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召喚に巻き込まれましたが、せっかくなので異世界を楽しみたいと思います  作者: kyo
第2章 自由時間の過ごし方

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66話 君を想う②噂の行方

 最初はもちろん、噂を誘導するつもりだった。わたしには思いつかないけれど、カルランの頭の中には勝算ある筋書きができているみたいだった。けれど、ケイとエバンスが溺れかかったあの件で出鼻を挫かれたというか、誰かから止められているような、そんな気持ちになって。それはこの件の責任者のカルランも、そしてみんなもそうみたいで、トーマスやみんなと話し合った。


「様子をみようと思う」


 と。ふたつの事実はこしらえた。神様が味方してくれれば、うまいこと噂は撒かれるだろう。

 みんなそれで納得して、噂の行方は天に任せることにした。



 それが驚いたことに、カルランの読み通りに、噂はまことしやかにトントから隣町へ、ジワリと隣の国へと広がっていったのである。


 サルベさんが自警団に届けたことが、一番大きかったと思う。まだ若い体格のいい男が塔の辺りで、茶色の髪の女性の荷物をひったくっていた、と。他に気づいたことはないかと女性のことを聞かれ、夜光虫が彼女を引き立てるかのように彼女の周りを乱舞していたこと(それが只人ではない印象を植えつけたらしい)。転んでいたので見えたのだが、内太腿にホクロがあったこと。ローブで顔を隠すようにしていたが、瞳は葉っぱ色だった。そして旅人で、訳ありで、姿を現してはいけないと言われていると言っていた、と。子供たちから塔に幽霊がいるっていう噂も出ていたことから、その幽霊の正体はその女性で、塔で身を隠していたんじゃないかと推測もされたみたいだ。女性はあの暗い中、明かりも持たずにいた。そぞろ歩いていたというが、明かりを持っていないのはおかしいから、歩いてきたというのが嘘で、塔から出たところにそんな目に遭ったのでは?と思われたらしい。わたしたちは外出の際の明かりのことなんて、思いついていなかったってのが本当のところなんだけど。


 ひったくり犯についてもこれまた不審者を見なかったかと街中で取り調べが行われた。ホセも事情を聞かれた。とにかく夢中で荷物を取り返しただけで、よく覚えていないと言ったそうだ。ひったくり犯は若い体格のいい男だった。服装は暗い色の服だった。女性は荷物を返した時、お礼をいいながら震えていたと、それしか覚えていないと言ったそうだ。ホセとサルベさん以外に不審者に出くわしたり、ひったくりにあった人はおらず、祭りのために旅人が訪れていたので、おそらく旅人が犯人ではないだろうかと位置付けられたらしい。ソレイユによってこの街のゴロツキが一掃されていたのもポイントだ。あいつらがいなくなり、街にはならずものはいなくなったと、みんながそう感じていた。自警団がきちんと機能していることに驚いた。じゃぁ、あのゴロツキはなんでのさばっていたんだと疑問を口にしたら、なんでもあのゴロツキたちはタチの悪い下級貴族と繋がりがあったらしい。だから王都へ送られるほどの処分が敢行されたことに街は騒然となったらしい。そんなことがあったのでタチの悪い貴族もおとなしくしていて、自警団は本来の姿を取り戻したのだという。


 被害者から話を聞きたいが、その女性が誰かわからない。

 旅で訪れた女性で目の色が合う人はいなかったらしい。旅をする女性が少ないこともあり、そちらはすぐに確認が取れたようだ。

 ではその届けを出せないと言った女性は誰かとなった時に、思い出されたのが聖水を作ったという聖女で、その聖女様はどこにいるのかと調べが入ったらしい。もう、それだけでもわたしたちの目的は半分以上、達成されたようなものだ。

 聖水グループは聖女様は別の場所にいるといい、この街には来ていないと言ったらしい。他の場所で作ってもらって、聖水だけこちらに持ってきたんだと。そこで、この件が立証されるまで彼らはこの街から出てはいけない処置がされたらしい。もともと自警団の中からは聖水グループ摘発の声が上がっていたらしいが、彼らは被害がでた訴えがないとどうにかする権限を持てないらしい。サルベさんの届出により初めて、多少推測を含ませながらも踏み込めたようだ。


 被害女性の不在により、調べがついたのはそこまでだったけれど、人の口に戸は立てられない。

 聞きかじった人々は、自分の推測を織り交ぜて、新たに不確かな事実を発信する。

 聖女様が、街にいたらしい。

 聖女様は、茶色の髪に葉っぱ色の瞳をしているらしい。

 聖女様は、慎ましやかな方らしい。

 聖女様は、夜しか出歩けないらしい。

 聖女様は、子供の様な声らしい。

 聖女様は、物見の塔なんかの酷い場所でも健気に聖水を人々のために作っていたらしい。

 今までの側室聖女とは似ても似つかない聖女像だったが、それがいつしか前の噂が間違っていたのではないかと流れていく。

 黒髪黒目で目つきが悪く、態度もふてぶてしい、強くしたたかでどっしりした聖女は、本当は正反対の姿を隠すための噂であったのではないか。

 聖女様は子供を人質に取られて、聖水を作らされているのだ。

 聖女様はどこかに閉じ込められている。

 他にひったくりにあった人がいなかったからか、本当にそれはひったくりだったのか?と。本当は聖女様を狙い、連れ去ろうとしていたんじゃないのか? だから聖女様はまた逃げ出したのでは?と。この世界に一番ありふれた髪と瞳の色を持つ女性が側室聖女だと、確信に近く思われていったのである。 

 そんな噂が聞こえてくるたびに、勝手だなぁと思いながら、わたしたちは過ごしていた。



 ケイとエバンスの事故から、みんなの意識が少し変わったように思う。それだけ衝撃的なことだった。実際に川に飲み込まれたケイとエバンスが心配だったけれど、彼らより他の子たちの方が夜中にうなされた。目の前で何もできないまま、仲間を失ったかもしれない思いをしたのは、ものすごく怖かったと思う。

 あれから密かにトーマスは水魔法を訓練している。水魔法は飲み水に使うぐらいしかしたことがなく、使い方もよくわからなかったみたいだ。土魔法とは相性がいいが、水魔法は難儀しているっぽい。他の魔法持ちの子もひとりの時間をみつけてはひっそり練習しているのを見かけた。魔法持ちでない子は、強くなりたいと思ったみたいだ。体を鍛えるようなことをしだした。一日中でも走っていられそうなエバンスも重たいものを持ちながら走り回るようになった。自分に力があれば、あの時ケイを助けられたと思っているようだ。みんな何かしら思うことがあったんだね。感化されたちびちゃんたちも、できることに力を入れるようになった。


 わたしは何かあった時、へこたれるタイプだ。傷が癒えるまで身を縮めてじっとして、それ以上に傷つかないことを選びがちだ。そこがこの子たちと圧倒的に違う。まだ幼いのに乗り越えようともがいて、力にしていくところを見せられると、すごいなーと思うのと同時に、いたたまれなくなる。自分はそうはなれないとわかっているからだろう。みんなは立ち止まらない。いつも次のことを考え、そして乗り越え、力に変えていく。どうあがいても……対等になんかなれやしないのかもしれない。




 頻繁に川原に向かうリックを追いかける。


「大変でしょ」


 洗濯物の山の前でかがみこんでいるリックに話しかける。


「量が多くなるとね」


 でも、リックは笑顔だ。これなら大丈夫そうかな。


「リック、樽持ってきて。なるべく大きいやつ」


「樽?」


 まだ洗濯するものが山とあるのに、そんな頼み事をするわたしに腹が立たないのか、リックは素直に「わかった」とつぶやいてアジトに戻っていく。


 スライムの魔石が手に入ったからね。

 魔具の製作の媒体はなんでも大丈夫じゃないかと思っていた。実際は魔具にするわけでなく創造力で作り上げるからだ。でも、魔石はやはり魔物の核だけあって、すごいものみたいだ。わたしが作りたい魔具は他の素材では荷が重すぎるみたいで、簡単な定義なら大丈夫だけど、複雑にすると素材が耐えらないということが起こった。それからは魔石を組み込むようにしている。


 リックの変化は、新しい何かの模索ではなく、できていることを、より深く早く着実にこなすに力を入れたのだと思う。誰ひとり、うなされる悪夢に負けず、もっと強い自分を目指して戦っている。自分自身と。羨ましくも、妬ましくもあり、とても眩しい。


 大きな樽をリックが運んできた。


「お疲れさま。リックは風持ちだよね?」


「うん、あまりレベルも魔力も高くないけどね」


 リックは汗を袖で拭く。


「洗濯好きなリックに、大量に洗濯できる秘策を授けます」


 言葉を失くすリックを無視して、樽に洗濯物を入れ込む。そこに水魔法で水を出して、洗濯物が隠れるようにする。

 わたしは魔具をリックに手渡す。


「これは風の魔具だよ。風の魔力を込めると何倍もの風を起こす。所有権をリックにした。リックが頼んだ人だけには風の魔具も言うことを聞く。でも一回一回、それを魔具に伝えないとダメ。だから人を雇うまでの規模になった時には、ちゃんと風魔法を使える人も入れるんだよ」


「ランディ、何を言っているの?」


「この仕事は成功するよ。いっぱいの人が頼んでくると思う。そしたら手作業じゃまかなえない。だから魔具の出番だ。風魔法をこめてみて」


 リックは言われるままに、石に風をこめる。すると洗濯物が回転し始めた。


「はい、反対に回転させて」


 わたしが言うと、リックは念じたみたいで、反回転を始めた。


「これで汚れが落ちる」


「え?」


 これは後で実証されるだろう。

 手動の魔力洗濯機だ。洗濯好きのリックが風持ちだったからできること。

 風で水を回転させ揉み洗いをし汚れをとる。風で水を切って、脱水する。風で洗濯物を乾かす。魔力を込めれば魔具がやってくれるから、魔力が少なくてもなんとかなるはず。

 水を捨てて、脱水の仕方もやってみせる。

 樽の水捨ては、今は水魔法でやっているけど、樽の下のほうに穴を開けて栓をするようにすれば、水魔法が使えなくてもなんとかなるだろう。脱水は風魔法だし。


「魔力使いすぎる? 辛い?」


「うーうん、まだ大丈夫」


 完全に風で乾かすまで終わらせても、魔力は十分なようだ。魔具も使いこなしているし。

 この魔具は自分しか使えないことをアピールすることを念を押す。

 いい人でも追い込まれた時、優先順番がおかしくなって、「この魔具を自分のモノにできたら」などと思わせる隙を絶対に作らないように。最初からそれは絶対にできないことだとわかっていれば、自分では使えないものなら欲しがられないはず。もしもっと手が必要になった時は、どうしたら楽に簡単に物事が進むか考えて、お金を使って魔具を作ってもらうことも考えるよう伝える。魔具は魔力があるなら、簡単な単純なものでいい。そうしたら安く済むしね。


「ランディ、これだったらいっぱいの洗濯物も、キレイにできるね」


 とにっこりと笑う。わたしも釣られて笑う。


「樽を運んできてって言った時、どうして何も聞かずにいうこと聞いてくれたの?」


「ランディは無意味なことは言わないから。試してくれたんだね。おれがひとりで樽を運んできて、魔法を使って洗濯して、乾かして、アジトに全てを持って戻る。それ全部できる体力や魔力があるか」


「最初はひとりで全部やることになるかもしれないからね。キツかったら方法考えないとだし」


 そっか、リックはわたしの意図をわかっていたのか。


「ランディ、ありがとう」


「どういたしまして」


 わたしたちは笑いあった。



 もっとやっかまれたり妨害にあったりするかと思ったけれど、予想に反して、スラムは街の人々に受け入れられていった。お風呂もよかったのかもしれない。あれは気持ちいいからね。みんな使いたいから、協力的だ。

 でも、それは口実で。もちろんスラムを良くなく思っている人はいるけれども、子供たちを気にしている人たちは大勢いたということだと思う。スラムの子供は少ないわけじゃない。全員を面倒見ることはできないけれども、どうにかできるならしてやりたいとみんな思っていたんじゃないかな? そうじゃなかったら、子供だけの運営がこんなに支えられてうまくいきっこない。

 アジトのご飯も評判はいい。玄米のおにぎりを売ってくれないかと言われて、週に何度かはおにぎりを届けている。屋台というか食堂もやってくれたらいいのにとせっつかれてもいる。

 スラムを気にしてくれていた大人の要望だからね、これは何としても叶えたい。食堂か。目玉がいるよね。目玉はカレーだ。カレーが食べたい! スジ肉カレーなんてすっごく美味しそうじゃん! 絶対美味しい!

読んでくださり、ありがとうございます。

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