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召喚に巻き込まれましたが、せっかくなので異世界を楽しみたいと思います  作者: kyo
第2章 自由時間の過ごし方

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62話 君に伝えたいこと⑧飛ばない小鳥

 手続きやらは意外に大変だった。トーマスが、だけどね。

 トーマスの成人まであと3年。3年間構成員であることを条件にギルドが後ろ盾になってくれた。ソレイユが言うには、ものすごくイレギュラーかつ破格な扱いだそうだ。ソレイユが「そんなことをして大丈夫なのですか?」と尋ねたら「法はおかしていませんよ」とサラリ返されてた。とにかくギルドが法を侵さないスレスレの方法で、できる限りのことをして助けてくれたのだ。そのおかげで、みんなが今後暮らしていく場所を不安に思わなくて済む。みんな大喜びだ。少しずつ魔法やら手作業でスラムを建て替えていくと言っている。


 スラムとなってからは、そこは誰の土地に当たるのかを聞いた。街の所有ということになっていたそうだ。わたしは尋ねる。今まで黙って住んでいた税金分全部は難しいが、幾らかでも払いたいと。ムロイスさんに笑われた。いちゃもんをつけられないようにということですな?と。はい、浅知恵でお恥ずかしい。でもね、降って湧いたお金はいちゃもんをつけたくなるよね。


 わたしはとにかく、みんなにやっかまれることを前提で説いて回った。

 やっかみじゃないとしてもお金があると知られると、いろんな煩わしいことが起こるだろう。

 攻撃の対象となるのはいつだって弱い者。メイとかベルンとかクリスのちびちゃんが人質に取られることがあるかもしれないと脅しておく。

 悪い人じゃなくても、追い込まれたら、切羽詰まったら、何をするかわからない。

 それを回避する最良の方法。それは自分たちだけが儲けるのではなく、利益を循環させることだ。みんなで幸せになろうとすることだ。


 まず、今守ってもらえるのは商人ギルドだ。だから絶対に、商人ギルドと利益を取り合うようなことはしてはいけない。

 商売の手始めに、共同浴場を公開する。

 お金は使えば減っていく。だからどんなに小さくてもいいから、収入はあるといい。そんな経緯から、共同浴場はいい手だと思う。広くする、もうひとつお風呂を作って男女で分けるなど案は出たが、ひとまず時間で男女に区切り、経営していくことにした。そしてお金はその時その時に払ってもらうのではなく、商人ギルドに一枚噛んでもらう。

 チケット制にして、そのチケットはギルドで販売してもらうようにした。アジトに現金を持ち込むのは絶対に避けたほうがいいからだ。少ないマージンでギルドを巻き込み、守って欲しい思惑はもちろんお見通しだったが、のってくれた。チケットは大工のサルベさんを巻き込む。サルベさんしか作れない手札を作ってもらった。もちろん発注してお金を払ってだ。


 年少組は今まで通り週に3日働かせてもらっている。そして火曜日は教会でお掃除と勉強。年長組はお風呂の仕事もあるので、毎日7人だけ外に働きに出ることになった。そしてまたそこはギルドにお世話になる。スラムの子のお手伝いの窓口になってもらった。仕事がある時はそれぞれからギルドにお願いしてもらって、ギルドからこの仕事に何人と話がくる。


 お風呂を始めてから、いろんな大人とも話すようになり、仲良くなり、いろんなことがいいように回るようになってきた。

 年少組の週1お手伝いの農家さんとも仲良くなった。堆肥もスラムの畑には十分すぎたので、いるかどうか尋ねてみたところ、試してみたいということになったので、届けた。土の状態がよくなったそうで、喜んでくれた。そしてわたしたちが欲しい野菜を作ってもらうことも可能だというので、お願いすることになった。



 街の近くにいたモスマンは大丈夫なのかを聞いたところ。モスマンはこの季節繁殖期に当たるらしい。モスマンの大好物がクルミとアグレシで、お嫁さんへの貢物としてクルミとアグレシを探し回り、この季節限定で、ほうぼうで姿を見かけるなんてことがあるらしい。街のこれだけ近くに大きい個体がいたのは稀なことらしいが。あの惨状跡の近くに大きなクルミの木があったそうだ。今の彼らにはクルミとアグレシとお嫁さんのことしか頭にないので、下手に攻撃しなければ問題はないらしい。

 ギルドが気にするのはモスマンよりアグレシだ。アグレシは孤高の花とも言われ、一体で咲くのが普通。あんな団体で近くにいるのはおかしなことなんだそうだ。緊急で今あの森のアグレシの生態を調べている。



 わたしはクルミが欲しいと主張して、何度かソングクとマッケンと一緒にクルミの木を訪れた。薬草も採取でき、お金になったので、そのお金で中ぐらいの大きさの釜を買った。これはひっそりと買いに行った。そしてこっそりと万能釜を作った。まず、お水が出てくる釜で。ミキサー機能、精米、フードプロセッサー機能、攪拌機能を入れ込んでの大盤振る舞いだ。

 そしてアジトの所有にする。もしくはアジトのボスの認めた者しか機能は使えず、アジトのみんなの食べるためのことや、アジトの誰かが誰かに食べさせたいと思うことにしか特別機能は使えない。釜としては誰でも使えるけどね。



 ソングクと作ったリュックがやっとみんなの分完成した。思った通り、ソングクはかなり器用で、見た目も美しく仕上げられた。わたしとソングクの立ち位置はすぐに逆転した。


「ランディ、なんで玉留めがこんなに伸びるんだ? これ留まってないじゃん」


「玉留め苦手なんだよ」


「いや、これ基本だろう」


 怒られて、何度やり直しを言い渡されたことか。そんな理由で亀より遅い歩みになったので、ほとんどソングクが作ったようなものとなった。わたしは覚えたての文字で、みんなの名前をそれぞれに刺繍することにした。これでわたしからの贈り物っぽくなる。ソレイユとラオスにはいい布のハンカチに刺繍をすることにした。名前だけ。不器用だからね!

 まぁみんなわたしが何やってたのか知ってはいるけれど、ソングクにはもしわたしが渡せなかった時にはみんなに渡してねと言ってある。


 みんなのリュックはマジックバッグにしてある。所有者は刺繍の名前通りだ。所有者以外には普通のバッグである。このアジトぐらいの広さの容量で。リストアップ、時間停止で、手元に呼び寄せることができる。あまりバレないように使うこと。贈り物だから、わたしがいなくなってから、みんなにそのことは伝えて欲しいとお願いしてある。


 ポーションと毒消しと、スライムの魔石をひとつずつ。心から願いたいことがあった時に、一度だけそれを助ける何かになる魔石だ。これも所有権あり。それからあとは個別にだ。


 クリスにはハーモニア。元の世界のハーモニカを買った。雨の日につまらなさそうにしていたので、瓶をいくつか、水の量を変えて用意した。木の実に木の棒を突き刺して、実の部分に布を被せ、糸でぐるぐるととば口を締める。これをバチにして、瓶を叩く。音を確かめて、チューリップを披露する。一番食いつきが良かったのがクリスだ。クリスは音楽とか好きなのかもしれない。瓶もバチも時々やって遊んでいる。だからクリスには新しい楽器にしてみた。

 ベルンには、紙とペン先とインクだ。言い出しっぺに恥じない、勉学ぶりで、学ぶことが大好きなようだ。

 メイにはワンピースを買った。メイは5歳だから次くる冬に祝福を受ける。その時に着られたらいいなと思って。女の子ってバレちゃうからダメかもしれないけど。そしたらアジト内だけでもね。わたしの一度も着られなかったコートもだ。


 エバンスは体を動かすのが大好きだ。誰かが止めなかったら1日中走っているんじゃないだろうか? 明るくて優しくて、そして体力お化け、いつまでも遊んでくれるお兄ちゃんは大人気。特にラスタは慕っていてエバ兄と呼び、街の子たちから遊んでと引っ張りだこだ。そんなエバンスには靴下。通気性のいいものだ。

 商人志望のブラウンには時計だ。安いやつだけど、商人には欠かせないものだと聞いたから。夢が叶うといいね。

 洗濯好きのリックにはハンドクリームを。わたしの手作りだからね。効果は抜群だよ。

 料理好きのチャーリーには、ハーブの束を。解説付き。きっとこれからも美味しいものを生み出して、みんなを幸せにしてくれることだろう。


 デザイナーなソングクには、裁縫セットだ。刺繍糸もつけちゃう。

 噂をまくシナリオを練り上げたカルランには、いつか物語とかお芝居とかを書いて欲しくて、紙とペン先とインクを。

 大工のサルベさんを慕っていて、弟子のように思われているホセには彫刻刀を。

 年長組では一番小柄なルシーラは真面目で几帳面だ。たまたま夜中トイレに起きた時に出くわしたんだけど、彼は毎夜火の元を確認したり、お風呂場の後始末やチェックをしていてくれたようなのだ。当番制にするか尋ねたんだけど、自分が気にかかるから好きでやっているからいいんだって。わたしはそういうなんの利益にもならないようなことをやることができて、それを好きでやっているだけと言える人ってすごいと思う。心意気に憧れる。小柄であることを気にしているけど、すっごく男らしくてかっこいいと思う。ただルシーラの憧れは、たくましい体、濃いヒゲ、スネとかにも毛がボウボウを目指しているっぽいので、そこは賛同できない。ルシーラにはいつまでもつるん、するんでいて欲しい。そんなルシーラには、呼びぶえを。なんだよこれって言われそうだけど。見回りはいいけど、そんな時に変な輩にあったら、ルシーラじゃ連れ去られちゃいそうなんだもん。心配だから助けを呼ぶ笛だ。


 水使いのナッシュには気をつけろという意味合いを込めて救急箱を。いつも怪我しているからね。

 泣き虫のケイには綺麗な刺繍の入ったハンカチを。ひどいんだけどさ、ケイが泣いているところってすっごく絵になるんだよね。その涙をハンカチとかで押さえていたら、密かに身悶える女子が現れるんじゃないかと思っている。

 手先が器用なマッケンには、カラクリ細工の小箱を。彼ならこれを作ったりもできちゃうかもって目論みもある。


 アルスには、錬金術師用の細身のナイフを。アルスには手作りのお守りをもらっているので、ちょっと値は張ったけれど、柄のところの細工も美しいものにした。赤毛のアルスに合う感じ。

 トーマスにも、どれだけ世話になったかわからない。何度運んでもらったことか。トーマスにはグローブにした。仕事用の手袋ってところかな。まだ子供なのにトーマスの手は豆でかたくなっている。あの手でみんなを守るために必死に頑張ってきて、これからもいっぱいのものを守っていくのだろう。ただの行きずりのわたしをも守ってくれたみたいに。その手を大事にして欲しい。グローブは二枚重ねになっていて。暑さ寒さでも変えられるし、中の薄い黒い手袋は指のところは空いているから、細かい仕事もしやすいはずだ。


 そしてリュックとハンカチにはラッキーをつけてある。わたしと出会ってくれたみんなが、これからも佳いものに出会い素敵な時を過ごしてくれますように。



 わたしは商業カード作りを辞退した。カードを作るには血をリンクされる。一瞬でもステータス情報が共有されちゃうからね。そしてその情報は初期登録ギルドでやはり3ヶ月は保存されるらしい。土地がかなり安く抑えられたが、今までの税金やら、魔具を作ったり、何かあった時のために残しておくとか、資金とか、共有カードにできるだけ残したそうだ。そして、ほんのすこしだけ崩して、みんなでお小遣いとして分配することにしたようだ。ソレイユとラオスもカードは作らず、なので、わたしたち3人は現金をもらった。一応いらないって言ったんだけど、わたしは特に最初に小麦粉やら服やらで使ったし、魔石や魔具を惜しみなく提供したということで、結構な現金をもらった。

 小麦粉が残り少なくなっていたので、ありがたい。

 多くもらえたので、みんなのプレゼントも納得のいくものを整えることができた。


 あとは仕事、お料理と洗濯の流れを作れば、きっと彼らは佳く生きていける。



 みんなへの贈り物が用意できて、わたしはホクホクだった。完成させるまで例のアレが来なくてよかった。噂をまいて決着まで居られればいいけれど。こればっかりは自分でもわからない。

 外へ出ると、スラムの子に混じり街の子たちも一緒に走り回っていた。


「一区切りついたのか?」


 子供たちの駆け回る様子を見守っていた13歳’Sが声をかけてくる。


「うん、終わった」


 夕焼け雲に、爽やかな風が吹き抜けていく。


 ちょうどわたしたちの目の前で、地面を突っついていた白い鳥が、唐突に飛び立った。


「羽を休めにきたんだね」


「休んだら、飛び立つんだな」


 ふたりが感傷的に呟いた。


 そういえば、ふたりのお守りには鳥が描かれていた。ふたりは鳥が大好きなんだろう。あの羽毛に顔を埋めたいよね、わかるよ。こっちでは鳥を飼ったりしないから愛でることがあまりできないのかも。

 トーマスはコッコが嫌な目つきと鼻息だって言ってたけど、飼ったらちょうどいいんじゃないかな。見たことはないけれど、魔鳥だって鳥だもの。卵も取れるし、良いことづくめなはずだ。

読んでくださり、ありがとうございます。


240127 ギルドが膨大な手助けをしてくれたのだ→ギルドが法を侵さないスレスレの方法で、できる限りのことをして助けてくれたのだ

ご指摘ありがとうございましたm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「手助け」ってちょっとしたお手伝い という感じがするのに「膨大」という形容が付いてることに???と思いました。 ボキャ少ないのでうまく言えませんが、とっても助けてくれた とか、尽力して…
[気になる点] 「このアジトぐらいの広さの容量で。リストアップ、時間停止で、手元に呼び寄せることができる。あまりバレないように使うこと。贈り物だから、わたしがいなくなってから、みんなにそのことは伝えて…
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