126話 謁見
というわけで、5時起きです。でも、そのためにメイドさんなんかもっと早起きなのだから申し訳ない限りだ。
朝風呂に入る。花びらが浮かぶいい香りのするお風呂に寝ぼけ眼のまま突っ込まれた。またもや磨かれて、そして香油などをたっぷり塗られ、てかてかのほわほわになる。肌触りの素晴らしくいいバスローブを着て、朝ごはん。次は帰ってくるまで食べられないらしい。コルセットはつけないものの、あまり召し上がらないことをお勧めしますと言われた。
助言に従って、クッキーみたいのを1枚と、糖分補給のジュースをいただく。はい、もう食べません。ここまでで2時間半経っていた。
下着の上に、さらに締め上げるための薄いスリップみたいのを装着する。ドレスを着てまたそこでも紐で絞る。あまり食べない方がいいと言われた意味がわかる。コルセットしなくても十分苦しいじゃん。わたしは別段細く見えなくて全然構わないのだが、ドレスが一番綺麗なシルエットに見せる体形に近づけようとするのだろう。
薄い黄色地に色とりどりのお花を模したレースがついていて、前が短く後ろが長いカットなのだが、サイドはゆったりとしたひだで長さを出す作りで、どこか春を呼ぶ花を思わせる素敵なものだ。いろんな色を使っているのに喧嘩していなくて、上品に見える。可愛いドレスでテンションを上げたいところだが、締め上げられているためだだ下がりしていく。
髪をハーフアップにして華やかに編み込んでくださって、レースのリボンと生花が飾られる。お化粧もしてもらって、鏡の中のわたしは、はい、かなり誰それ状態になっている。元が地味だから盛れるってことだね、盛ろうと思えば。
達成感あるメイドさんたちに、感謝だ。お礼をいうと、お美しいです、と満足気だ。
ミミが盛んに褒めてくれた。レースのリボンの切れ端でクルクルっと丸め折り込んでお花を作り、耳の横の毛にピンで留めると、お揃いだとすっごく喜んでくれた。とっても可愛いしね。
用意ができて下に降りていくと、もうみんな揃っていた。
一緒に行ってくださるお父様とスタンお兄さんも正装していて、一分の隙なくかっこいい。
ダイアナさんにもめちゃくちゃ褒められ、男性陣にも褒めちぎられる。
ビルドー君には「化けたな」と言われ、彼は速攻でダイアナさんに怒られていた。お屋敷の方々にクーとミミをお願いして出発だ。
お父様のエスコートで、スタンお兄さんと護衛のルークさんを引き連れて、馬車に乗り込む。
城って、見えているけど馬車で行くのか。貴族すげーな。でもそれもそうだね、わたしこのドレスで、このハイヒールで10分も歩ける自信はない。元の世界だってヒールは苦手でほとんど履かなかった。
馬車の中で作戦会議だ。お父様やスタンお兄さんも王様から聞かれるだろうことなど考えていてくださって、素性を聞かれると思うがと前置きされたので、王子から授けられた秘策を話すと、驚くと同時に納得したような顔をした。あとはほぼ本当のことだから大丈夫なはずだ。
近いから馬車はすぐに王宮へと辿り着く。エスコートしてもらって、お城に入り、長く歩いて謁見控え室みたいなところに案内される。謁見はかなりな数をこなすらしく、貴族がウヨウヨいて、ひたすら見られた。控えの間の人口もだんだん減っていって、とうとうわたしたちだけになる。午前の最後だったらしい。呼ばれて、中に入る。護衛のルークさんはここで待つという。
緊張はしているが、それよりドレスの苦しさの方に気持ちを持っていかれがちだった。みんなの協力あってのことだからピンと背筋を張る。
騎士さんが扉を開け、お父様のエスコートに従いしずしずと歩き出す。
視線は歩く少し前で、許しがあるまで顔は上げちゃいけない。
ダイアナさんに教わったことを思い出しながら一歩を進める。お父様が立ち止まるから、わたしも中腰になって、沙汰を待つ。
前を見られないんだけど、なんか思ったよりも人のいそうな気配がする。
わたしの予想では、王様がひとり椅子に座っていて、護衛の騎士さんがいて、ぐらいに思ったんだけど、気配的にはわらわら人がいそうな。
「前竜侯爵よ、久方ぶりだな。息災だったか?」
お父様は片手を胸に当てて礼をとる。
「国王陛下にご挨拶申し上げます。末子のことをいつも気にかけてくださり恐悦至極に存じ奉ります」
「そんなに怒らなくても良かろう。ここには親しい者しかおらん。言葉を崩してくれ。その者がモードの婚約者だな。早く紹介しろ」
「第7子、モードの婚約者のティアと申します」
お父様はそう告げてから、お父様の手にかけているわたしの手にもう片方の手を合わせる。見上げると優しい瞳で頷かれる。
ご挨拶する時がきたようだ。
「国王陛下にご挨拶申し上げます。お初にお目にかかります、ティアと申します」
わたしはカーテシーを試みる。
「面をあげよ」
ゆっくり顔を上げると、少しの段差の上のゴージャスな椅子にお二人が腰かけられている。多分陛下と王妃さま。陛下は蜂蜜色の髪に蜂蜜色の瞳。甘いマスクだけど眠れる獅子という感じ。王妃様はミルクティー色の髪に紫色の瞳だ。そしてその横にキラキラの男性が横にズラっと並んでいて、面白そうなものを見るみたいにわたしを見ていた。多少色に差はあるものの、これだけ蜂蜜色の髪に蜂蜜色の瞳が揃うと……ライオンがいっぱいいるみたい。その勢揃いしたライオンが興味津々にわたしを見ている。
な、何事。
王妃さまの隣の隣に立っていた、猫っ毛の二十半ばぐらいの男性がプッと吹き出すと、堪えきれないというように、一列に並んだ人たちが笑い出す。
「失礼でしてよ」
王妃さまが扇で手を叩いてそう仰ると、最初に吹いた人が言い訳する。
「失礼しました。目をまん丸にするというのを聞いたことはありましたが、実際には初めて見たので」
そういうと、ますますみなさんが笑い出す。
これはわたしが驚いてみたのが、笑いを呼んでいる、と?
「気を悪くしないでくれ。そなたの可愛らしさに、皆、魅了されてしまったようだ」
ものはいいようだ。
「うちの娘の可愛らしさを堪能されたようですので、失礼させていただいてもよろしいでしょうか?」
「何をいう。まだ何も話せていないではないか」
「うちの末の妹のお披露目もしたことですし、お暇いたしましょう」
反対隣のスタンお兄さんがわたしの肩に手をかける。
「息子や義弟たちの非礼は謝りますわ。お願いだから急いて出ていくなんて言わないでちょうだい。フェアリはお元気でして?」
王妃さまが慌てたように話を繋いだ。
「変わらず過ごしております、王妃さま」
「近いうちに連れてきてちょうだい。あなたたちときたら、領地に籠もってしまって、王都まで全然こないんだもの。話したいことがいっぱいあるのよ。伝えて、お願いよ」
「承りました、王妃さま」
王妃さまはにっこりと微笑まれる。お美しい。
「ティアさんはどちらの出身ですの?」
きたー! お父様がわたしを見て頷くので、わたしも頷く。
「恐れながら王妃さまに申し上げます。わたしは『篭り花』でございます。故に出身地を申し上げることができません」
これには王妃さまも、王様も、ニヤニヤ笑いを浮かべていた王族の方々も驚いたような顔をした。
「そういう理由であったか」
王様がそう言って、顎をしきりに撫でている。
篭り花というのは、王族の隠すべきことを知ってしまい、それを秘匿するために誓約魔法がかかっていることを示す。それらに関係することは話せない。
王子の貸しひとつの案件は、わたしが王子の秘密を知ってしまい、それを秘匿するために誓約魔法がかかり、わたしの一切合切をお話しできませんよーとすることだった。
ちなみに命を懸ける誓約魔法はガチでかかっている。誓約魔法とは命を懸けた誓いとなる。誓約を破ると命を落とすので、破れないように魔法がかかるのだ。無理に言おうとすると命を落とす。その王子の秘匿することというのは、聖女召喚しました!というもう周知の事実になっているものなので、わたしがそう話しても秘密を暴露はしていないのでカウントされない。だから鑑定とかかけられればわたしは王家の誓約魔法がかかっている状態だけど、実際はもう秘匿されていることはないから何を口にしても魔法がかかることもないし、何かしらの方法で話させられることがあっても命を持っていかれるようなこともない、何の問題もない状態である。でも、どんな内容のものなのかは誰もわからないので、そう言えば、王族に対しても黙りできるというわけだ。
「ローディング家は、ハーバンデルクの護り人だ。末子に素性のしれない者が婚約者となったとあり、悪いが少々調べさせてもらった。ところが最近の動き以前からは全く情報があがってこない。それがおかしいと思ってな、出向いてもらったのだ。篭り花なら納得だ。ああ、そうか。アルバーレンの篭り花なのだな」
バレた。まぁ、奴隷騒動でカイル王子と一緒に行動してるのは周知の事実だしね。
「その通りでございます」
そこは認めておく。篭り花なので、答えられることは多くなく、王様たちも引き伸ばしてもしょうがないと思ったんだろう。わたしは退出の許可が下りて、前侯爵と侯爵と話をしたいから、しばしふたりを貸してくれと言われた。
お読みくださり、ありがとうございます。
211211>男性人→男性陣
誤字報告、ありがとうございましたm(_ _)m
220104>一部の隙なく→一分の隙なく
誤字報告、ありがとうございましたm(_ _)m




