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召喚に巻き込まれましたが、せっかくなので異世界を楽しみたいと思います  作者: kyo
第1章 居場所を求めて

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17話 保護者⑧疑惑

 女性たちがずらりと並んだ横を通り過ぎ、領主の屋敷の部屋のひとつに案内される。


 さすが領主の屋敷。豪華な調度品はもちろん、なんと鏡があった。

 廊下の壁に縦に長い姿見が立てかけられていた。

 モードさんに抱きかかえられていたのは、薄い茶色の短い髪に、薄い葉っぱ色の瞳をした、特徴らしい特徴のない、地味で、どこにでもいそうで、記憶に残らない子供だった。


 神様、お仕事、素晴らしい! まさに理想だ。わたしのみ。

 そう、そんな地味で目立たないわたしが、髪と瞳の色だけが似ているワイルド系イケメンと一緒にいることによって、却って目を引くのだ。

 モードさん、親戚設定、わたしの容姿だとハードル高すぎだったよ。先に自分の容姿を見ていなかったのが敗因だ。

 でも、そのおかげでここでだけでもモードさんと親戚になれて良かったかな。


 モードさんにソファーに座らせてもらう。隣にピタリとくっついて、沈む。

 やばい、身が沈んでひとりでは身動きがとれないソファーだ。


 ノック音がして、王子が入ってくる。お盆には湯気がたっているカップが。王子自らの給仕なんて、不敬とか言って後から罰せられたりしないよね?


 わたしたちの前にカップを置く。真っ白の、湯気のたった飲み物。

 わたしは鑑定をかけた。

 ホットミルクのようなもの、みたいだ。


「どうぞ」


 こっちでも飲めるとは。是非、飲みたい。


 横のモードさんを見ると、テーブルからわたしのカップを取ってくれた。

 ふーふー冷ましながら、カップの縁をわたしに向けてくれる。

 熱いかなと思いながらも、ゆっくりホットミルクもどきを味わう。

 じんわりあったかくて、ほのかに甘い。


「お口に合いましたか?」


 わたしは王子の方を見ないで頷く。モードさんにアイコンタクト。また飲みたくなったらお願いしますという思いは伝わったみたいだ。


「飲んだことありますか?」


 一拍おいて、首を横に振る。


「そうですか。ニホンのホットミルクというのを真似たものです」


 あっぶなっ。これ、怪しまれてるな。なんでそんなに勘がいいんだ? 前世が勇者だから? あ、どっかに看破スキル持ちがいるのか? それで怪しい枠で調べられてるとか?

 でもさ、魔法で姿変えて身を隠すでも、普通は幼児、しかも男の子とは結び付けないだろう?


「花の蜜を入れてあるんです。甘いでしょう?」


 うん、とわたしは頷く。


「シラノラから来たんですよね?」


 調べられている。


「この山羊の乳は、シラノラの特産品ですが、そうですか、飲んだことありませんか」


 背筋が冷える。引っかからなかったと思ったのは早計だった。


「何怪しんでんだか知らないが、シラノラは俺の出身地だ。姉夫婦がいたのはゴートだから、こんなの飲んだことないだろう。それに確かに山羊は見かけたが、俺は山羊の乳なんてこんな風に飲んだことないぞ」


 モードさん素晴らしい。拍手したいぐらい。


「そうでしたか。怪しんで聞こえたならすいません。おいしく飲んでもらえたら、それでいいんです。協力していただいているお礼ですから」


 王子が手にしていた紙をテーブルに置く。それはモードさんが門の審査で書かされていたカードだった。思わず見ていると


「もしかして、もう字が読めるのかい?」


 うっ。そっか、見かけは3歳児だった。3歳って読めないっけ? でも読める子がいてもおかしくないよね。


「さっきは地図を見ていたね」


 3歳児が地図を見ていたら、おかしいかね?


「ちじゅ、にーちゃの」


「あれが地図なのはわかるんだね」


 ううっ。


「さっき、見てた、言った。きししゃんは、まだ、ちじゅが見られないんでしゅか?」


 言ってやった。強気発言だ。あんた大きいくせに地図も見られないんかと言ってやった。


「……同じだ。その怖がりながら言い返さずにいられないところ」


 同じ? 

 怖がりながら? なんでお前にそんなことがわかる? 王子の視線を辿るとわたしの手に向かっていて、そのわたしの手は、しっかりとモードさんのズボンを掴んでいた。

 認めよう。確かに言い返さずにはいられなかったが、王子は怖い。

 こうなったら、ひたすら幼児のふり。っていうか、ミルクを飲んだのが失敗だった。トイレに行きたい。わたしは恥も外聞も投げ捨てる。

 そのまま隣のモードさんのズボンを引っ張る。


「手洗いか?」


 うん、と頷く。モードさん、勘が良くて素敵!


「すいません、手洗いを貸してください」


 モードさんが抱き上げてくれる。


「ご案内します」


 うわー、王子に案内させてるよ。


 一人でできるか? と問われ、もちろんできると答える。


 さっきすれ違った執事さんみたいな人が来てくれて、なんか用意してくれてると思ったら、踏み台と子供用の便座みたいのをセットしてくれたみたいだ。さすが領主さんのお屋敷、行き届いている。


 用を済ませて出ると、モードさんが待っていてくれた。王子はいない。

 手を洗わせてもらって、部屋へと戻る。


「お前、あの騎士、知ってるんだろ?」


「知あない」


 わたしは願いを込めて嘘をつく。知らなかったらどんなに良かったか。


「……そうか。花になっても知らないぞ」


 モードさんに鼻をつままれる。怪しまれちゃったじゃないか。どうしてくれよう。

 どこか固い空気のまま部屋に戻る。


 王子がその空気に気づいて、おや? という顔をする。余計にイラっとくる。


「あなたが育てるんですか?」


「なぜ、そんなことに興味を持つんだ? 騎士ってのは暇なのか?」


 激しく同感。


「聞くところによると、一人ぼっちになったこの子を、親族のあなたが引き取られたわけですよね?」


 個人情報ダダ漏れじゃん。まぁ、便宜上の作り話だけど。この設定はあのツーリーというお菓子を教えてくれた門番さんにしかしていない。


「失礼ですけど、ご結婚されてます? 定職に就かれてます? もし育てるのが大変だというのでしたら。どうでしょう? 私が後見人になりましょう。ゆくゆくは私の侍従にどうかと思いまして。身元も開示しますし。この子を見ていると、ある人のことを思い出すんです。大切に育てます」


「あんた……小さな男児に妙な思い入れでもあるんじゃないだろうな?」


 モードさん、グッジョブ! 王子の目がまん丸になってる。


「貴様、カイ様を侮辱する気か?」


 いきり立ったのは王子の後ろに控えていた騎士さんだ。そんな彼を王子は手で制して軽く諌める。


「そんな心配をされるとは。誓って違うよ。ただ、本当に、そばに居てくれたらと思ってね」


 そう言って、わたしに話しかけてくる。


「おいしい食事とおやつを用意するよ。大きくなったら少しずつ侍従の仕事を覚えてもらうけれど、ちゃんと給金も出す。何かやりたいことが見つかったら後ろ盾にもなろう。私は身分も高いし、安心してほしい」


「騎士だし本当に身分が高くて、悪い話ではなさそうだ。お前が決めろ。この騎士と行くか、俺と行くか」


 わたしはもちろんモードさんの首ねっこにしっかり捕まった。


「置いて行かにゃいで」


 ぽろっと出た言葉。ああ、そうか、わたし今、自分で決めろって言われて、モードさんに置いて行かれるような気がしたんだ。


「ということだから、俺が育てる。結婚はしていないが、こいつを食わせるくらいの蓄えはある」


 モードさんの親指でぐいっと目元を拭われる。マジか。泣いたか、わたし。


 こっちに来て、いっぱい怖い思いをした。食事になんか入ってた時の絶望感。王子とのあれやこれや。たった一度言葉を発したことで知らないところで殺されそうになっていたり。知らないところで、自分の境遇が決まっていたり。未来まで縛られそうになったり。それこそ黄虎が口を開けた時とか、剣先を向けられた時は気絶までした。いろんな怖さを味わったけれど、それらともまた違う、心がぎゅーっとなる怖さ。モードさんに頼りきっているのを自覚した。


「ああ、振られちゃったな。残念だ。けれど、叔父さんに愛されていて良かったね」


 王子に頭を撫でられた。もしかして、これを狙ってた? 固い空気だったのを感じて?


「あ、でも、君だったらいつでも大歓迎。叔父さんが嫌になったらアルバーレンの私のところへおいで。高給で雇うよ。忘れないで」


 やっぱり、そんなわけないか。

お読みくださり、ありがとうございます^^


211218>返って→却って

誤字報告、ありがとうございましたm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
これもう前世でなんかあったか?ぐらいの熱の入れよう。
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