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召喚に巻き込まれましたが、せっかくなので異世界を楽しみたいと思います  作者: kyo
第3章 正解はありますか?

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120話 帝国の聖なる娘(下)

 カイル王子とルークさんは、わたしがギルマスやトーマスとアルスにひっそりと会う機会を作ってくれた。


 ラオスは帝国の皇太子と身分を明かした上で、3人をこちらの大陸まで招待したそうだ。ディアンorランディのことで話があるとわたしを餌にして。


 ギルマスは見るたびに大きくなるなと豪快に笑ってくれた。わたしは感謝を伝えたけれども、どんなに言葉を尽くしても足りないと思った。モードさんとも親交を温め合い、大陸に戻ったら一献やろうと約束をしていた。



 メイドさんたちがお茶とお菓子を置いて出て行った。中には事情を知る人だけだ。


 もう、いいよね?

 わたしは両腕を広げてトーマスとアルスにまとめて抱きついた。


 アジトで別れてから半年は過ぎている。成長期の男の子たちはニョキッと大きくなっていて、年は変わってないはずなのに、わたしと同じぐらいの身長だ。トーマスはわたしより大きいかも。しがみついたまま、ふたりにお礼を言う。


「昨日はありがとう。それから、話さないでいて、ごめん」


 ふたりは返事の代わりに、わかっていると言いたげにギュッと背中に回した手に力を入れてくれた。

 落ち着いてしっかり向かい合うと、ふたりはこの半年で大人っぽくなっていた。大人というか男っぽくって言った方が正しいかな。


「可愛い格好をして。どこから見てもお嬢様だよ」


 アルスが褒めてくれるけど、正装したふたりの方がカッコイイ。ジャケットを着て、スカーフタイをしている。きちっとした格好をしていると、貴族みたいだ。


「昨日もだけど、ふたりの方がカッコイイよ」


「泣くのを堪える顔は大きくなっても同じだな」


 トーマスに目尻を拭われる。


「こんな大きくなって変な感じ」


 アルスに頭を撫でられる。ふふ。ふたりの温かさは変わらない。


「みんな、元気?」


「ああ、変わらずだ」


 よかった。


「17番目の知り合いって、君本人だったんだね」


 アルスに言われて頷く。


「竜人さんが行った?」


 アルスはトーマスと顔を合わせる。


「ソングクとマッケンが慌てふためいたよ。でも17番目の知り合いの紹介だから頑張ってる」


「ゼノさんって商人もお前関係か?」


「ゼノお兄さん? ゼノお兄さんはモードさんのお兄さんだよ」


「竜侯爵だったのか」


 竜人さんもだけど、ゼノお兄さんや、話を聞くとなんとなくウォルターお兄さんではと思えるような魔術師さんなどがスラムを頻繁に訪れているようだ。


「お前も、会いたい人に会えたんだな」


 わたしは頷く。


「お前、竜侯爵が相手なんて大丈夫なのかよ?」


「モードさんはモードさんだから」


 わけのわからない答えをして、チラリとモードさんを見る。

 トーマスは微笑んでくれた。

 鼻を摘まれる。


「わかりやすいけど、一応恥じらって。お前本気なんだな、あの人に」


 トーマスが顎でモードさんをさす。

 わかりやすいとか、一応恥じらっているとか、そんなとこまで読まれて動揺し。

 好意を示してくれたトーマスになんと言っていいものかわからなかったが、わたしを認めてくれた人だ、心のままに正直であるのが一番な気がした。だから、決意を込めてしっかりと頷く。


「そっか。……いつも幸せでいろよ。……お前が不幸な時は不幸の元を俺がぶっ飛ばしてやるからな」


 トーマスも頭を撫でてくれる。

 トーマスはモードさんに向かっていく。


「おじさん」


 26歳のモードさんが13歳から手痛い洗礼を受けている。


「なんだよ、ガキ」


 応戦した。


「あんただろ、ティアをべったべたに甘やかしたヤツ」


 モードさんはわたしを見た。


「甘やかしたつもりはないが?」


「無自覚か? あんたがこいつが無謀なことしても止めずに全部やらせて、そのうえで守りきったから、こいつはなんでも自分でできてるって思い込んでるんだよ」


 酷い言われようだ。アルスが気にするなって感じにわたしに笑いかける。


「無謀だったか」


「ああ、一番弱いくせに、いつも守ろうと飛び出していくんだ」


 トーマスは力強くモードさんを見る。


「そんなふうにしたのはあんたなんだから、これからも完璧に守ってくれよな。俺たちの大事な妹なんだ」


 モードさんは頷いた。


「……ああ、約束する」


 お茶会の後、トーマスもアルスもラオスとは話していないという。オーデリア大陸に帰る手筈を整えたのはソレイユだそうだ。来る時は魔術師の転移で来たが、帰りは船旅となる。アルスとトーマスは、その時に少しだけソレイユと話したと言う。


 ソレイユはお前を擁護する側なんだな?と確かめられる。そういえば別れた時はソレイユに連れて行かれそうになっていたんだっけ。なんかいろいろあって、ずいぶん昔のことみたいだ。

 トーマスとアルスに逃してもらってから、ソレイユは追いかけて来なかったし、こちらの大陸で困っていたときに、偶然会って助けてもらったと話した。


 あの日、トーマスとアルスがあの場に現れたのは、ナッシュとケイから教えてもらったからだという。前日の仕事帰りに大人とソレイユとラオスが話しているのを聞いたそうだ。わたしが承諾しなかったら合図を送るから、怪我をさせないよう捕らえよと言っているのを。ふたりは迷いに迷ってボスと副リーダーに相談した。他のみんなにはその話はしていなくて。話を聞いてしまったナッシュとケイにはあの時のことを話し、逃げたわたしを心配しているから、ソレイユとは和解したことを告げていいかと聞かれた。わたしはもちろん頷いて、ふたりに助かったとお礼を言って欲しいと頼んだ。ちなみに、わたしが逃げた後、ソレイユは引いたそうだ。トーマスとアルスに言われたことが堪えたみたいだ。これはアルスの感想だけど、ソレイユは国を大切には思っているけれど、王族の心構えをあまりよく思っていなくて、よく思ってない王族の域から自分が出ていないことに気づいたんじゃないか、それで茫然としたまま、自分が絆を壊した痛みを耐えているみたいになって、そのまま別れることになったそうだ。


 みんなに食べて欲しかったふわふわパンを渡すことができた。その他、ハンバーグとオムライスをみんなの分作っておいたので、それも渡した。

 持ちきれないというのでバッグは?というと逆に怒られた。あんなの使ったら周りに即バレしてわたしが目をつけられてしまう、と。だから、アジト共有のは使っているけど、それぞれのバッグは封印しているそうだ。いずれダンジョンに行くことになったらダンジョン産ということにして少しずつ解禁していくという。わたしは既成のバッグをマジックバッグにした。ごく小さいものだ。それに諸々食べて欲しかったご飯を入れて、持って帰ってもらうことにした。みんなやモードさんの分は、いつもなんとなく作っていた。いつか食べてもらえるといいなと思って。


 壮絶に淋しくなったがトーマスとアルスともそこでお別れをした。わたしが船旅をしても話せる状態でなくなるのは想像がついたし、あんな気持ち悪いのはごめんだったので、わたしは黄虎に乗って帰ることにした。

 アジトには、何年かしたら必ず会いに行くと約束した。




 アジトのあったセオロード王国は10年後セオロード国となる。オーデリア大陸初の共和制の国となり、以降の共和制のモデルとなる。なぜそこまで支持されたかは王政の幕引きがあまりに見事で、そして最後の王が共和制に、そして代表者に協力を惜しまなかったからだろう。


 最後の王は先祖返りした見事な赤毛で、幼少時は不義の子として王宮から追放されたという。追放されたにも関わらず、幼くとも彼は生き延び、それどころか錬金術で貧しい人たちを助け、人々から慕われていった。腐り切った王宮の王子たちより、民衆は近くある彼に王を求めた。大きくなるに連れて、顔立ちが王とそっくりだったこと、代々の王と似通っていたので有名になり、彼の素性は調べ上げられすぐに立証された。諍いがあったわけでもなく、血生臭い何かがあったわけでもなく、彼はまるでそれが自然で運命だったかのように、王へと収まった。彼が20歳の時だ。そして彼は宣言する。王政ではなく、自分たちで考えて自分たちで作る国にしよう、と。3年後、彼は宣言通り王国を国にした。


 最初の代表者、トップになったのはスラム街出身の王と同い年の若い青年だった。彼は人の意見をよく聞き、まとめ、采配し、国をまとめた。3年ごとの投票制の代表者であったが、彼が一番長くの時を治め、そしてその任期が一番平和で栄えた。学のないものがと最初は彼を貶める(やから)もいたが、未来を見通す目の確かなこと、大陸を越えて多くの横との繋がりがあり、結果を出していったので悪い感情は持たれなかった。確かに学舎(まなびや)で学ぶことはなかったが、彼は多くの王族や様々な種族と知り合い、その手腕、(まつりごと)を自分の目で見てきた。彼は人好きされることもあり、王族も他種族の者も彼に教えることを厭わなかった。それにより学舎で学ぶよりよほど生の政治を見て学び、それを役立てることができた。


 時を前後して、セオロードのトントという街のスラムのことは世界中で知られることになる。どこまで本当かはわからないが、スラムでの少年期の様子を書かれた本が世界中で読まれたからだ。


 その物語が夢物語か事実なのかは度々論議になる。物語では倒れた魔物の報酬で土地を買ったことなど事実が盛り込まれている。ただ、その時いた少年たちなら16人のはずだが、物語では17人目の少年が存在する。文字の17番目の「Q」からとった「クゥ」と呼ばれる少年はスラムに多くの恩恵をもたらす。スラムの子供たちにあり得ないような人脈を生み出し、奇跡のようなことを度々巻き起こす。この少年の存在により、架空話なのではとの見方が濃厚だ。


 スラムの少年たちは成長し、やがてその才能を発揮した。作家、料理人、デザイナー、音楽家、商人、役者、高ランク冒険者、飾り職人、魔具の開発者。近隣では本が出る前から自立したスラムの子供たちのことは有名だったので、スラムへ子供を捨てる人が続いた。そこでなら捨てた子供が生き延びられるのではと思われたからだ。彼らは子供だけでも自分たちで生きていけるように、未来を選べるシステムを作り上げていった。セオロードの最後の王と最初の代表者もこのスラム出身なことから、トントのスラムは脚光を浴びることとなった。




 ソレイユとは手紙でやりとりをするようになった。ソレイユは近くでラオスを手助けしたかったようだが、自分が近くにいると、いるだけでラオスの脅威となることを知った。変なことを吹き込む人が出てくるのを防ぐため留学という形でアルバーレンに来ている。


 わたしを巻き込んだ帝国の聖なる娘なんたらも、どうやら変な入れ知恵をラオスにした人がいるようだ。奴隷狩りの件でソレイユの株が一気に上がったことから、危機感を持ったところに囁かれたらしい。帝国に聖女を呼び込めば確実に民の心を掴めると。聖女の子を匂わせばいいと。成長したわたしの姿を見たラオスは、4つの属性だけでなく、わたしが他にも何かを持っていると思ったようだ。ちょうどよくその場にいたし、祭り上げるのにわたしはもってこいだった。急な成長、不思議な娘と印象付けるために、わざわざオーデリアから証人を連れてきた。アジトからトーマスとアルス。それから前からの知り合いらしい、トントの街に来たことのあるギルマス。そのギルマスの近辺を調べてみれば、出てくる少年はランディよりもっと小さな少年だった。わたしに何らかの力があることを確信した。


 お茶会でそんな茶番をするつもりだったが、先にソレイユを陥れ、ソレイユを後ろから操る女でわたしが引き合いに出されてしまう。そちらはすぐに捕縛して片はついたものの、わたしとどういう関係があるのかはわからないが、アルバーレンの王太子を怒らせてしまった。本当はもっと芝居がかったことをして、わたしを巻き込もうと思ってたみたいだが、帰ってしまいそうな勢いだったので、王子に返してくれと直球勝負に出たらしい(ルークさん調べ)。


 権力の一声というのももちろん力はあるが、民衆の思いがひとつになると、とんでもない威力を発揮するそうだ。もし、ラオスの仕掛けた大掛かりな茶番を民衆が信じたら、思いがひとつになっていたら、わたしは帝国の聖なる娘として囲い込まれただろうと、怖いことを言われた。



 そんなことを言われると、ものすごく怖くなるじゃないか。すぐにオーデリアへ帰るつもりだったのだが、場所を変えて、またお屋敷に籠ることになった。


 わたしは帝国と折り合いが悪いらしい。

 ソレイユを陥れようとして捕まった関係者の身内からの襲撃にあった。こちらの関係者やその身内にわたしの(めん)が割れたのも、ラオスにバレたのも、ソコンドルの王に詰め寄ったあれを見られたかららしい。その襲撃の調書などでさらに留まることとなった。


 わたしはいつも間違える。でもあの時は夢中で。もし時が巻き戻ったとしても同じことをしてしまう自信がある。

 アークのことだって、もっと、何かいい方法があったかもしれない。


「何が正解だったんだろう? 正解ってあったのかな?」


 窓の枠に腰掛ける。さすが王子、別大陸でも隠れ家が複数ちゃんとある。襲撃があった家にはいられなかったので、別のお屋敷に来た。それでも用心して、外に面した窓には近づいてはいけないとされている。だから数ある部屋の中で中庭方面に窓があるこの部屋でしか窓には近づくことができない。


 モードさんが独り言を拾ってくれる。


「何が正解か、正解があるのか、それはわからないが。お前は道を間違えたから、16人の家族を得ることができただろ?」


 まさしく、それはそうだった。あの時道を間違えなかったら、わたしはアジトのみんなに出会えなかった。


 モードさんが窓際に移動してくると、部屋のほぼ真ん中でお昼寝していた黄虎が片目を開けた。モードさんの動きを確認してからまた目を閉じる。その黄虎の背中ではミミは丸くなり、クーはおへそを天井に向けて眠っている。愛らしい情景に笑みがもれる。


「そんなふうに、何か間違えることも、例えば道なら行きたい場所とは違うところに行き着くが、新しい何かに出会うことでもあるわけだ。俺もなんていっていいかわからないけど、正解とか間違っているとかは大した問題じゃないんじゃねぇかと思う。正解だった時に、間違った時に、どう行動してなにを得るか、そっちが大切って気がするんだ」


「そっか。確かに」


 わたしたちはよく間違えもする。

 その時にどう行動するか。そして結果、何を得ることができるか、そちらの方がずっと大切だ。


「お前は例え間違えたとしても、考えて、行動した。その結果、困った時はみんなが助けてくれている。それが間違いがあったとしても、お前が得たものだ」


 本当だ。わたしはみんなに助けてもらっている。黙っていたり、明かせていないことさえあるのに、みんな助けてくれた。それは……わたしが確かに手にしたもの。

 間違えたと思った時、失敗したと思った時、両手で掬い上げた砂が隙間からサラサラこぼれ落ちていくような気がした。……何も無くなってしまったと思えたこともあるけれど、いくつかの砂つぶは手に残っていたのかもしれない。風に舞いあがり飛ばされてしまいそうな砂つぶだけど、確実に。

 

 そう、それに道が続いている限り、わたしたちは間違っても何度もトライすることができるのだ。例えば道なら、もう一度行きたかったところを目指せばいい。

 もし、一度で、一回の失敗だけでもう終わりなら。

 正解でないのは間違いと決まっているのなら。

 1度目にモードさんに振られていたところで終わっていた。チラリとモードさんを盗み見る。


 窓を開けると、少し冷たい風が吹き込んできた。陽が当たっているから、気持ちいいくらいだ。目を瞑って風を感じる。少し強く吹いて、髪が乱れて唇に当たる。髪を払おうとして、窓枠に重心を置いてた手が滑った。ガクッとなりそうになったのを、モードさんに捕まえてもらってことなきを得た。


「ありがとう」


 わたしは立ち上がって窓を閉める。風がけっこう強かった。黄虎たちを起こしてしまう。


「髪、食べてるぞ」


 自分で直そうとする前に、モードさんの手により、口に入った髪が後ろに払われる。


「モードさん、素早い」


 言うと笑われる。


「お前、敏捷性いくつだ?」


「5になった」


 すごいでしょうと胸を張ったが褒めてはくれない。


「5、か」


 ホリデのダンジョンでカバを倒した時にアップしたのだ。


「5にアップしたんだよ、すごくない?」


「すごくない」


 軽い調子で否定された。

 悔しいので軽いパンチを繰り出したら、避けられた。


「Aランクが敏捷性5の攻撃を避けられないと思うのか?」


 口の端を意地悪く釣り上げたので、思わず言ってしまう。


「だって、この前……避けられなかったじゃん」


 敏捷性5のわたしに唇を奪われたくせに。


 モードさんがふと真面目な顔になった。


「あれは避けられなかったんじゃない、避けなかったんだ」


 ?


「なんで避けなかったの?」


 聞いてから、え?と胸がドキドキしだした。


「……今、お前が考えたことで合ってる」


 ええっ、そうくるか。


「合ってるかちゃんと、モードさんの言葉で聞きたい」


 ドキドキする胸を押さえて、踏み込んで聞いてみる。


「避けなかったのは、……避けたくなかったから」


 モードさんが一歩、わたしに近づく。


「お前からの口づけを……受けたかった」


 !


「受けて……喜んだ自分がいた」


 !!


「俺はお前が3歳の姿から見てるんだからな。風呂に入れてやって、メシを膝の上で食わせて。あやしながら一緒に眠った。夜泣きしているのをギュッとして泣き止ませた。未だにそれを覚えているのに……。

 別れた時は9歳の子供だったのに、再会したら、8ヶ月しか経ってないのにお前は女になってて。話せば俺の知ってるティアなのに、姿を見るとティアじゃないみたいで混乱した。お前は以前みたいに全身で信頼を寄せてくるし。俺はただの保護者だって自分に言い聞かせた。それなのにお前は恋愛対象になれるかだの言ってきて。少し待てと言ってるのに、さっさと自立して離れていこうとするし。慎重に確かめれば、噛み付いてくるし。……成長したお前に欲情したのは、結構、衝撃だったんだ。そういう性癖があったのかと思ってだな」


 頭を掻く。確かにモードさんにしてみれば、自分のロリ疑惑に翻弄されたのだろう。


「誤解するなよ。小さいお前に欲情はしてないからな」


「知ってるよ」


「けど、そうとも言い切れないか。空の庭園に行ってわかった。俺は最初から完全にお前に参ってたんだな。俺の命よりお前の方が大切だったから」


 なんか、ふわふわする。

 夢、じゃないよね?


 もう一歩、モードさんが近づいてくる。


「今度は俺のターンだな」


 モードさんがわたしの後ろの窓枠に片手をついた。屈んでわたしの顔に顔が近づく。澄んだ色の瞳と目が合う。熱を持ったような瞳がわたしを捉えて、わたしは目が離せない。


 ゆっくりと近づいてきて、あと7ミリで鼻先が触れ合うところで止まる。

 顔の角度を少し変えて、わたしの瞳をじっと見る。一瞬、啄むようにキスをして、わたしの反応を確かめるようにしてから、今度はゆっくりと優しい唇がわたしのそれと重なった。


<第3章 完>



読んでくださり、ありがとうございます。




どん底から始まり、精神的にアップダウンの激しい章となりました。

想いが通じたハッピームードの中、第3章、完結です。

念願のもふりタイムを入れられて、幸せでした。

ここまで、拙い物語にお付き合いくださり、ありがとうございました。


物語は最終章となる第4章に突入します。

ただ流されてそこで生き延びるのが精一杯だったのが、

少しずつ、何がしたいのか、何が好きなのか、何ができるのか

考えることができるようになってきました。

王子は何のために聖女召喚を企てたのか。

それを知った時に、何を思い、何を考え、何を得るのか。

見守っていただければ幸いです。


訪れてくださること、読んでいただいていること、

ブックマーク、評価、感想、誤字報告に支えていただき、

ここまで書くことができました! 感謝、感謝です!!

重ねて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。


第4章でもお会いできたらとても嬉しく思います。

kyo拝



211130>アルバーレンの皇太子→アルバーレンの王太子

誤字報告、ありがとうございましたm(_ _)m


211202>間違え→間違い

あー、これ絶対またやる。学生の時にも指摘されたのに;

誤字報告、ありがとうございましたm(_ _)m


211205>時を納め→時を治め

誤字報告、ありがとうございましたm(_ _)m


211207>この少年の存在で、架空なのではとの見方が濃厚だ。→変更

ご指摘ありがとうございました。修正してみました。

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