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召喚に巻き込まれましたが、せっかくなので異世界を楽しみたいと思います  作者: kyo
第4章 せっかくあなたに会えたので

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141話 あなただけの問題じゃない

 唐突に狭間にいた。わたしは今の姿で白いワンピースを着ていた。


「ティアさん?」


 雛ちゃんだ。


「何これ、ここ、どこですか?」


 今の姿でやっぱり白いワンピースを着ている雛ちゃんが、わたしの手を掴む。


「狭間だよ」


「狭間?」


 雛ちゃんも前に来てるんじゃないかと思ったんだけどな。

 ふと前に視線を戻すと神様がいらした。

 わたしは頭を下げる。

 雛ちゃんはわたしと神様を交互に見ている。

 神様が雛ちゃんのおでこに向かい人差し指をさした。


「神様っ」


 その表情で、今まで忘れていたんだなと察する。そっか、雛ちゃんはこの狭間でのことを覚えていなかったんだ。


「手紙には驚いた、神獣を使ってコンタクトを取ってくるとは。やはり君はユニークだ」


「こんなことは二度としません。ですが、教えてもらえませんか? みんなで幸せになるために知りたいです」


「お前が知りたいのは、瘴気が浄化されなくても、世界は成り立っていられるのか、だったな」


 はい、とわたしは頷く。


「どうしてそんなことを思った?」


「神様はわたしに言いました。召喚なんてそんなバカなことをする奴が現れるとは、と」


 神様は軽く目を瞑る。


「瘴気を浄化できる聖女を召喚することを、そんなバカなことっておっしゃいました。神様がこの世界を壊す気がないのなら、瘴気が浄化されなくても世界が滅びるほどの影響がないことなんだと思いました」


 雛ちゃんがわたしを見る。


「瘴気のことは世界の理となる。世界の理に関することは、ここで以外忘れてしまうが、それでも聞きたいか?」


「ということは、説明を聞いても、それをみんなに話すことはできないってことですか?」


 神様は頷く。そうか、それだと厳しいけれど、聞かずにいたら何もわからないし。


「お願いします」


 わたしは頭を下げた。


「俺は現この世界を管理しているD13578だ。お前たちがテルノアドと呼ぶ者とは違う。この世界はテルノアドと呼ばれた者が創ったが、彼は病で世界を管理できる状態ではないと判断され、俺が今引き継いでいる」


 神様ってそういうシステムなんだ。


「管理者は直に世界に手を加えることは禁止されている。だから生まれてしまった瘴気を俺はどうすることもできない」


「瘴気ってなんなんですか? 魔物を活性化させるものって聞いた気がしますが、高位の魔物さんに聞きました。過ぎた瘴気は苦しいって、辛いって」


 そういうと、神様がわずかに眉を動かす。


「瘴気とは管理放棄により入り込んだ微かな魔だ。前任の管理者の感情の動きにより、魔の力は増大する」


 へ?


「管理放棄?」


 雛ちゃんがとても小さな声で呟く。


「前管理人は世界創造に並々ならぬ希望を持っていて、理想を追求し過ぎて精神が壊れてしまった。生態系を崩しがちな人間に、どうしていいかわからなくなったようだ。この世界は管理放棄されていた。受け答えははっきりしていたから、誰もが病んでいると気づかなかった。他の世界の管理人が、異世界召喚のことを問題にして、それで初めて発覚した。人間がいなくなれば均整が取れると思ったんだろう、その思いに魔が働き瘴気が生まれた。瘴気はこの世界が生み出したものではないから、この世界のものが無くすことはできない。瘴気は人がいなくなればという闇から生まれたものだから、人には害をなす。害をなすのに魔物の活性化は相性がよかったのだろう。だが魔物もこの世界で生まれたものだから、他から来た瘴気には馴染むことはできない。だから少しなら活性化するが、多くなれば苦しくなる」


「瘴気は増え続けるんですか?」


「いや、前管理人が退いてからずいぶん経つ。瘴気は負のものを好む。負が膨れ上がらなければ増えないし、瘴気で多少活性化された魔物を今のように狩っていれば溢れることもないだろう」


 そうか。もし増えたように感じても魔物を狩ったりなんだりしていれば、瘴気が溢れかえるようなことはないんだ。


「子供が生まれるのが少なくなっているのは、瘴気のせいなんですか?」


「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。世界が成長しているのが、破滅に向かっていると言えるのと同じことだ」


 きっと生まれた瞬間から死へのカウントダウンが始まっているというようなことなんだろうとは思うが、大き過ぎて、わからない。直接瘴気とリンクしている問題ではないのだろう。

 こっちは置いておいて、理由を聞いて溢れかえらないことはわかったけれど、これを覚えていないってことが問題だ。どう説得できるだろう。


「そうだな。では、永遠の聖女の代わりを用意すればいいだろう」


「代わり?」


「これを託そう」


 手渡されたのは種だった。


「これは?」


「種だ。これは思いを肥やしにして育つ木となる。世界の誰かたったひとりでも、生きたい希望を捨てなければ、決して枯れることはない。これが瘴気を吸っているとでもすればよかろう」


 なるほど。


「前管理人さんは、よくなりそうですか?」


「……それはわからないが、人々がテアノルド神に祈ると、それは届くようだ。穏やかな表情になる」


 そっか。


「神様には、番号ではないお名前はないんですか?」


「……他の世界では、ラテアスと呼ばれているようだ」


「ラテアス様、感謝します。ありがとうございます」


 隣で雛ちゃんも頭を下げた。


「異世界から受け入れたが、お前たちも、俺の世界の者だ。お前たちが幸せであるよう、俺も願う」


 ラテアス様、ラテアス様、ラテアス様、ラテアス様、ラテアス様、ラテアス様、繰り返す。これだけは忘れたくないな。


「ティアさん!」


 雛ちゃんがわたしに手を出した。


「わたしが役立てる、守ってもらっている恩返しができるチャンスをくれませんか?」


 そう首を傾げる。


「……いいの?」


 全てを含めて雛ちゃんに聞いた。本当のところ、このことは雛ちゃんは聞かせるべきでなかったのかもしれない。だって、瘴気が世界を滅ぼすのは誤解だし、管理放棄により魔が入り込んでいたなんて理由も理由だし。そのトバッチリを受けて喚ばれたことを嬉しいと思える人は少ないだろう。


「思い出しました」


「え?」


「前にここに来た時のこと。神様から何故喚び出されたのか聞きました。忘れていたけれど。だからおまけでできるだけのスキルもらってたんでした」


 雛ちゃんは最初に自分が浄化しないと世界はどうなるのか聞いたらしい。その時に浄化されれば人は生きやすくなるかもしれないが、浄化されなくても今ある瘴気ぐらいでは人にも世界にも影響を与えるものではないと知らされたそうだ。それくらいの存在意義で喚び出されたなんてと雛ちゃんは激昂した。

 願いを叶える3つのことも、そちらの管理不行届ですよね?と脅し、いえ、交渉して、異世界で生きていくのに絶対困らないようにありとあらゆる願いことを聞いてもらったそうだ。ただ、その願いごとには条件があり、かの地で味方をひとりつくらないとスキルは発動されない。狭間でのことは忘れてしまうから、雛ちゃんは味方を作ることだけは絶対に忘れないように心に刻んだらしい。本当に忘れてしまっていたが、味方だけはなんとか作らないとという思いが強迫概念に近くあり、ずっと一緒にいてくれる人を、きっと同胞なら味方になってくれると、わたしに固執していたらしい。


 なんでわたしは狭間のことを忘れないでいられたんだろうと思うと、神様が答えてくれた。忘れてしまったら、『解除』ができなくなってしまうから忘却の術がかけられなかったのだと。単なる思いつきの解除で、わたしは大きな恩恵を受けられていたわけだ。


 わたしが逃げ出してしまって、いろいろ申し訳ないと思ってくれたみたいだけど、そうやって壁にぶち当たったり、過ごしていくうちに、大切にしたいと思う人ができてきて、相手からもそう思ってもらえるようになったと微笑む。だから、自分は大丈夫だと胸を張る。


「……聖女が神からの使いになる、お誂え向きだと思いませんか?」


 わたしの手から種を受け取り、そう雛ちゃんは微笑んだ。



 目の前に王子がいた。戻ってきた。

 神様に会ったことは覚えている。瘴気が世界の理に関することなので、瘴気が何かということはぼんやり靄がかかっているかのようだ。でも瘴気が浄化されなくても、今までのように活性化された魔物を狩るなりなんなりしていれば、瘴気は問題がないことは覚えている。ただそう言われても不安だから、神様が種をくださった。希望がある限り枯れない木となる。


「聖女様、いつここに?」


 横を見ると雛ちゃんがいた。雛ちゃんが頷く。狭間のことを覚えているね、大丈夫だ。


「王子、雛ちゃんに話して」


 狭間から戻された時に、戻った位置が違ったんだろう。突然現れた雛ちゃんに驚いたからか、王子は表情を繕えなかったようだ。


「私に話すことが?」


 雛ちゃんが首を傾げる。

 王子は軽く息を吐いた。心を落ち着かすためか軽く目を閉じる。

 目を開けた時には、心は決まったようだった。


「聖女様、私には願いがあります」


 王子はそう切り出した。

 願いを叶えるために聖女召喚をして雛ちゃんを喚び出したこと。

 魔王の棺に触れてほしいと言ったのは、実はそうすると魔王と呼ばれていた最後の聖女の封印が解けること。聖女だけが聖女の封印を解けること。

 なんて意地の悪い封印だろう。魔王という魔の頂点の者を封印するのに、ただの封印では心許なく、ロックをかけることにした。ロックとは術に正反対の鍵を一緒に封じ込める。この場合、封印の術の場合の封印を解く鍵は、絶対にあり得ない二度と喚べない聖女が触れること。


 聖女ちゃんは王子が知ってしまった大昔の危険区域の真実に静かに涙をこぼした。

 ただ、魔王の封印を解くことは、雛ちゃん以外の浄化の道がなくなるということで。あなたを絶対に守るが、魔王を封印する考えがでたように、聖女が死んでしまったら大変だから封印するべきだと考えるものが出てくるだろうことを、苦しそうに伝えた。


 雛ちゃんはわたしを見て、ああ、だから神様からの呼び出しがあって、瘴気のことを聞けたのかと納得したみたいだ。


「カイル王子、私も魔王という名の聖女様を解放して差し上げたいです」


 と微笑った。そしてみんなにもそれを伝えましょうと誘った。ものすごく軽やかに。なんでもないことのように。当然のことのように。王子の願いを実行したら雛ちゃんだけが被害に遭うかもしれないのに、その雛ちゃんが王子の願いを支持する。当たり前のことのように。


 王子が救われたなと思う。聖女って伊達じゃできないねと思った。この世界では瘴気を浄化できる者を聖女と呼ぶけれど、それだけじゃなく、聖なる乙女だと思った。雛ちゃんは凄い。

 わたしはふとふたりの元を離れた。雛ちゃんの介入できっとみんなうまくいくとそう思った。

お読みくださり、ありがとうございます。


220825>開放→解放

誤字報告、ありがとうございましたm(_ _)m

(220825修正はすべて開放→解放です)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全部ティアのおかげだよ!!
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