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召喚に巻き込まれましたが、せっかくなので異世界を楽しみたいと思います  作者: kyo
第2章 自由時間の過ごし方

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60話 君に伝えたいこと⑥奇跡のステータス(下)

 あ、高いもの鑑定が点滅。団体でいる。

 鼻が動く。なんか甘い香り。

 わたしが鼻をひくひくさせているのにソレイユが気づいた。


「甘い香りがするね」


 ソレイユの言葉でみんなも香りに気づく。


「あっちだ」


 静かに、そおっと移動をして、茂みから覗き込み。驚愕の目で見られる。なぜって、アグレシが団体様で咲いていたから。


「お前、何かしたのか?」


 なぜかトーマスに小声で怪しまれる。


「何かしたってなんだよ、人聞き悪いな。何もしてないよ。本当にアグレシにぶち当たるなんて」


「でも、団体だぜ、どうする?」


「近づいたら、総攻撃かけられるぞ」


 一体ずつの攻撃は避けられても、何体もいるとそれは難しい。


 え? アラームだ。けっこう嫌な音。しかも近づいてくるのが早い。ダメだ。今逃げたら余計に見つかる。


「なんか来る。みんな、動かないで、静かに」


 バットを持つ手に汗がにじみ出る。

 緊張感のあるわたしに気づいてか、皆押し黙って神経を尖らせる。


 来る!

 バットを握りしめる。


 風が、と思った時には、突風が吹いて、飛ばされそうになったわたしはみんなに地面に押しつけられた。そのまま自分たちが生き物でもないかのように動かない。いや、動けない。

 何かが降り立った。それだけはわかる。


 そいつは耳がおかしくなるような咆哮をあげ、誰かにわたしは口を押さえられた。威圧感がすごくて、震えがくるのに、どこかに逃げ出したい衝動も起こる。それができないのはみんなに押さえ込まれているからだ。

 そいつが動いたのだろう。地響きがして、ひと塊りになっているわたしたちさえ浮く。手をぎゅっと握られる。この手は多分ソレイユだ。すぐ上で抱え込んでくれているのはトーマスだろう。わたしの手から離れたバットを持ってくれているのはラオスのようだ。だめ、歯の付け根がカチカチ言っちゃう。聞こえちゃう。わたしの目を誰かが手で覆う。

 目の前が暗くなり、周りが見えない。見えないのに、なぜか少し落ち着く。そうだ。落ち着け。みんな一緒だ。

 地響きが何歩分か続いて、ヒュンヒュン何かが飛ぶような音が聞こえる。咆哮とバッタバッタと風が何かを切り裂くような音も聞こえ。そのせめぎ合いはしばらく続き、やがて、音が聞こえなくなった?と思った後に、ドシンと何かが倒れるような音が聞こえ、またわたしたちは浮遊感に襲われる。そして、静かになった?


「もう、大丈夫だぞ」


 カルラン?


 誰かの手がわたしの目から離れ、口から離れ、トーマスがゴロンと横になり、わたしを手放した。

 そして惨状を見て、言葉を失う。空から飛来した大きな魔物と団体アグレシの闘った跡と見て取れる。今まであった木々が軒並み無くなっていた。地面もえぐれている。残っている木にも魔物が引っ掻いたような跡があり、苞が散乱している。


「カルラン、見てたのか?」


 カルランは頷く。カルラン、凄い。だって跡だって背筋が凍るぐらい凄まじいもので、こんな戦いを生で見てしまったら声を上げずにはいられない。それを声も上げずに見届けたなんて。


 大きな魔物は足しか見えないが息絶えているようだ。そしてアグレシたちも、地面に横倒しになっている。


「何があったんだ?」


「共倒れ。おれ、思い出したよ。キコリがどうやってモスマンを倒したのか」


 座り込んだまま静かに話すカルランが軽い口調で言う。


「モスマンは鼻でしか息ができないのが弱点で。その鼻で息ができなければ生きることができない」


 ゴクリと喉を鳴らしたのは誰だったのか。


「モスマンだったのか?」


 トーマスが立ち上がる。


「本当に?」


 みんなが言いながら立ち上がり、屍にゆっくり近づいていく。

 わたしも見に行こうとして。足に力が入らない。立ち上がれなかった。


「モスマンだ」


「本当にモスマンだ」


「アグレシが何したんだ?」


「多分、最後の最期に小さな種みたいのを大量に飛ばしたんだ。それが鼻に入ったんだと思う」


 こんな大きくて強いのが、タネにやられちゃったんだ。


「それにしても……、ランディ、お前、何もやってないよな?」


「え? 知っての通り、みんなが抱え込んでくれたから」


「じゃなくて。なんでモスマンとアグレシの話した後に都合よく現れるんだよ」


「それ、わたしが何かしたって思うの?」


「だって、あまりにもタイミングが」


 わたしもちょっと思った。まさか望んだこと実現しちゃったりしないよね?


「試してみる」


「は?」


「雨よ降れ!」


 大きな声で言って、心から願ってみる。雨が降って欲しいです。雨を降らせてください。わたしは手を組んで真剣に祈った。もし、そんな力があるなら。……それはどうにかしないといけないだろうから。

 手をきつくきつく握って祈り続けて。でも、天からは何も降ってこない。

 自然だと流石にダメとかかな。


「アグレシ、欲しい。蜜いっぱい!」


 ぎゅっと目をつむり祈る。


「どうか、アグレシの蜜をください。できたら一体ずつで!」


 そうっと目を開ける。

 ええと、あとは。


「トラジカ、来い!」


 目を瞑る。


「あのお肉は美味しい。カツにしたら絶対美味しい。あとツノが高い。風の魔法と相性がいいから魔石も欲しい。トラジカ、来い!」


 そーっと目を開ける。変わったことはない気がする。


「誓ってステータスにそんな能力ないけど、真剣に祈った。あとは今日いっぱいぐらい結果待ちかな。今日中にその通りになったら……わたしに何かあるってことだ」


 声のトーンが低くなる。


「う、……うん」


 ちょっと怖くて、息を吐き出して落ち着こうとする。


「……それはそれとして、アジトに帰ろう。で、これどうする?」


 トーマスが動き出す。


「そりゃ持ち帰ろう。で、売ろう。大金持ちになっちゃうんじゃない?」


「バッグに入るか?」


「入る」


 ……ただ、まだ立ち上がれない。


「じゃあ、悪いけど、これ入れてくれ。アグレシは拾っとけばいいか?」


「苞もお願い」


 そうして動かないからか、ソレイユに首を傾げられる。


「ランディどうしたの? マッケンにいじめられて拗ねてるの?」


「お、おれはいじめてねー」


「拗ねてないし」


 マッケンとわたしの声が重なる。


「拗ねてないなら、早く……。ランディ?」


「ごめん、もうちょっと待って欲しい」


「どうした?」


「「「「「腰抜かしたのか?」」」」」


 声を揃えなくても。

 マッケンがプッと小さく吹き出す。


「そうだよな、お前一番怖がってたのに。悪い、責めるような言い方して。おれも怖かったから、あんな風に言っちゃったんだ」


「ううん、わたしもタイミング良すぎて怖かった。わたしにそんな力あるなら、うん。今日中にそれはわかるだろうから、そこはスッキリするはずだし」


 そういうと、屈み込んだマッケンにポンポン頭を撫でられる。


「しゃあねーな。おれが運んでやる」


 背中を向けてくれるから、わたしは体を預けた。アグレシを持ってきてもらって、バッグの中に入れていく。

 モスマンに近づいてもらうと、屍とわかっているのに、体が震える。ひとつ目の前髪のある大きなゾウみたいな見かけだ。モスマンも難なく入っていったので、みんな驚いている。


 入ったはいいが、これを出すときどうしよう。

 帰り道、どこにこれを出すか話し合った。ギルドはイマイチ信用できない。

 それじゃあ、違う街に届けるかっていうのもどうかという気がするし。


「あ、さっきの場所、説明できる?」


「なんで?」


「モスマンって街に近い森にいていい魔物? これ報告しないとだと思う」


「ランディは冒険者?」


 ソレイユに聞かれる。


「え? 違うけど?」


 しらばっくれる。


 冒険者ギルドは信用できないので、商人ギルドに報告&買ってもらうことにした。

 アルスとラオスに職員さんを呼びに行ってもらっている。大人の前でこのバッグを使う気にならなかったからだ。街に近い森中で、獲物を出して待機している。


「マッケン、静かだね」


 ソングクに言われ、マッケンは急に顔を赤くした。


「まだ気にしてる? マッケンは悪くないよ?」


 わたしがいうと、こちらを見て、さらに顔を赤くする。


「マッケン、顔赤いよ。具合悪い?」


「ランディ、気にするな。マッケンは大丈夫だから」


 なぜかカルランが太鼓判を押す。

 そう?

 マッケンがハッとしたようにカルランとソングクを見る。


「な、なんだよ。お前ら知ってたのかよ」


「わからない方がおかしいんだよ」


 ソングクとカルランとマッケンの12歳3人組で、ぶつぶつなんか話している。



 やがて、商人ギルドの方々がやってきて、モスマンとアグレシを預かってくれた。

 商人ギルドの人たちはちゃんとした人たちっぽかった。モスマンとアグレシの預かり書もきちんと発行してくれたし、モスマンがいたところへはカルランとマッケンが案内をした。わたしたちは一足先にアジトに帰り、ギルドへは明日行くことになる。


 わたしは立ち上がれるようにはなったけれど、へっぴりごしだったので、トーマスが運んでくれることになった。寝てもいいぞと言われて、寝るつもりはなかったのだが、いつの間にか眠ってしまって、起きたのは次の日だった。わたしは昨日雨は降ったかをまず尋ねた。雨は降っていなかった。アグレシにもトラジカにも会わなかった。ついでにシロガネにも。


 わたしはあの時、本気で祈った。怖かったけれど、そんな力があるかどうかは自分が知っておかないと余計におっかないと思ったからだ。だから、本当に、本気で祈った。本気で祈って、何も起こらなかった。よかった。わたしにはそんな力はなかった。



奇跡のステータス、隠蔽前。

名前:ティア(9+$$) 人族 

性別:女

レベル:3

職業:???

HP:40/40

MP:318/318

力:8

敏捷性:4

知性:80

精神:48

攻撃:8

防御:4

回避:4

幸運:98

スキル:言語マスター 

    生活魔法(火F・水F・風F・土F・光F・闇F・聖F・無SS)

    鑑定 

    創造力

    隠蔽

    探索 

称号:管理人の憐れみ

   ブルードラゴンの加護



奇跡のステータス、隠蔽後。

名前:ティア(9) 人族 

性別:女

レベル:3

職業:???

HP:40/40

MP:133/133

力:8

敏捷性:4

知性:80

精神:48

攻撃:8

防御:4

回避:4

幸運:27

スキル:生活魔法(水F・風F・土F)

称号:ナシ


 幸運、ラックは20前後が一般的で、50オーバーは稀である。

 15年後、鑑定の第一人者となるビッグ・パピィ氏は、幸運値のみ100が最高値であると導き出し、発表した。わたしがそれを知るのは、そのまたずっと後のこと。モードさんから幸運値を27ぐらいにしておけと言われた意味を知る。

読んでくださり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  何で「創造力」があるのに攻撃方法を増やさないのか。毒でも閃光弾でも簡単なのに。  作者の都合で不自然に主人公を歪めるのは辞めて欲しい。そういう作品はつまらなくなる、途中で嫌気がさす。…
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