみるつもりだ。もしあれば、カレーが作れる。
わたしは普段ルーで作る派だった。ある夏の日、カレーが無性に食べたくなった。でもこの暑い時に煮込むのも嫌だし、母との二人暮らしなため、少量で作っても3日はカレーになってしまう。冷凍すれば済む話だけど、わたし自身が解凍した食事をそこまで好きになれなかったのだ。
会社の先輩が大のカレー好きだった。よくいろんなお店に食べに行かれている。特にインドカレーが大好きでよく作られもする。旦那さまが1年前からジャズバーをやるようになって、先輩はバーのママもやっていて、先輩の作るカレーはすぐに売り切れてしまう人気メニューだ。他の先輩たちとバーにお邪魔した時、一人分のカレーしかもう残っていなくて、それをどうしても食べたい3人で分けていただいた。すっごくおいしかった! 一人分丸ごと食べに行くといったままになってしまったけれど。
先輩にお店用ではなく、自分で食べるのに夏もカレーを煮込んだりするんですか? 暑くて嫌にならないかってな話をしたところ。先輩ぐらいの上級者になると、カレーを一人分さらりと作るのだと知った。絶対必要なスパイスは4つだし、とにかくみじん切りにした玉ねぎをよく炒めて、生姜とニンニク、スパイスと好きな野菜を炒めるのだと。
作り方を教えてもらい、本当はもっとちゃんとやるんだけど、ズボラでガサツなわたしがさらに噛み砕き、その野菜炒めの延長みたいなやり方で、カレーを作ってみたところ、これがおいしかったのである!
わたしが気に入ったのは、ガサツ故にみじん切りにならなかった生姜がいい味を出していた。決め手というか、わたしが好きな味だったんだろうけど。煮込むまでいかないから、夏でも別に気にならないぐらいだし。量が食べたいだけ作れるってのがいい!それから夏の間はそのカレーを作った。ルーの味も好きなので、季節限定だけど。でも、ちゃんと、立派にカレーなんだ。
森にありますように! でも季節からいうと、パクチーには終わってる時期だし、ウコンはこれからってところだからな。
カレーのスパイスが揃わない場合、他の看板メニューを考えなくては。
ひとつはクルミを使ったものを考えている。
いっぱい採ってきたクルミは、余すことなく使える、良い食材だ。
木の実はもちろん、こちらを攪拌しペースト状にして絞れば油も取れる。残ったカスもクッキーみたいにできないかなと思って溜めている。殻部分も深めのお皿になる。ちょっと磨くだけで光沢も出て、いい感じなのだ。
クルミとアグレシの蜜を絡めて煎ったのはちびちゃんだけでなく、年長組も大好きなお菓子となった。クルミが取れるときは、これを売り出すのもいいのではないかと思っている。ブラウンとトーマスたちと検討中だ。
それとクルミを入れたパウンドケーキを焼こうと思う。パウンドケーキは全て材料が1ポンドで作ることから名付けられた、初心者にも優しいケーキだ。
泡立て器と、四角い型は金物屋で作ってもらった。説明するのが大変だったが、チャーリーを通訳になんとか。木で作ることのできる調理道具は手先の器用なマッケンに作ってもらった。チャーリーはもう菜箸を使える。凄い。そして、売りに出さずにわたしのにしていいと言われた苞で包丁を作った。切れ味抜群。チャーリーもすぐに使えるようになったので、もう一本作った。これはわたしの創造力で。
万能釜の使い方をチャーリーに一通り教える。そして所有権などの話もしておいた。簡単な丼勘定での赤字は避けることも伝えた。細かい経営方法はブラウンが主軸になって立てていくんじゃないかな。
「やっぱり、ランディは出て行くの?」
「……今じゃないけどね」
「会いたい人の故郷に?」
「うん、それもあるけど。訳ありでさ、ひとつのところに長くいられないんだ」
今回はわりと長く成長しないでいる気がする。
「いつ頃?」
「わからない。時が来たら、かな。噂の件が落ち着くまで、スラムが軌道に乗るまではいたいんだけど」
本当はメイの祝福を見てからにしたいぐらいなんだけど。こればっかりはなぁ。
「いたいなら、いればいいのに」
「ありがとう、チャーリー」
ほんと、こればっかりはなぁ。
「これから、もし、作り方を聞かれたり、作り方を売ってくれって言われた時は、よく考えて、みんなと相談してね」
「え?」
「料理とかお菓子とか、作り方を知りたい人が出てきたり、他でそれを売ろうと考える人が出てくるかもしれない。その時どうするかはチャーリーに全部任せる。売ることで大きな何かを得ることができるなら、売るのも決して悪くないと思う。ただ独占されるかどうかは気をつけてね。あ、あと、独占にしてもわたしがどこかで作るのだけは許可しといてね」
さらっと難題を紛れ込ませておく。
一緒に料理をしてきて、もうチャーリーに教えられることはないように思う。勘もいいし、意欲もあるし。舌も敏感みたいだ。
泡立て器が出来上がってきたので、今日はパウンドケーキを作るのだ。
小麦粉、バター、砂糖、卵、全て同じ分量で計測する。贅沢。
いろいろないからね、もう適当になるけど。
クルミ油とアグレシを合わせて混ぜる。そこにほぐしたコッコの卵2個を入れて混ぜる。小麦粉をサクッと混ぜて、クルミも適当に入れ込む。クルミ油を塗った型に流し込んで、少し高いところから落として空気を抜く。あとは鍋の上に置いて、ダッチオーブン蓋を被せて2、30分待つ。
バターじゃないし、いろいろ不安があるのでこそっと作りたかったが、焼き始めて20分ぐらいたった頃だろうか、甘い、いい匂いがしてきて、子供たちが寄ってきた。
チャーリーには卵を泡立てるといろんなことができる話をしながら焼けるのを待った。
明日のおにぎりは何の具にしようかの話もする。わたしは菜っ葉ご飯も好きだ。大根の葉を塩もみしてギュッと絞ったのを混ぜ合わせたり、葉が硬ければほんの少し茹でればいい。
ああ、暑くなってきたから、暑い時でもご飯が食べやすいおにぎりも作りたいよね。茗荷や梅干があればな。茗荷と梅干とか、梅干と大葉とか、暑い時でも不思議と食べられるおにぎりなんだよね。わたしは生姜を入れたご飯も好きだ。でも案外あれは辛いので、鰹節とお醤油がいる。醤油はあるけど、鰹節がない。残念。高菜ご飯も好きだ。高菜をみじん切りにして、鰹節と醤油と混ぜておにぎりにし、周りの高菜の葉で巻くの。あれも大好き。鰹節、醤油、チーズもテッパンだよね。混ぜご飯も、炊き込みご飯も、超絶美味しい! それで作ったおにぎりももちろんおいしい! お米愛を語っていたら、時間はすぐに過ぎた。
30分経ったぐらいで蓋を開けてみてマッケン作の竹串を刺すと、ちょっと怪しかったので、さらに10分ぐらい焼いてみた。もう一度竹串を刺すと今度はサクッとした入り方だったので、焼けたなと思った。
もう子供たちに周りを囲まれていたので、型から取り出して、ナイフで切り分ける。
「初めて作ったから味の保証はないからね」と前置きして、火傷しないように注意しながらケーキを配る。人数が多いのでほんの一口ずつになった。
「甘い!」
「サクッとしてるのにずっしりしてる」
「クルミの味がする」
「うまい!」
「おいしい」
「なにこれ?」
大興奮だ。
わたしも一口いただく。バターより軽い仕上がりにはなるが、クルミの油だからかアグレシの蜜だからなのか甘く、けどしつこくない。ミルクと一緒にいただきたい感じ。ベーキングパウダーがないから膨らまずどっしりした感じだけど、これはこれで。
うん、なかなかいいんじゃない?
問題はクルミを油にするには量がいるってことだ。いくらバスケットボール大の大きなクルミでもね。今の収穫が終われば、1年はもう取れないわけだし。森の探索にクルミもまた付け加える。
ケーキはそんなに量は作れないが、油の絞りカスとなったクルミをアグレシの蜜と混ぜ、少しの小麦粉と混ぜて薄く焼いてみた。こちらも大好評で、お風呂にきた人たちに食べてもらうと、大人にも大絶賛だった。
読んでくださり、ありがとうございます。
211202>同じ材料を→同じ分量で
材料がひとつになっちゃいますねΣ(゜д゜lll)
ご指摘と適切な言葉に、ありがとうございましたm(_ _)m
220106>レッドチリ→レッドリチパウダー
ご指摘、ありがとうございましたm(_ _)m




