two years later
読んでいただき、応援していただきましたおかげで、またより多くの方に読んでいただくことができました。
本当にありがとうございました!
世界樹を植えてから2年が過ぎ……の後日譚です。
お楽しみいただけたら嬉しいです。
ドアが開き、冷たい空気と一緒に入ってきたのは書類を持ったパズーさんとペクさんだった。
ふたりはわたしを見て、すいませんと言いたげな苦笑いを浮かべる。
モードさんがギルドの仕事に赴いてから2ヶ月が経とうとしている。もうそろそろ帰ってきてもいいんじゃないかと思えて、ドアが開くたびに期待しているようで、1週間ぐらい前から、入ってくる人たちにそんな表情をさせている。
朝の挨拶を交わし終えると、パズーさんは書類をわたしに差し出した。
「オーナー、昨日の報告書の問題点ですが、メモ書きされていた対処で問題ないと思います。私が行きましょうか?」
受け取りながら答える。
「いえ、わたしが行きます。多分、納得されないと思うんで」
パズーさんが心配げにわたしを見る。
「体調が悪いんじゃないですか? 顔色が……」
「病気ではないんで、大丈夫です。アキさんと話してから、午後にでも出かけてきます。護衛の方にも一緒に行ってもらうので、こちらのことよろしくお願いします」
牧場を立ち上げた時から一緒にいたふたりは、わたしたちの経営理念もよくわかっていてくれて、簡単に話すだけで理解してくれるのでありがたい。
頭も痛いし、お腹も痛い。月に一度やってくるあれがなかなか重たくて、ダメージを受けていた。そのくせ、ステータス上の年齢は17歳でストップしている。世界樹を植えてから2年、こちらに来てから4年が経とうとしているのにだ。魔素が安定したら26歳になり、そこからは月日で年齢を重ねると勝手に思っていた。月日で年齢が加算されないのは26歳になっていないからなのかはわからない。もう2年も17歳のままだ。いきなり反動があるのも怖い反面、このままいつまでも歳を取らずに、取り残されたらどうしようという思いもある。多分、不安があるのだろう。モードさんが不在というのが一番大きい。牧場も軌道にのっているといっても、経営していく上で何かといろいろ起こる。
最初の細々と始めた頃が一番印象に残っているかも。軽食とアイスとプリンを売り、牧場の一角を囲い、触れ合いの場とした。魔物は怖いけれども、もふっとしたのを触りたい人は結構いて、軽食やらデザートも評判を呼び、闇の日には列をなすほどの人が訪れてくれた。
平日もなんやかんや人が来てくれて、あっという間に黒字経営になった。四神獣が訪れた国として、ハーバンデルクに観光客が多くなっていたことも要因にある。
わたしが鞭で打たれてクーやミミの親戚に治癒してもらったと思っていたアレ。実は、四神獣である朱雀に解毒と皮膚など再生してもらい、玄武に治癒を早めてもらったというのだ。ハーバンデルクの北に四神獣が集ったと噂で聞いていたのだが、まさかそれがこの牧場で、クーやミミに呼ばれてわたしを治すのに来てくれていたとは! わたしはその光景を見ていないが、牧場に本来の姿の四神獣が勢揃いしたようだ。空の高いところで四神獣が集まったものだから、地上はえらい騒ぎとなったらしい。わたしは帝国の危険区域で四神獣が空にいるところは見た。確かにあれは圧倒され、見惚れる光景であった。来てくれた青龍はクーやミミの従兄弟らしい。白虎は黄虎だ。青龍と白虎は攻撃に特化していて、癒す力などないので、白虎である黄虎はわたしに申し訳なく思ったらしい。
人もある程度雇い入れて、火の日と水の日は牧場自体はお休みにした。魔物たちや畑の世話などは休めるものではないので当番制にはなったが、達成感もありながら和気藹々とやっていた。
一気に飛躍したのは1年前頃からか。エーデル領はオーデリア大陸の北の端にある。遠くの国などにも評判だけは伝わったみたいで、国への問い合わせが殺到した。アルバーレンの王子がよく遊びに来ているのは知られていたので、そこでひと事業立ち上がった。月に一度ツアーが組み込まれた。アルバーレンの王都集合で、そこからハーバンデルクの王都まで転移で来て入国。王都からエーデルまでは魔力の鳥で飛び、牧場へと。互いの王都にも観光客が見込めるということで、とんとん拍子に話が決まり、このツアー客だけでかなりな集客を見込めることとなった。ツアー時だけの増員もして、もうそれも軌道にのった感じだ。
ハーバンデルク側も牧場の安全面を意識してくれて、ツアー客には審査が入っている。牧場自体にも警備がつき、特にモードさんの不在時にはわたしにも護衛が付く。冒険者ギルドから派遣された人たちで腕も確かだ。家の外に出る時は、常についてもらうことになる。果てしなく申し訳ない。
ノック音が聞こえて「どうぞ」と声をかける。
入ってきたのはアキさんだ。オレンジ色の髪をした、わたしより少し上の姉御肌の女性だ。
「私に話があると聞いたんですけど」
「そうなんです。座っていただけます?」
わたしはテーブルの向こうの椅子に彼女を促した。
「昨日の報告書を見ました。ええと、野菜の買い付けのお店が変わっているようですが……、これはどうしてですか?」
アキさんは料理部門のトップだ。トータルで仕事をみてほしいことから、材料の発注なども、もう任せている。
「え? 野菜が高いってオーナーがおっしゃってたって聞いたんですけど。安いところを知っていて、オーナーも安いって言ったとゼフィーちゃんから聞いたのでそちらに変更を」
やはり、ゼフィーさんか。頭の痛さは変わらないのに、おでこに手がいってしまう。
「わたしの言葉が足りなかったのですが、冷夏で野菜が高くなったという意味で言ったんです」
「はぁ」
「この牧場の経営理念として、地域活性化への貢献があります。夏野菜は高騰して痛手を受けているはずなので、いっぱい買わないとという意味で言ったんです」
「ええっ?」
「ゼフィーさんからお店の打診があって、確かに安かったので安いとは言いましたが、同じように説明して、卸す店を変える必要はないと言ったんですが……」
「そ、そうだったんですね、すいません。オーナーから、あ、ちゃんと聞いたわけでないですね、すいません確認を怠りました。話の流れでオーナーもそう望んでいると思っちゃって」
「どうして店を変えたのかを知りたかったんです。わかりました、ありがとう。今後はその経営理念を念頭においてもらえると嬉しいです」
「はい。それにしても、もう新しいお店から野菜を買う契約をしてしまいました。どうしましょう」
アキさんは聞く耳を持っているようだ、よかった。
「私がこれから話しに行ってきます。先方が許してくれたらとなりますが、3ヶ月は契約通り野菜を卸してもらおうと思います。ただ、牧場で使う野菜は、新しいお店と、前からのお店のもの半分ずつ使用して、残りの半分はわたしが家で使うようにします。3ヶ月して、お野菜などいいものでしたら、そのまま量を少し変更してお付き合いを続けていこうと思います。立ち上げから一緒に頑張ってくださってるお店からは、許していただければ今後も変わりなく卸していただく予定です。その方向で思っていてください」
と告げると勢いよく頭を下げた。
「本当にすいません。確認なんて当たり前のことなのに。任せて頂いているのにこんなことになって申し訳ありません」
「いえ、わたしもアキさんに直接お話するべきでした。今後はこんなことがないよう、しっかり話し合っていきましょう」
アキさんとはこじれることもなく、いい感じで話はついた。
あとは八百屋のオーナーたちが、どう出るかだ。あ、ゼフィーさんとも話さないとだ。頭痛いなー。
ゼフィーさんは貴族の17歳のお嬢様だ。子爵令嬢でなぜ貴族が売り子をしたいんだと思ったが、最終的に雇うことになった。貴族であってもそれを鼻にかけることもなく、少々変わってはいるけれど、悪い人でないことはわかっている。
ケイリーさんのことがあってから、雇い入れる人には、モードさんからも、ローディング家からも調査が入っている。彼女に怪しいところはない。
他の従業員さんともうまくやってくれている。……ただ、わたしとうまが合わないだけなのだ。
わたしが家から出ていくと、気付いたぴーちゃんやモーちゃんがやってくる。
『ティア、青い顔してる』
ぴーちゃんの顎をこちょこちょして、心配してくれてありがとうとお礼を言う。
盛んに鳴くモーちゃんの首にハグだ。
メイメイの団体さんもやってきた。冬を乗り切るためか、ほわんほわんに膨れ上がっている。あたたかくて気持ちいいんだ。頭を撫でたり、ハグしながらイートインコーナーに向かって歩いていく。
途中、小さな男の子が触りたそうにしているので、メイメイにいいか尋ね、良さそうな雰囲気なので男の子に尋ねる。
「撫でてみる?」
男の子の母親らしき人がすごい表情をしているので断りを入れる。
「わたしはテイマーですので、大丈夫ですよ?」
男の子が寄ってきたので
「優しくね」
と声をかけると、わたしが捕まえているメイメイにおっかなびっくり手を差し出す。
プルプルと震えながらも、優しい毛並みに手が届くと、テンションが上がったみたいで、優しく撫でる。何度も撫でる。感触を楽しみ、温かな生き物に手が届いて感動している。
「めーーーーーー」
撫でられてたメイメイが鳴くと、手はびくっとしたけれど撫でるのはやめない。
「喜んでくれてるの?」
「嬉しいみたい」
男の子は顔中で笑った。
「この子の名前は?」
「メリーさん」
「メリーさん、お姉ちゃん、撫でさせてくれてありがとう」
「どういたしまして」
お母さんもニコニコ顔になり後ろでペコリとお辞儀をし、触れ合い広場の方へ歩いていく。
こういう笑顔を見られると、よかったーと思う。
メリーさんにもありがとうともう一度撫でて、今度こそイートインコーナーへ。
開場してまだ時間がそんなに経っていないからか、そう混んでもいない。
アキさんにゼフィーさんを借りる旨を伝えて、彼女を呼び出し、従業員の休憩室のテーブルについてもらう。
淡い銀髪を後ろでひとつに結び、青い瞳で緊張したようにわたしを見る。
ここは調理場や売り子スペースに続くドアがあり、そのドアは全開に開けている。
全然音が聞こえないから、みんなが耳を澄ませていることは想像ができる。
わたしは経営者側と従業員は、目標は同じ物を持つことができても立場は違うと思っている。だからいい関係ではいたいと思うけれど、馴れ合うのはオーナー側がそう思っていても、働く方からしてみればうざいことだと思うので、期待はしていない。
けれど、彼女はどうにもダメだ。オーナー側がこう思っているのは非常によろしくないのはわかっている。だから極力接触を避けたいが、こういうことになるんだよな。
お読みくださり、ありがとうございました。
恐らく、1日置きに更新していく予定です。
少しの間、お付き合いいただけましたら、ありがたいです。
ブックマーク、評価、感想、レビュー、誤字報告、本当にありがとうございました!!
220215>圧巻→圧倒
適切に、ありがとうございましたm(_ _)m




